昨年夏にアルバム『GENE』をリリースして以降、a子のリリーススピードがますます加速している。
それはすなわち「聴いたことのないジャンルを作る」というa子の夢を叶えるためのサウンド的冒険が本格化してきたということ。“ときめき”ではモータウンサウンド&歌謡曲メロディを現代にアップデートし、“朝が近い夜”ではインディーズ時代を彷彿とさせるエレクトロニカサウンドを立体感のあるミックスと肉体性のあるボーカルで進化させた。
そして、その冒険は4月23日リリースの“PAPER MOON”でひとつの果実を手にしたように思う。ギターのアプローチはオルタナティブなのに、全体のサウンドバランスはハウスミュージック的な酩酊感があって、ウィスパーボイスとホーンのマリアージュは夢のように甘い。なんとも不思議な音像で、聴いていると耳が前後不覚になってくるのになんだか気持ちよくて、まさに「聴いたことのないジャンル」と言えるかもしれない。
タイトルの“PAPER MOON”とは、紙で作った張りぼての月のこと。憎み合い、奪い合う世界でほんとうに必要なのは《あいまいなつたないあたたかさ》であって、それは張りぼてかもしれないけれど、そんな夢に向き合って生きるのが人間の弱さであり尊さであるということをシンプルな言葉で的確に表現していく。
《待ってる》という歌詞は、メジャーデビューシングル“惑星”でもキーになっているフレーズ。“惑星”のそれも悪い未来さえ受け入れて前に進むという力強さを持っていたけれど、“PAPER MOON”でも《もっとうんざりするくらいに/生きてみる》というアンニュイな生命讃歌に捧げられていて、a子の《待ってる》とは決して受動的な態度ではなく、明るい未来と新しい音楽を手繰り寄せるための強い意志であることを示している。(畑雄介)
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a子の進化が止まらない──新曲“PAPER MOON”にある「不思議な音像」と「強い意志」
2025.04.24 21:00