ニュー・クラシック・ソウルの金字塔

セレステ『ノット・ユア・ミューズ』
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ALBUM
セレステ ノット・ユア・ミューズ

これはすごい。掛け値なしの超大型新人の登場である。といっても2016年以降13枚ものシングル・リリースを重ねて、その圧倒的なパフォーマンスで高い評価を受け、BBC Sound of 2020で1位、ブリット・アワーズでライジング・スター賞を受賞、ビリー・アイリッシュカミラ・カベロからポール・ウェラーまでに絶賛されるなど(ウェラーは共演もしている)、既に次世代VIPとしての将来は保証されたも同然なだけに、むしろ遅すぎる1stアルバムの登場と言っていい。

94年カリフォルニア生まれの26歳。英国人の母とジャマイカ人の父の間に生まれ、幼いころ両親の別居に伴って英国に移住。バレエを習い、教会で歌い、アレサ・フランクリンやエラ・フィッツジェラルド、セロニアス・モンク、サン・ラなどを聴いて育った。10代から曲を書き始め、2010年、16歳の時に父親の死に触発されて書いた曲がYouTubeに発表され、それがきっかけで現在のマネージャーに出会ったという。

ハスキーで懐の深い声、50年代のジャズや王道ポップ、60〜70年代のクラシック・ソウル/R&Bの香りを漂わせるオーセンティックな演奏。ウェラーが気に入ったように、小粋でスパイスの効いたブリティッシュ・ソウルの伝統を受け継いだようなところもある。ドラム、ベース、ピアノ、ギター、ストリングスやホーンなどベーシックな楽器中心の、隙間の多いシンプルなアレンジで全編を統一している。歌もアレンジもサウンドも奇をてらったところが全くないが、細部の音響処理でモダンに響くようなものとなっている。若さと成熟が同居したようなセレステの声は魅力的で、それこそ彼女が影響を受けたアレサやエラのような古典の風格を早くも漂わせている。がむしゃらに自己を主張するような厚かましさは皆無で、謙虚で思慮深く知的で、思索的でもある。

ビリー・アイリッシュなどに絶賛され、ブリット・アワーズでのパフォーマンスが壮絶だった“ストレンジ”の美しさが際だっているが、鳥の声などもフィーチャーしてアンビエント色濃い仕上がりの“ザ・プロミス”などは昨今の音楽シーンの流れを汲んだような曲で、いいアクセントになっている。ダイナミックなダンス・ナンバー“ストップ・ディス・フレイム”も聴き物だ。

スタンダード盤は12曲入りだが、日本盤ボートラを含む22曲入りのデラックス盤は、アルバムから漏れた重要シングルなどをすべて収録している。とりわけNetfl ixの大傑作『シカゴ7裁判』で使われた“ヒア・マイ・ヴォイス”は圧巻。(小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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セレステ ノット・ユア・ミューズ - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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