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バンドが姿を現す前から、オーディエンスがハンド・クラップを打ち鳴らして登場を待ち侘びている。そして満を持してSOUND OF FORESTに降臨、泉谷しげる! 「うあああああ! また呼びやがってー! もう2度と出ねえって言っただろう!」と吼える。吼えるが、今年も見てのとおりの期待感に満ち満ちたオーディエンスが、それを許さないということなのである。骨太なバンド・サウンドに乗って、オープニングは即興の歌詞が炸裂するその名も“RIJF2010のテーマ”でオーディエンスを迎撃だ。《最終日だぞう!》とか、バンド・メンバーを紹介しつつイジリ倒す盛り上げナンバーだ。

エモーショナルでブルージーなアンサンブルがザクザクと決まる“眠れない夜”の後、御大はスタンド・マイクで“Y染色体のうた”を歌い出した。男の悲哀をつらつらと歌いながらも、ブギーな曲調に盆歌のようなトボケたメロディなので、どこか泣き笑いのようでもある。《ワーイワーイ染色体》のコーラスで、御大が両手でYの字を描き出すのを、オーディエンスが真似る。救いのない歌だけど、まるで盆踊りみたいで楽しいなあ。「俺は男の味方だよ!」とメッセージを飛ばす御大であった。

「3時間半のステージもいよいよ大詰めでございます! ……うるせえ! 俺だって頑張ってるんだよ! 1曲やっただけで十分なんだよ! 来年も……いや、あんまり無理して呼ばなくていいけど」とミスター表現の自由。ここでダイナミックに叩き出されるのは“春夏秋冬”だ! 年輪を重ねるごとに味わいを増してゆく御大の大名曲。この曲のコーラスを御大は「自分たちのために歌え!」とオーディエンスに預けた。泉谷しげるの歌い続ける意味そのものが、若いオーディエンスに託されたように思えた瞬間だった。

そしてラストもこれまた大名曲“野性のバラッド”! ここではもはや何も言わずともシンガロングが広がる。わざわざエネルギッシュに鳴らされる演奏を止めて「おい後ろ! 何ボサっと見てやがるんだバカヤロー! なんだこの成金ロック・フェスは! おい、渋谷陽一!」と辺り構わず喚き散らしている。「後ろ、お前らジャンプしながら歌って貰うからな!」と演奏を再開させ、大喜びのオーディエンスとともに永遠に続くかのようなシンガロング大会を繰り広げられたのだった。最後に、歓喜の中でステージを去る間際、御大はこの言葉を残していったのである。「おい渋谷、今日のところはこれぐらいで勘弁してやらあ」。(小池宏和)