セヴン・ライヴズ、メニィ・ファイセズ正直、エクスペリメンタル・ミュージックとしての尖鋭的な役割を今のエニグマに期待している人はごく少ないだろうし、おそらくマイケル・クレトゥ自身もそんな重荷はとうの昔に下ろしてしまっているだろう。古典音楽・民族音楽といった要素のサンプリングで構成されていたウワモノを1つ2つとアンビエントなサウンドに置き換えていった結果、構造だけ見れば極めてリラクシンなヒーリング・ミュージックができあがった。が、実際には今作のリズム・パート1つ聴いてもその音の吟味具合は大吟醸並みだし、心地好いストリングス風の音色のタペストリーに思わず噴出するアルファ波をM6“ヘルズ・ヘヴン”のシンセ・ノイズが掻き消す瞬間の暴力性などは、相も変わらずエニグマが恍惚の瞬間と表裏一体に描き続けてきた「違和感」の破片を垣間見ることができる。というか、ノイジーな音世界の果てに仮想天国としての静寂を描くのではなく、「静寂などないこの世界」への絶望感を、この心地好いサウンドの向こうからインプリンティングのように注入してくる音楽……2年ぶりとなる彼らの新作を、僕はそう聴いた。そして戦慄した。(高橋智樹)