メニュー

おそらく1日の内で最も暑いであろう時間帯に登場したplenty。周囲の森ではセミたちがやる気満々の勢いで鳴いている。しかし、彼らの演奏が始まるや否やすっかり曲の世界に引き込まれ、セミの存在も暑さのこともすっかり忘れてしまった。青空に向かって壮大に響き渡っていった“待ち合わせの途中。” 江沼郁弥(Vo・G)の透明感溢れる歌声が胸に深く迫ってやまなかった“あいという”。江沼の奏でる美しいコード、新田紀彰(B)が放つ躍動感に満ちたベースライン、サポートで加入中の中畑大樹による程良いテンポでビートを刻むドラム……豊かな質感にあふれた3ピースサウンドを堪能した“ひとつ、さよなら”など。楽曲の魅力にとことん浸り切るひと時であった。
それにしても……大半の曲ではお客さんが飛び跳ねたり共に大声で歌ったりするわけでもない。ひたすらサウンドに心奪われながらジッと立ちつくす人々で埋め尽くされているフィールドの風景が独特であった。とてもザックリ表現するならば「静か」なのだが、1人1人の身体と心の内で圧倒的な興奮が渦巻いているのが、肌を通して伝わってくる。ライヴの終盤で江沼がふと「暑くない。全然暑くないよ。汗一滴もかいてないよ……楽しんでますか? 俺は楽しいよ……水が常温なんだよ」など、独特な間を交えつつ話をした時は和やかな笑いが起こり、お客さんたちは我に返った様子であった。しかし、演奏が始まると、再び曲の世界にじっくり浸り切ったフィールド。「息を呑む」という静かな興奮の極みがplentyのステージにはあった。(田中大)