LITE ライブ=曲作りで過ごした3年半の結晶『Cubic』を語る(2)
おもしろいと思ったこと、新しいと感じることをやりたいというところで一貫性を持ってやってきた
──あと、改めてLITEのキャリアを考えてみたら恐ろしくなりまして。2008年頃までに今のロックシーンで主流となっているダンスロック的なものを確立して、2009年の『Turns Red - EP』ではエレクトロニカやクラブミュージックの要素をすでに取り入れてる。
「うれしいですね。僕らの中ではフリーに頭を解放しているというか。単純におもしろいと思ったこと、新しいと感じることをやりたいというところで一貫性を持ってやってきたんで。だからある意味では常に変わってきていると思うんですね。昔の作品を切ってその成長過程というか、やりたいことを感じてもらえると、『今はここに行き着いたのね』みたいな聴き方もできるんじゃないかな」
──たしかに。そんなLITEが今のシーンをどう捉えているのかに興味があるんですけど。
「僕らが属していると言われるポストロック的なシーンで言うと、2008年頃から約10年ぐらい経って、お客さんも含めてなんとなくひとまわりしてる感じがあるんですよ。この間アメリカで対バンしたバンドは高校生の時にLITEを聴いてたって」
──えー!(笑)。
「そんなバンドが僕らと対バンする、もう一世代下のバンドが出てきてる。そういう時代になってきたんだなっていうのと、このジャンルはそうやって回転しながら続いてくジャンルなんだろうなって感じます。あと僕らの活動だからというのもあるかもしれないですけど、世界各国同じようなスピードでシーンが進んでるような気がします。日本も盛り上がってるし、アメリカやイギリスとかでも同じような世代が同時に出てきてるイメージがあって。だからイギリスのアークタンジェントっていうフェスではみんなが当たり前のように集まって『次一緒にやろうぜ』って話したり、コミュニティがあるんですよ。それも僕らが始めた時にまわりも一緒に始めてたんだろうなって。みんなで上がってきて、同時に下の世代も上がってきてるような時代感を感じますね」
──おもしろいですね。日本についてはどうです?
「最近けっこう日本の音楽を聴くようになっていて。オリジナリティがあっておもしろいなと思うんですよ。海外のバンドの曲をブラウズしてると、これはあれっぽいな、こっちはあっちっぽいなとか残念な気持ちになったりする中で、日本のバンドはだいぶ尖ってんなとか、こういうことやっちゃっていいんだとか、下の世代は自由だなって感じがあって共感を覚えます。日本のシーンって今おもしろいなって」
──例えばどんなバンドですか?
「D.A.N.とかyahyelとか、おもしろいし質も高いですよね。あとはトリプルファイヤーとか。WONKもいいですよね。どんだけベテランがやってんだろと思ったらめちゃくちゃ若くて完成されてる。海外にも同じようなものがあるのかもしれないですけど、やっぱり日本のテイストがある。それは日本人がこういうことをやってるからおもしろいみたいな民族意識もあるのかもしれないですけどね。新しいことやってるよ、がんばろうよみたいな」
──さっきの日本語の話もそうですけど、LITEも絶対日本のテイストがありますよね。日本人なりの切ない哀愁がある感じ。
「たしかにそうですね。どうしても好きなんですよね。泣きのメロディというか、入り込める感じ。それはJ-POPを聴いてる時から培ってるというか、たぶん自分の中で蓄積されてるものなんですよ、民族的なレベルで。そこを表現したくなってしまうのは昔から変わってないですね」
──ジャンルとして演歌だったり歌謡曲を取り入れてるわけじゃないけど、通じるところはある。だから海外でもやれるのかなって。
「それってやっぱり日本人にしか出せないですしね。J-POPとかって海外的には評価が低いと言われたりして、海外に出る時に隠しがちじゃないですか。だから英語で歌ったり、外国人っぽいサウンドにしたり。それって少し残念だなって気持ちがあるんですよね。日本の、特にアバンギャルドなシーンってものすごくレベルが高いと思ってて。オリジナリティもあるので、そういう表現がもっとオーバーグラウンドなシーンでやられてもいいし、おもしろい受け取られ方をするんじゃないかなとは思います。だからこそ僕らは日本語で歌うし」
「ストレートすぎてダサくない?」みたくなるところも、実は裏にちょっといいなと思ってる自分もいるんですよ(笑)
──昔より今のLITEのほうがオリジナリティを感じるんですけど、本人としてはどんな感覚ですか?
