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風が吹き始めたグラス・ステージ、相変わらずのじりじりとした暑さの中で待っていると、ほかのバンドメンバーに遅れて宮本が登場! 2,3歩進むと立ち止まって会場を睥睨する。そして中央で再び立ち止まってニラミをきかせている。気合い十分だ。 
いきなりのフルスロットルで1曲目“パワー・イン・ザ・ワールド”!! サポートのギタリストとキーボードを入れた6人編成で、曲の終盤にギターソロが炸裂する頃には演奏でも歌でも完全にみんなを飲み込んでしまう。続けて始まったのは新曲“平成理想主義”である。タンバリンを腰に打ちつけながら宮本が「アイ・ライク・ロックンロール!」と叫ぶ。最新作『扉』で切り開いた独自の歴史ロックの世界を踏まえたブルースな歌い出しから、やがて『ココロに花を』あたりの曲を連想するような美しいメロディーへつながっていく。
勢いに乗ったまま走り出した富くんを「オオッ!」と叫んで止めて、大きく宮本がカウントを刻み直して始まった新曲連発の3曲目“達者であれよ”は遠くの友に向かって捧げられるメッセージ・ソングだ。さらに新曲3連発目の“友達がいるのさ”はついに難解な言葉も怒号もなく、明日へと歩いていくためのかなりメロウな名曲である。「東京中の電気を消して~」というゆるやかな歌い出しに、こういうモードの宮本を僕は久しぶりに見た気がした。エレカシは『扉』の向こうで、新しい叙情性を、そしてみずみずしいメロディーを見つけたのだろう。これは完全に新しいモードだ。みんなも体を揺らして素直に反応している。そして自己紹介のMCを挟んで……“悲しみの果て”!! エレカシ屈指の名曲にみんなが声を上げ、歌っている。いいな。
ここからにわかに雰囲気が変わって“歴史”“化ケモノ青年”という『扉』ワールドを象徴する2曲が続く。作家の森鴎外、そしてバケモノ青年というふたりの主人公を中心にした破天荒で重厚な宮本の物語が何の遠慮もなくステージ上に暴れまわる。空気の変化に圧倒されつつも、みんな拳を振り上げて答えていく。そしてこれに続くのは……“ハロー人生”、“どこへ?”だ!「俺の生きかた」のマニフェストに満ちたパンクな言語感覚とソリッドなバンド・サウンドが気合いの上に気合いを、熱気の上に熱気を重ねていく。聴いている自分の内部ののテンションもレッド・ゾーンに突入していく。熱い。
続く“生命賛歌”でも宮本の気合いだけが空回りすることはなく、増強されたバンドのアンサンブルにきっちりと支えられている。「俺はこの土地が好きだー!」という叫びにみんなが答え、今日はもう、言うことなしの安定感だ。そしてMCかと思われた宮本の言葉は……「おまえ正直に言って日本の現状を……」 “ガストロンジャー”!! 日本人として歌うこと、そしてロック・バンドで闘うことの意味を徹底的に暴力的な形のままぶっぱなす問題曲が、今日はみんなに共有されるべきものとしてグラス・ステージに鳴っている。すごい。「おまえら最高だったぜー!」と言い残して宮本は去った。そしてこの上なく幸福に見えた。ありがとう。(松村耕太朗)

1. パワー・イン・ザ・ワールド
2. 平成理想主義
3. 達者であれよ
4. 友達がいるのさ
5. 悲しみの果て
6. 歴史
7. 化ケモノ青年
8. ハロー人生!!
9. どこへ?
10. 生命賛歌
11. ガストロンジャー