昨年夏の2ndフルアルバム『Gingerol』から1年弱というスパンで届いた、a crowd of rebellionの3rdフルアルバム『Ill』(イル)。メタルコアを軸に多彩な音楽の要素を取り込んだ異形のラウドモンスター的なこれまでの作品の質感とは一転、どこまでもエモーショナルな感情表現と、悲壮なまでの「生」への決意が、言葉と音のひとつひとつからあふれ出す、荘厳なまでの美しさと強さに満ちた傑作だ。
小林亮輔(Vo・G)の精神世界をアルバムのメインコンセプトとして掲げたという今作『Ill』。もともと「リベリオンが大好きな高校生」だった小林は、いかにして音楽に救われ、音楽で救いの手を差し伸べるに至ったのか。自身の半生に至るまで、彼は包み隠さずまっすぐに語ってくれた。
インタビュー=高橋智樹
正直、僕っていう人間は、他の4人がいないと何も成立しない
――これまでのa crowd of rebellionの作品は音楽的に見れば、いろんな要素を取り込んだ「異形のモンスター」というか、むしろその異形感がスリルとダイナミズムを呼び起こしてくる部分が大きかったんですけど、今回の『Ill』はひと言で言えば「人間のアルバム」というか。異形な部分はあるかもしれないけど、その核には人間の感情が息づいている感じがありますよね。
「そうですね。根本は何も変わってないんですけど、研ぎ澄まされたというか。今回は今までみたいなハチャメチャ感よりかは、自分たちの好きだったルーツ感みたいなものと……このアルバムでは、メンバーが僕をフィーチャーしてくれたので。今までに比べたら、とても人間くさいアルバムになっているのかなっていう感じですね」
――まさに今回のアルバムの重要な部分は、その「小林さん自身をアルバムの軸としてフィーチャーする」というところだと思うんですけども。どういう流れでそうなっていったんですか?
「『今年どうしよう?』『次作どうしよう?』みたいなミーティングの時に、うちのシャウトボーカルの宮田(大作)さんが『今作は亮輔をフィーチャーしたらどうか』っていう提案をしてくれて。他のメンバーも、会社のスタッフも周りの人たちも『いいね』って言ってくださって、こういう形になったんですよ。でも実際、僕としては戸惑ったんですよ。僕はもう……全部が普通の人以下なんですよ。普通の人ができてることもできないような人間ですし、優れているところがまったくない人間で」
――いやいやいや(笑)。
「本当に自信がないんですよ。正直、僕っていう人間は、他の4人がいないと何も成立しないと思っていて。僕がひとりで音楽をやるってなったら、たぶん何も意味がない――っていうか、たぶん音楽じゃないと思います。で、いろいろ僕なりに悩んでた時に……せっかくここまでみんなが言ってくれてて、僕は本当にみんなに守ってもらってて、『大丈夫だよ、大丈夫だよ』って言ってもらってここまで来たのに、なんでおれは戸惑ってるんだ?って。このバンドではこれだけみんなが肯定してくれてる自分を、否定するのは違うかなと思って。僕も『じゃあ、それでいこう』って」
よく僕を辞めさせなかったなって、今でも思うんですよ(笑)
――《結局何一つ守ることができなかった》(“Prologue -Insomnia-”)であったり、《ただ守れないでごめんね》(“紡冬”)であったり、今回の歌詞にはシリアスな内面と向き合った結果として生まれたと思われるフレーズが多数見られます。今回のアルバムを通して、自分の中で一番掘り下げた部分はどういうところでした?
「家族とかの話ですね。自分が生きてきた人生とか……最初からです。『今まで生きてきたことって、なんだったのかな』って、改めて俯瞰してみたんですよ。自分を知るっていうか。自分を何も知らないで、言いたいことばっかり今まで書いてきたんで。今回自分をフィーチャーするっていうことで、改めて自分の昔、過去の見たくないもの、思い出したくないことを考えた時に……守れてなかったものがすげえ多かったなあとか。臆病なやつなんですよ。大事なものが多ければ多いほど、すごく弱くなってしまうというか。離れたくないし。《何一つ守ることができなかった》っていうのは――その後に《裏切ってしまった人達》っていうワードもあって。今でこそ思えるのかもしれないですけど――自分は実際『裏切られた、裏切られた』と思って生きてきたんですけど、結局なんで裏切られるかって、僕が裏切ってたからだと思うんですよ。そういうことを言葉として書いてるっていうことは、裏切ったことのほうがたぶん多いんですよ。そういうのも自分の中で俯瞰して、反芻して、自分の過去と向き合って……そのまま書きました」
――それは少年期の自分のことを思い返した部分が大きい?
