「もう始めてもいいんでしょうか?」――。サウンドチェックを終えたミトの、そんな“素”の言葉をきっかけに、SEもなく、掛け声もなく始まったクラムボンのライヴ。けれど、その後に何気なしに鳴らされたアンビエントが一気にレイク・ステージの空気の色を変えてしまった。1曲目は、ディレイのかかったキーボード、ギター・アルペジオ、そして伸びやかな原田郁子のヴォーカルが響きわたる “id”。フィールド前方では、誰かが吹いたたくさんのしゃぼん玉が風に吹かれて舞い上がっていく。空は綺麗な青色。日は高くから照っているけれど、湖からの涼しい風が吹き抜けていく。まるでクラムボンの音の世界が空気に染み渡っていくように響いていた。気持ちいい。お客さんたちもそれを堪能するように身体を揺らして聴きほれている。 「気持ちいいね」――。原田郁子のささやき声のMCをはさんで、“コントラスト”、“ミラーボール”。そして現在CMソングとして流れまくっているキラー・チューン“サラウンド”の歌声が聴こえると、人で一杯のスタンディングゾーンにさらにお客さんが集まってきた。続けざまに“シカゴ”のリズミカルなピアノとしなやかなビートで、大盛況のフィールドさらに沸かせる。 クラムボンの3人は、これまで3日間出演してきたどのアーティストよりもステージの上で“自然体”だった。気負わず、気張らず、まるで「音楽の中にいることの気持ちよさ」を自らが一番堪能しているかのような演奏だった。考えてみれば、彼らが音響的な先鋭性と親しみやすいポップ・センスという両軸を常に保っているのも、ピアノ・ベース・ドラムという3人の形態でありながら、どんどんと自由なサウンドのフォームを切り開いているのも、そういう意識がきっと根底にあるんだろうな、と思う。 そしてそんな空気がさらに会場中に広まったのは、次の“Folklore”。ゆったりとしたテンポの上で、原田郁子とミトの二人がサビのメロディをそっと歌う。「♪ラーラーラーララーララー」と言葉はないけれど、まさにタイトル通り何百年も伝承(=フォークロア)されてきたかのようなスピリチュアルな旋律で、その合唱はスタンディングゾーン全体にまで広がっていった。 そして、最後は8月末にソロ・デビューする原田郁子のデビュー・シングル“たのしそう かなしそう”。ほんとはソロの曲なのに、バンド・アレンジでさらっとやってしまうのも彼ららしいところ。チャーミングな楽曲を楽しそうに演奏して、3人は帰っていった。クラムボンのサウンドの「浮力」でレイク・ステージの空気をふわっと持ち上げたような、あっという間の40分だった。(柴那典) 1. id 2. コントラスト 3. ミラーボール 4. サラウンド 5. シカゴ 6. Folklore 7. たのしそう かなしそう |
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