MUCCに「ダークでヘヴィなバンド」というイメージを持っている人は、このベストアルバム『明星』を聴いて驚くかもしれない。今作は、SATOち（Dr）の脱退を前に、彼が作曲／作詞に携わった楽曲を集めた一枚。全員が作詞作曲を手掛け、それぞれの個性が溶け合ってMUCCの世界が作られてきたわけだが、特にSATOちの楽曲は、ドラマーならではの力強いリズムで刻むアッパーな曲が多い。繊細な優しさが滲むメロディは、特にライブの名場面を彩ってきた定番曲ばかりだ。改めてかけがえのなさを痛感してしまうのは辛いところだが、コアなファンのためのメモリアルというより、むしろ前述のイメージを持っている人にこそ、MUCCの多面性を知るきっかけとして手に取ってほしい超名盤である。

新曲“明星”は、歌謡メロなギターリフで疾走するエモーショナルなパンクチューン。4人全員で言葉を繋いで完成させた歌詞には、《さよならだけが答えではない》とある。綺麗に一区切りつけるのではなく、哀しみも迷いも全部背負って、地続きの未来を泥くさく歩むMUCCの姿がそこにある。（後藤寛子）

『ROCKIN'ON JAPAN』5月号より