「よりストレートになってきているのかもしれないですね。十何年も続けられてるというのは、ひとつの自信なんですよ。そういう意味では自分にフィルターをかけず、自然に出てくるフレーズをあえて採用するとか、それは最近増えてるかもしれないですね。ちょっと前だと『これストレートすぎてダサくない?』みたくなるようなところも、実は『ダサくない?』の裏にはちょっといいなと思ってる自分もいるんですよ(笑)。自分がいいと思ったらいいんだと思うようになってきた気はします。もっと純粋に楽しむようになってきたのかな。前より許容できる範囲が広がりましたよね」
──大人になった?(笑)
「大人になりました(笑)。結成当初はミスひとつ許されねえみたいな感じでしたけど、それに比べたらだいぶ自由ですからね。それは音楽家としての許容範囲が広がったということなのかな」
──それは個人としてもそうなのかなと。武田さん、2014年に行政書士になって開業しましたよね。
「これはいろんな考え方があると思うんですよ。音楽だけやって暮らしてくっていうのは人にとっては理想だし、今でも道は狭くなってるけどやろうとすればやれるし、やる価値はあると思う。でも僕のスタンスで言うと、音楽だけになるのはプレッシャーというか。たぶん自然な音楽が僕からは生まれないし、ある一定の距離を保ちたいんです。それはメンバー間もそうだし、曲作りに対してもそうで、無理にやるよりは楽しんでやりたい。それが続けることにつながると思うんです。自分がやりがいを感じて、かつ無理な負担はないように。そうなると自分の生活をほかで安定させるっていう選択肢が出てきて。そこのバランスを取るやり方というのは、CDが売れない時代に新しいスタンダードとして根付きつつあるのかなって思ったりしながら生きてます」
──距離を保ちつつも、行政書士の知識がバンドに還元されたりもしてるんですよね? 例えば海外へツアーに行きたい、じゃあお金が必要だ、その渡航費は実は国が補助してくれたりするんだよ、みたいな。
「そうですね。行政書士になって開業し、経営者になって思ったのは、やっぱりバンド活動もお金のことを考えなきゃいけないし、経営的な視点って確実に必要だなということ。個々は確定申告してるわけなんで、事業者なんですよ。ということはしかるべきことを考える必要があるなって。そこはリンクしてるところで、音楽とビジネスって水と油ではなくてもっと溶け合うものであるはずなんです。ミュージシャンってどうしてもお金なんていらねえってなりがちで、それもわかるし美徳だと思うんですけど、じゃあ続けるってなった時にそこを親和させたほうが前に進めるんじゃないか、そういう柔軟な考えがあってもいいんじゃないかって」
──一番悲しいのは音楽が生まれなくなってしまうことですもんね。
「そうなんですよね。音楽活動に希望を感じなくてやめてしまって文化が廃れる、みたいなことになったらそんな悲劇はないと思うんで。じゃあ続けてこうよっていう話ですね。僕はこういう選択肢があるんだなって思ってもらえたらそれだけでいいなって」
──バンドマンで行政書士、なんてなかなかできないですけど(笑)。
「そういうのが好きなんですよ(笑)。LITEも『これ誰もやってないな』ってところを常にやっていきたい」
──やっぱり常に枠を壊していくのがLITEであり武田信幸ですね。ここで急にアルバムの話に戻りますが(笑)、最後の曲が“Zero”というのはこの先またイチからやっていきたいということだったりしますか?
「含みを持って終わらせたかったというのはあります。だから歌も曲も突然バッと終わる。でももっと踏み込んだ話をすると、あの曲のあとに実はもう1曲あったんですよ。それはミックスまでして、僕が完全に歌い上げている曲だったんです。でもそれは、“Warp”でやりたかったこととぶつかるというか、次のステップかなと思いました」
──じゃあやりたいことが見えてるわけですね?
「ゼロではないですね(笑)。今回は歌を入れてみた、ゲストボーカルも入れてみた、管楽器も入れてみた。いろいろなチャレンジができて、自分たちが歩ける道を耕したような感覚があって。どこに進んでもいいかなと思ってます。例えば全曲歌の曲があってもいいかもしれない。全部ゲストミュージシャンにお願いしてもいいかもしれない。そういう可能性や幅を感じられる3年半だった。ここまでやってきて、まだ可能性が全然あるなと思えたアルバムですね」
──これからも続いていきそうな希望を感じられて、僕もうれしいです。次も楽しみにしてます。
「ありがとうございます」