カリスマ英インディ・レーベル〈XL〉の総帥リチャード・ラッセルが、自らのスタジオに様々なアーティストを集めておこなうコラボ型プロジェクトの2作目が早くも登場と相成った。サンファやイベイーらレーベル所属の優れたアクトを主体とするセッションや実験の発展形という趣きが強かった前作に対し、今回はコンセプト性を高めた内容でゴーストフェイス・キラーらビッグ・ネームも参加。ラッセルは場を提供する仕掛人兼ミュージシャン兼プロデューサーの立場をとっていて、共演者たちとの間に自然に生じた化学反応やクリエイティブな火花を文字通り「音源に記録」することに主眼を置いているとはいえ、テーマを据えたぶんアルバムとしてのまとまりは増している。
金曜夜から始まり土曜午前に至るクラビング体験の諸相を描くというコンセプトは実に利いていて、エレクトロ、ダブ、ヒップホップ、ディスコ、ジャズとハイブリッド・グルーヴが次々に展開する前半はさすが先鋭的なクラブ音楽を発掘・発信してきた御仁だけある。独自のフレイバーを備えたMCやシンガーといった若手から、サンプリングまで、異なるボイス/スタイルを組み合わせ新たな妙味を作り出す嗅覚の鋭さも聴きどころのひとつだ。踊り酔った一夜が明け始電待ちから帰宅までのけだるいカム・ダウンを綴る後半はメランコリックで美しく、元クラスのペニー・ランボーのポエトリー・リーディングで終わるエンディングもパンクに影響を受けたレイヴ世代の彼らしいロマンチックな「先達への敬礼」になっている。偶然とはいえウイルス危機で世界的にクラブ/ライブといった場が扉を閉ざしている現在、このアルバムはフロアに生まれる喜びと夢の大事さを忘れないためのよすがのひとつになるだろう。 (坂本麻里子)
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