60年代英国を象徴するミューズ:マリアンヌ・フェイスフルの訃報に寄せて


マリアンヌ・フェイスフルが1月30日に亡くなった。ここ数年は肺気腫や新型コロナ罹患など辛いニュースが多かったが、それでもキャット・パワーやイギー・ポップが参加のトリビュート作『The Faithful:A Tribute to Marianne Faithfull』が2023年にリリースされ、伝記映画『Marianne』が計画されてたりと、相変わらず彼女の歩みに思いを寄せる人は多かった。

60年代UKロックファンであればアイドル時代の彼女を愛聴するに違いない。ザ・ローリング・ストーンズのマネージャー、アンドリュー・ルーグ・オールダムがパーティでみそめデビューさせたのが17歳のときのこと。ミックとキース等が書いた“涙あふれて”がヒットして人気者となり、さらにミックの恋人として注目を浴びるが、キースの自宅にいるときに麻薬捜査の手入れを受け裸姿で捕まったかと思うと、フランスの人気男優アラン・ドロンとダブル主演を果たした映画『あの胸にもういちど』が話題となるなど華やかに60年代を駆け抜けるが、70年代前半は自殺未遂やヘロイン中毒などで音楽活動は停止した。

そんな彼女が復活したのが79年の『ブロークン・イングリッシュ』だった。長年の喫煙や薬物乱用のせいですっかり声質は変わったものの、逆にドスの利いた歌声が別種の説得力を持つようになり、現在も世界中で続くテロや対立解決の思いを込めたタイトル曲や、ジョン・レノンの“ワーキング・クラス・ヒーロー”が入ったこのアルバムは彼女の代表作となった。

そんな彼女が初来日を果たしたのは90年のこと。黒いドレスを着た彼女とギタリストの二人だけのコンサートは、まるで彼女の人生を振り返るかのようなドラマ性に満ちたもので感動的だった。翌日、ホテルでのインタビューで60年代のことを尋ねると「あらゆる経験の結果として私がいる」「もし変えられるのであれば(笑)、お酒とドラッグをやめたでしょう」なんてキラーワードを柔らかな微笑みと共に連発してくれ、終わるとほぼ化粧っ気の無い姿そのままで、「散歩してくるヮ」とホテルの廊下をユラリ歩いていった後ろ姿が今でも忘れられない。合掌。(大鷹俊一)


マリアンヌ・フェイスフルの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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