時を経るごとに現実感が失われ、幻想と化してゆく「記憶」。それを実態が伴ったまま心にとどめておきたい――そんな願いが、この曲に宿っている気がしてならない。アオノオトシゴのボーカリスト・仙田和輝と、数多くのバンドのサポートギタリストを務める山本幹宗によるロックユニットの2ndデジタルシングル。レコーディングにはくるりの佐藤征史など、8月リリースのデビューシングル“Ripple Mark”と同じプレイヤーが参加し、前作同様に豊潤で安定感のあるポップサウンドを実現させている。

だがシンセやキーボードが前面に出た前作と比較すると、今作はギターを際立たせたサウンドデザインが特徴的だ。エレキはもちろんアコギも用いて繰り広げられる多彩なアプローチは清涼感の中にスパイスを感じさせ、それに触発されるように演奏には生々しい人間的なグルーヴが躍動する。生楽器ならではのぬくもりや情熱に富んだ音色と、仙田の落ち着きを保った伸びやかで瑞々しいボーカル。それらが一体となり聴き手それぞれの《あの日消えたミラージュ》を颯爽と、鮮やかに蘇らせるだろう。（沖さやこ）

『ROCKIN'ON JAPAN』12月号より