ロックの持つ重要な力学の一つが一発逆転だろう。大体、聴くほうもやるほうもロックなんてものに思い入れを持つのは日常生活に収まりきらないなにかしらの感情を抱いているからなわけで、ということは社会生活に向いてるかと言われれば、そんなことはない場合が多く、金がなかったり、モテなかったり、うだつが上がらなかったり、いろんな風にいろんな悩みがある。だからこそロックを鳴らそうとするのだし、ロックを聴こうとするのだ。そこでは音が世界と価値観を支配し、音が強いほうが真実になる。洋楽なんてその最たるものだろう。まだまだ満足できないから、海の向こうのロックを聴きたいと強く願ってしまう。だからこそ、このパッション・ピットは今の状況に風穴を開けてくれるバンドだ。当時のガールフレンドへのバレンタイン・プレゼントに音源を贈るなんて一発逆転の最たるものだろう。実際、rockin'on2009年11月号のインタビューでもモテない大学院生のような口数の多さに安心してしまった。そして、首謀者のマイケルは現実に彼女と別れてしまうわけだが、そうやってうまくいかない現実こそが、彼にこのフロア・アンセム満載のアルバムを作らせたのだと思う。
輸入盤が随分前に出てるので、やっとという思いの人も多いだろうが、“スリーピーヘッド”と“ザ・リーリング”という強力な2曲がある時点で新人としては破格。ややこしくて複雑に込み入った現実を解きほぐすように、繊細に鳴らされるこのエレクトロ・ロックは、リスナーの手を握って引き上げる力がある。(古川琢也)