ステージ転換の度に行った感染対策の呼び掛けは、現場からどうしてもやりたいという声が上がり急遽行われたものだった。MCの内容も現場のスタッフが考えて作った。いつもは僕が内容をチェックするのだが、そうした余裕もなくスタートした。
朝、そのMCが始まった時、僕は「いけない。チェックしようとしたのに、バタバタして間に合わなかった」と少し焦った。予想通り、僕が作るより生々しい言葉で呼び掛けは行われた。一瞬これはどうなんだろう、と思った。しかしMCの後に大きな拍手が起こったのだ。その時、生々しいと感じた自分を恥じた。スタッフのMCは言葉だけでなく、本人の声も態度もリアルで生々しかった。参加者が求めていたのは、これなんだと思った。その拍手はMCが何回繰り返されても最終日まで小さくならなかった。
朝の挨拶でも言ったが、僕が一番心を動かされたのは駅から会場まで歩く参加者の姿だった。前をしっかり向き、ほとんど何もしゃべらず、でも高揚感を持って進む姿は試合前のアスリートみたいだった。参加していない人は何を大袈裟にと思うかもしれないが、参加した人は分かってもらえると思う。
アーティストの発する言葉が、参加者やスタッフをどれだけ励ましてくれたか、それはいくら言葉を重ねても足りないくらいだ。この場所にいることを肯定する言葉、その責任を自分たちがとるとまで言い切る強さ、たくさんの力を僕たちはもらうことが出来た。
一部の不正確な報道に怒りを感じたが、自分たちが大切にするべきことの優先順位に気付き、見える景色が変わった。
僕たちは感染対策をしっかりと実行し、それを参加者やアーティストと共有し、安全なフェスづくりに全力をあげることに集中すればいいのだ。参加者にとって、参加したことを良かったと思ってもらえるフェスにすることが一番重要なのだ。
参加した人にとって強く記憶に残るフェスだったと思う。通りすぎる景色として忘れてしまう人にとってのジャパン・ジャムではなく、長く記憶に残る人にとってのジャパン・ジャムが素晴らしいものになったのは参加した全てのアーティスト、スタッフ、そして参加者の皆さんのおかげだと思います。ありがとうございました。
2021年5月25日
JAPAN JAM総合プロデューサー
渋谷陽一