15年にブロードウェイで大ヒットを記録し、トニー賞11冠に輝いたミュージカルが『ハミルトン』だ。この作品がユニークなのは、アメリカ建国の父のひとりで10ドル札にも描かれているアレクサンダー・ハミルトンの人生を、ヒップホップ(!)・ミュージカルに仕立て上げたこと。本アルバムはそんな『ハミルトン』の劇中で歌われたナンバーのカヴァーやリミックスを収録したコンピで、ウィズ・カリファ、シーア、チャンス・ザ・ラッパー、アッシャー、アリシア・キーズら錚々たる面子が参加している。歌詞を理解せずに聴いていると贅沢かつハイ・クオリティなヒップホップ・コンピであるとしか言えないのだが、ここでラップされているのは日本に置き換えれば明治維新や倒幕をめぐる歴史的瞬間の数々についてだったりするわけで、政治「的」リリックどころかまさに政治「の」リリック満載なのだ。メッセージ性の強度においてヒップホップという表現形態が選ばれたのは現代の真理だし、トランプ勝利の大統領選を経て、移民国家アメリカの多様性や寛容について改めて見つめ直す上でも非常に象徴的なリリースになっていると思う。(粉川しの)