「そうですね。それもありますし、本当に最近のことでもあります。少年期、幼少期は僕、いじめられてたんですよ。いじめられっ子だけど、その発端は何かな?って今思い返した時に、『俺、もしかして先に手を出したんじゃねえか?』『人から煙たがられるようなことしたんじゃねえか?』って。思い当たるフシもあるなあ、って気づいた時に、『ああ、もうその通りだなあ。そのことを書こう』って思ったりとか。あと、最近――っていうかメジャーデビューするちょっと前ぐらいに、地元の、ちょっと怖い人たちから『ああ、メジャーデビューするんだ? 俺、お前にいじめられてたからなあ』みたいなことを言われてたりしてたんですよ。『でも俺、いじめてねえしなあ』『っていうか、むしろお前らのほうが俺のこといじめてたじゃん』って思ったりもして。いじめられてたって言っても、急に友達が朝迎えに来なかったりとか、無視が始まったりとか――僕はそのまま自分がやられたことだけを憎みながら25歳になって、人のせいだ、人のせいだ、って思って生きてたんですけど。今回の作品を出すにあたって、自分を俯瞰して見た時に、『俺、めちゃくちゃ悪い奴だな』ってすげえ思って。ダメな奴だなっていうのは今までも思ってたんですけど」
――思い返せば、小林さんってリベリオンにはあとから加わった――というか、もともとリベリオンが大好きで、ライブの最前列で頭振ってた高校生だったわけじゃないですか。
「(笑)そうですね、はい」
――その小林さんの内面の物語を掘り下げていくことが、3枚目のフルアルバムの核になっていくっていうサイクルは、なかなか不思議なものがありますよね。
「だから、よく僕を辞めさせなかったなって、今でも思うんですよ(笑)。僕、最初入った時はギター弾けなかったんですよ。ずっと高校生バンドでギャーッって叫んでただけなんで、別に歌も歌えないし。なのに、『お前、ギターできるっぽいじゃん』っていう理由で入って。コーラスとギターをやったんですけど、最初のスタジオでまあ弾けなくて(笑)。泣きながら1ヶ月くらい学校休みまくってギター練習したんですけど、まあヘタクソですし。この人たちはそれこそ7〜8年とか、よく俺を切らないで、急にここで『お前の精神世界をフィーチャーして』っていう考えになったなあと思って。彼らには……サードアイがあるんじゃないですかね、潜在的な、動物的な何かが(笑)。あと、やっぱり彼らは優しいんですよね。その優しさと、動物的な何かがあって、僕をバーンと打ち出してくれたんでしょうね」
僕が歌を好きになれたのは、歌が歌えなくなってしまった爺ちゃんのおかげ
――世の中的に見れば、ラウドシーンだけじゃなくて音楽シーン全体を見てもなかなかいない、エンジェルボイスの持ち主なわけですけども――。
「いやそんな、僕なんか……お母さんに感謝ですよ。前作に“Nex:us”っていう曲があって、あの曲のサビのトップのキーが、バンド史上一番高いんですけど。あの時のキーがどうやら、僕が4歳の時に『ママ』って言った時の声とまったく一緒らしくて(笑)。『聴いたよ! あんた、本当に声変わりに失敗したんだね』って言われました(笑)。母親がすごいんです、僕がすごいんじゃなくて」
――(笑)。「俺、歌が好きだなあ」って自覚的になったのはいつ頃でした?
