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ASTRO ARENAがフロアだけでなく客席部分も満杯になろうかという光景も、そうそうお目にかかれるものではない。開演時間が近づくにつれ増える一方のオーディエンスに、彼等に対する期待値の大きさを改めて感じ入る。
というわけで、場内が暗転し背後のスクリーンにバンドのトレードマークが映しださされただけで、場内はたちまちの大歓声。内澤崇仁(Vo/G)があどけなさを残す声で開口一番「andropです」と宣言し、始まった楽曲は“Glider”。まずは軽快なナンバーで、オーディエンスに軽い挨拶を施していく流れだ。続く“ShowWindow“でも、なかなかに凝ったアンサンブルを、メンバー全員、涼しい顔で飄々と演奏しているところが憎く、新世代らしい音楽的な基礎体力の高さを証明する瞬間。
「今日は最後までよろしく」という簡単なMCに続いて始まった“Bright Siren”は、捻じれたメロディーとギター・リフが心の影を描き出すナンバーだが、そんな曲でもどこか透明感のあるサウンドと、愛くるしいメロディ癖があるのが面白いところ。バンド・サウンドのエネルギーでこちらの身体は心地よく火照っているのだが、そのくせ脳内には甘美な余韻が残るところが彼等の音楽の特徴で、それがライブでも遺憾なく発揮されているところに大きな可能性を見る思いがする。場内もエモーショナルなエネルギーで盛り上がるというより、雄大なリズムやメロディーの波間をたゆたうような楽曲のバイブスに身を任せているふうで、場内も実に穏便な空気に満たされていく。
しかしながら、後半は彼らが狂暴なロック・グルーヴも併せ持った多面的バンドであることを証明する時間。ドラムとベースによるインタープレイから始まった“Colorful”からは、いきなりアグレッシヴになったリズムに乗って、ギターのトーンもヒステリックな色に変貌。場内いっぱいに振りあげられた腕の動きも、急激に忙しいものへと変わり始める。驚いている間もなく“Roots”“MirrorDance”と、しなやかなリズムを持ったダンス・ナンバーの連発で持ち時間をあっという間に駆け抜け、あっけらかんとした佇まいでステージを去って行った彼等。“もっと見たい”という気持ちをオーディエンスに確実に残した、今後のさらなる飛躍を予感させる充実の30分だったと思う。(小池清彦)