とはいえ、この人は「以前のオレは間違っていた。今回こそが本当のオレだ」みたいことを繰り返し言ってる印象がある。過去をそのつど否定しないと前に進めないタイプのようで、米国のR&B/ヒップホップやワールドに接近した前2作は悪くなかったが、今回は本人曰く「元いた場所に戻った」、つまりファーストの『マクシンクェーイ』を彷彿とさせる陰鬱でダウナーなトリップホップを展開している。試行錯誤を繰り返し、自己を追い詰め、そして原点に戻っていく。だが本人も、周りの状況も当時とは変わっている。似ているようでいて、『マクシンクェーイ』の奈落の底に引きずり込まれるような荒々しくドープでヒプノティックな陶酔感というより、より洗練された透明な悲しみのほうを強く感じる。かってのような衝撃は求められないが、この気怠く物憂げな官能性はトリッキーならではだ。 (小野島大)
原点回帰、だが昔とは違う
トリッキー『フォルス・アイドルズ』
2013年06月12日発売
2013年06月12日発売
ALBUM
とはいえ、この人は「以前のオレは間違っていた。今回こそが本当のオレだ」みたいことを繰り返し言ってる印象がある。過去をそのつど否定しないと前に進めないタイプのようで、米国のR&B/ヒップホップやワールドに接近した前2作は悪くなかったが、今回は本人曰く「元いた場所に戻った」、つまりファーストの『マクシンクェーイ』を彷彿とさせる陰鬱でダウナーなトリップホップを展開している。試行錯誤を繰り返し、自己を追い詰め、そして原点に戻っていく。だが本人も、周りの状況も当時とは変わっている。似ているようでいて、『マクシンクェーイ』の奈落の底に引きずり込まれるような荒々しくドープでヒプノティックな陶酔感というより、より洗練された透明な悲しみのほうを強く感じる。かってのような衝撃は求められないが、この気怠く物憂げな官能性はトリッキーならではだ。 (小野島大)