ああ、よかった。また新譜が聴けて。結成25年、80年代パンク・シーンの異端児として誰よりも自由に誰よりもハードコアに活動を続けてきたあぶらだこの４年振りのニュー・アルバムだ。録音・ミックスにゆらゆら帝国を手がける中村宗一郎が参加。そのせいか音がとても澄んでいて聴きやすい。バンドのすっとんきょうな雰囲気ともとても合っている。なかでも傑作は中盤“グレーグビズマズ”と“七草牧場”だ。かつて“エルサレムの屈辱”とか“原爆”とか“無”といったぎりぎりの緊張感を歌っていた頃とは明らかに違う柔らかな音の中で、ヒロトモ（Vo）は、前作から取り入れた篳篥（ひちりき）とテルミンを意気揚々と、楽しげに、奏でている。

リズムも音階もてんでバラバラ、どこに向かいいつ終わるともしれない彼らの音楽は、ポップやロックの常識に鳴れた耳には混沌と聴こえるかもしれない。始まりも終わりもない「無限」を地獄ととるか極楽ととるかは聴き手次第。だが、あらゆる法から開き放たれた音の渦に身を投じるのはとにかく楽しい。ピョンピョン跳ねるバッタを全身で追っかけ回しているように、全身の細胞が喜んでいる。思わず手を合わせたくなる。（井上貴子）