「自分たちは何者か?」と徹底的に問いかけ、自らを冷静に客観視しながら、しかし、額縁に入れて愛でるわけではない。「時の真っ只中」を生きていなくてはいけない。だから、彼らは自らを冷静に見つめたうえで、今を生きるリアルなバンドとして、この2025年に着地する。
ステージ横に設置されたモニターに映る宮本浩次は、真っすぐに前を見つめていた。四方八方に視線を拡散させ、混沌と爆発を剥き出しで体現する、あの宮本浩次ではなく、すべてを凝縮した眼差しで真っすぐに前を見つめる宮本浩次が、そこにはいた。
“友達がいるのさ”の演奏中、宮本は水平に両手を広げ、足を高く上げて歩くようなジェスチャーをした。
そこには、全身で風を感じる時の自由さと、平均台の上を歩く時のような緊張感、その両方が表現されているように私には感じられた。生きるうえで手放してはいけない自由と緊張。自分の魂を、こうやって世界に運んでいくのだと、彼は伝えているようだった。《俺はうまくやるさ》という歌詞があるが、「うまくやる」というのは、きっとこういうことなのだ。“友達がいるのさ”が演奏されたのはライブの終盤だったが、ライブの流れというより、もっと大きな意味を込めて、「ここから、まだまだ行くぞ」──バンドが全身でそう言っているような気がした。
1月4日、日本武道館。
この日、またエレファントカシマシは新しくなっていた。(以下、本誌記事に続く)
文=天野史彬 撮影=岡田貴之
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年3月号より抜粋)
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