ノー・ディレクション・ホーム

リュックと添い寝ごはん『home』
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自分にとって幸福とはなんなのか、理想の人生とはどんなものなのか……リュックと添い寝ごはんのコンポーザーである松本ユウの筆致には、そういったことを音楽を通して確かめていくような切実さがある。如何にその音楽が素朴で他愛もない日常を描いているように見えても、その奥には「こう生きたい」という祈りにも似た切実な想いと、その前提にあるリアルな現実認識が刻まれているように感じるのだ。作品を経る毎に世界観を強固にしていく彼らだが、そこには常に甘美な理想主義と、時にそれを阻む現実へのシリアスな批評性が色濃く表れている。

新曲は“home”。「家」とは何も居住地や実家だけを指すわけではないだろう。人はどこに帰るのだろう? 本当の家はどこにあるのか? 《おかえり 踊る笑顔/忘れ難き故郷 僕が僕であるために》――そう歌うこの曲の奥に、私はどうしても「帰れない」という叫びを聴いてしまう。この世界には、まるで遠い異国の海を目指すようにして、まだ見ぬ故郷を、本当の家を探しながら人生を放浪するデラシネたちがいる。彼らにこそ、この曲は響くのではないか。(天野史彬)