「親の話によると、僕は2歳とか3歳の頃から――死んだ爺ちゃんの家にマイクとアンプがあって、そこでめちゃくちゃ歌ってたらしくて。爺ちゃんは喉頭がんで喉を取っちゃったんですけど、死んだ後に爺ちゃんと一緒に童謡を歌ってるカセットテープが出てきて。『ああ、僕が歌を好きになれたのは、歌が歌えなくなってしまった爺ちゃんのおかげなんだな』って。そこからずっと歌が好きで。母親の車に乗ってたらもう、ポケットビスケッツとか槇原(敬之)さんとか宇多田ヒカルさんとか、カセットで聴きながらずっと歌ってました。小学校の時は、合唱とか音楽の授業で一生懸命歌って『うわ、あいつ』って言われるタイプの奴でしたね。中学に入ってからは、ひとりでカラオケに行ってずっと歌ってたりとか。あと、ちっちゃい時はめちゃくちゃナルシストでしたね。今はこんなダメダメ言ってますけど、『俺はすべてが素晴らしい!』と(笑)。今は実家は全然裕福な家庭ではないんですけど、当時はお金もあって、ちょっといい美容院も行って、他の家にはない音楽を再生する機械もあって、マイクもあって、ギターもあって。そしてこのビジュアル、最高だろ?みたいなクソガキだったんです(笑)。人のものはすぐ手を上げて取る、俺が最強!みたいな」
――その「俺様最強」な時期はいつぐらいまで続いたんですか?
「幼児から、小学3年生ぐらいまでですね。そこからどんどん、小学校のちっちゃい社会みたいなものができていって、磨耗してすり減っていって、環境もいろいろ変わっていって、初めて自分っていうものに気づかされた時に、『ああ、俺はクソみてえな奴だ』ってなったんですよね。でも、その間も歌はすごく好きで。歌も『俺は超上手え』って思ってたんですけど、いざ音楽をやってみたら、上には上がいるし。社会を知って、心がすり減って、歌っていうものにもどんどん自信がなくなっていくんです。小学校の卒業文集に『将来なりたいもの:木』って書いてましたからね(笑)。そういう人間だったので、周りからどんどん無視をされていくわけですよ。でもそれはきっと、僕がやったことが悪かったんですよね。で、みんな離れていったんですけど、3〜4人ぐらい友達はいてくれて。その子たちと中学の文化祭で何かやろっか、ってバンドを初めて組んで――Janne Da Arcの曲をやったその翌日に、どういうわけかモテ始めちゃったんですよ。おしゃれとか何もわかんないから、前髪全部ストレートみたいな奴が、文化祭でギターソロをやった翌日からラブレターとかもらうようになって。『嘘だあ』と思って。『俺死んだんだ、これは死後だ』って(笑)。とはいえ、そこからちょっと自信はもらったんですよね。人前で何かをバーッとやることって、見え方を変えてくれるのかなって、一筋の光みたいなものが自分の中に差し込んできたんですね。で、中学を卒業するちょっと前ぐらいに、ネットでメンバー募集をして、自分でちゃんとバンドを始めた感じですね」
「今やってる音楽を曲げろ」って言われたらやめる覚悟でこの人たちとやってる
――今回、他のメンバーが小林さんの物語を核に据えようと思ったのは――想像ですけど――そうやっていろんな局面で音楽に救われてきた小林さんの気持ちやリアリティを、バンドの表現の中にフィードバックすることで、リベリオンの音楽が今まで以上に、聴いてくれる人の救いになれるんじゃないか?という期待感があったんだろうと思うんですよね。
「そうなんですかねえ……でも実際、僕にとって他のメンバーは音楽なんですよ。僕にとっての音楽で。僕が音楽として成立することで、やっぱり僕は4人に救われてきたんで。その音楽たちに救われて、僕も音楽になれたというか。だから、託してくれたっていう感じはあるんじゃないですかね。それこそ僕が精神的にダメだった時とか、わざわざみんなで集まってくれて、『家族なんだから』っていう言葉をかけてくれたから僕は続けられてるし。こんな僕でも、救いになれたらいいんですけど……なれるのならば、なりたいです! でも、まだまだ足りないので。もっと俺は泥水を飲まないといけないし、もっともっと痛いことを知らないといけないし。まだやれると思うんで。『まだやれる』と思わせてくれたのも、今回の作品もそうですし、メンバーも、お客さんもそうですし……救われてますね、はい」
――《叶わない願い 描いたって/また駄目になったって/讃えよう さあ、サイン》(“Sign.”)っていうフレーズも、小林さんが救われてきた物語性とリンクしてるような気がしますね。
