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レミオロメンの3人が鮮やかに幕を切って落した2日目のグラス・ステージ、1日目よりも確実な急ピッチで上昇する気温の中で登場する2発目のアクトは…、一青窈です! バンドの登場後、聴き慣れた“もらい泣き”のイントロの後に、彼女はホルターネックで黒い膝下丈のワンピースに……白いハイヒールを履いて歩いてくる。(今日は裸足ではない!) アコギのフレーズが強調されてより暖かみを増したサウンドに乗せられる「ええいああ~」は涼やかに、たっぷりの感情を風に乗せて運んでいく。
「やさしいのは~ここにいるみなさんです!」そういって歌い終わると一青窈はぴょんぴょんと跳ねた。楽しさが伝わってくる。続く“月天心”“イマドコ”と、伸び伸びと発せられる彼女のオーラを、みんなが体を揺らしてまっすぐに受けとっている。彼女の魅力はなんといっても艶のある声と、あくまでも自然体で表現される国籍や文化のはざまの世界観にある。彼女が楽しいのだから、歌がいいのは当たり前だ。スカートの裾がそよそよと揺れる。綺麗だなあ。
「こんなにたくさんの人の前でやるから、はりきって靴履いてきたら、歩きにくくてさ…」と言いつつも、ヒールは脱がずに“いろはもみじ”“心変わり”。彼女が書く恋の歌詞はいつも日記のように具体的な物語の断片なのに、それを高度な歌謡曲として歌い上げることで不思議な浮遊感が生まれていく。パーカッションとキーボードを交えたオーセンティックなバンドの演奏も、心地良く柔らかに彼女の世界を支えている。
井上陽水作曲の“面影モダン”に続いて“江戸ポルカ”。「ててとてとてとしゃん~」という必殺の子音フレーズがステージを見守るみんなに軽快なリズムを刻ませている。情念だけでも十分に勝負できる歌唱力を持ちつつも、軽妙な詞で楽しませてくれる彼女のセンスにはいつも脱帽だ。
次はハードロック風のギターソロに支えられて、「犬になりたいよ」と片思いの感情を爆発させる“犬”、ここでついにヒールを脱ぎ捨てると、彼女はとたとたとステージを駆けた。そして最後は「君と好きな人」が百年続くことを祈る名曲“ハナミズキ”。彼女はこれでグラス・ステージを完全に祈りのムードに包んでしまう。この曲が素晴らしいのは、彼女が自分自身をとりまく物語を超えて、より大きなスケールの歌を歌うことを初めて引き受けた曲だからだ。歌い手としての深い覚悟が彼女にはもう、生まれているのだと思う。そしてヒールを履きなおした彼女は、「ありがとう」と手を振って去った。ステージには彼女の余韻だけが残っていた。(松村耕太朗)

1. もらい泣き
2. 月天心
3. イマドコ
4. いろはもみじ
5. 心変わり
6. 面影モダン
7. 江戸ポルカ
8. 犬
9. ハナミズキ