「ありがとうございます。こんな明るい曲、初めて書きました(笑)。『死んで楽になりたい』とか言うのは簡単ですけど、本当にそうなってしまった時って悲しいじゃないですか。僕もそういうことをしそうになったこともあったんですけど……単純に生きてほしいな、生きて話そうよっていう。そういう死生観もそうですけど、バンドを続けていくこととか、辞めることとか――バンドって辞めることも結構難しいですけど。積み重ねてきたものが一気に崩れることですから。でもそれ以上に、続けることってもっと難しいなあと思うんですよ。そういう意味合いも含めて、『辞めないで生きていってくれ』って。終わったら終わりなんで」
――「終わるくらいなら」っていう、ギリギリの希望ですよね。
「その通りですね。今回は一貫してそうかもしれないです。最後の“THE TESTAMENT”っていう曲も――『TESTAMENT』は遺書っていう意味なんですけど、これは単純に、今やってるバンドのことですね。俺たちはやりたいように俺たちの音楽をやってるし、『今やってる音楽を曲げろ』って言われたらやめる覚悟でこの人たちとやってるんで。それが別に他の人から『半端だ』って言われても、全然悔しくないですよっていう。サビの最後に《未完で散って悔い無し》っていうフレーズがあるんですけど、その通りで」
――遺書という名前の決意表明、強いですよね。《世界も置いて走って逝け》って。
「こんな言葉、書くと思いませんでした(笑)。《愛せる》とか絶対書かないと思ってたんですけど。まず、愛せるようになんねえとな、すべてのものをって。音楽もそうですし。ちょっとでも楽しいこと、好きなこと、愛してるものがあれば、明日が来るんじゃないかなって――最近そういうふうに思っちゃって、『あれ? 俺、丸くなっちゃったかな?』って思ったりもするんですけど、バリバリ尖ってるんで(笑)」
取材後ブログはこちら!
a crowd of rebellion新作完成! 小林亮輔の内面世界越しに見えた「リベリオンの絆」
“Ill”(MUSIC VIDEO)
“Sign.”(MUSIC VIDEO)
リリース情報
3rd Full Album『Ill』発売中《収録曲》
01. Prologue -Insomnia-
02. Ill
03. Sign.
04. Raccoon Dead
05. Anemia
06. #ペルソナ
07. Calling
08. 紡冬
09. Interlude -Akinesia-
10. Colorless
11. Noah
12. THE TESTAMENT
ライブ情報
「米騒動 vol.3 ~『KEEP YOUR HANDs OFF MY GIRL』&『Ill』tour~」2018年9月2日(日) 新潟・GOLDEN PIGS RED STAGE
w / KEEP YOUR HANDs OFF MY GIRL
「Ill tour 2018-2019」
《two-man tour》 ※ゲストアクトは後日発表
2018年10月20日(土) 岩手・the five morioka
2018年10月26日(金) 神奈川・F.A.D YOKOHAMA
2018年10月27日(土) 静岡・Live House UMBER
2018年11月2日(金) 群馬・高崎club FLEEZ
2018年11月3日(土・祝) 長野・松本ALECX
2018年11月4日(日) 茨城・mito LIGHT HOUSE
2018年11月10日(土) 広島・広島 CAVE BE
2018年11月11日(日) 兵庫・神戸 太陽と虎
2018年11月16日(金) 埼玉・HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
2018年11月17日(土) 千葉・千葉LOOK
2018年11月23日(金・祝) 香川・高松TOONICE
2018年11月24日(土) 京都・京都MUSE
2018年11月25日(日) 石川・金沢 vanvan V4
《one-man tour》
2019年1月20日(日) 新潟・新潟LOTS
2019年1月26日(土) 福岡・福岡DRUM Be-1
2019年1月27日(日) 岡山・岡山IMAGE
2019年2月3日(日) 大阪・BIGCAT
2019年2月9日(土) 北海道・DUCE札幌
2019年2月11日(月・祝) 宮城・仙台MACANA
2019年2月15日(金) 愛知・名古屋ボトムライン
2019年2月24日(日) 東京・TSUTAYA O-EAST
a crowd of rebellion オフィシャルサイト
http://www.acrowdofrebellion.com/
提供:Warner Music Japan Inc.
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部