“飴と鞭”の制作エピソード、向き合うようになった課題について語るメンバーの言葉は、生き生きとしていて明るい。節目を経て輝きを増す予兆に満ちたインタビューをお届けする。
インタビュー=田中大
──アニメの曲をやりたいというのは、ずっと言っていましたよね?ハッピーエンドにするのかしないのかで、ずっと悩んでいましたね。今まででいちばん歌詞で悩みました(岩淵)
岩淵紗貴(Vo・G) はい。前からやりたかったんです。『闇芝居』のエンディングテーマは急遽いただいたお話だったので、制作期間は1ヶ月なかったかも。原曲を1週間くらいで作り上げた気がします。そのまますぐにレコーディングという感じでしたね。2025年は10周年なので多めにリリースしようという話がもともとあったんですけど、いいスタートが切れそうです。
──先方からのリクエストはありましたか?
岩淵 『闇芝居』の第十四期のテーマが「欲」なんです。「闇」「仮面」「偽り」というようなワードを入れてほしいというのをお聞きしていました。MOSHIMOらしさという点では、恋愛の要素を入れたくて。男女のどちらかが自分のエゴ、わがままな部分、欲に溺れていく姿をうまく描けたらいいなと思っていました。
一瀬貴之(G) アニメの曲は意外とまだやったことがなかったんですよね。でも、岩淵と僕は楽曲提供をいろいろやってきたので、コンセプトありきで書くのはもともと好きなんです。今回もすごく楽しく作ることができました。
岡田典之(B) 僕は『闇芝居』をよく観ていたので、MOSHIMOが曲をやることになって嬉しかったです。
一瀬 2023年に、うちの会社のシンガーズハイが『闇芝居』の第十二期の曲をやったんですよ。岡田は「いいなあ」ってずっと羨ましがっていました。
高島一航(Dr) 僕は、お話をいただいてから『闇芝居』について調べてみたんです。好きなタイプの作品でした。僕はホラー映画とかが大好きなので。
──高島さんは、『闇芝居』に登場するキャラクターっぽい雰囲気があるのかも。
高島 僕みたいなの、いそうですよね?(笑)
──(笑)。“飴と鞭”は恋愛を描いていますけど、爽やかではないですよね。
岩淵 そうですね。MOSHIMOは複雑な気持ち、現実に起こったら笑えないことをポップに明るく描くことが多いので、この楽曲も落ちついたテンポ感で作っていきました。ハッピーエンドにするのかしないのかで、ずっと悩んでいましたね。今まででいちばん歌詞で悩みました。「書ける」と思ってたのになかなか書けなくて。楽曲提供をする時は、提供する相手のことを思い浮かべて、自分たちが提供する意味を踏まえつつ「こういうのが合うんじゃないか?」ってなるので、そんなに時間がかからずに書けるんです。でも、今回は大変でした。「MOSHIMOでタイアップが決まったら、なんでこんなに書けないかな?」って思いましたから。1回ボーカル録りのレコーディングを飛ばしたよね?
一瀬 うん。スタジオを押さえていたんですけど、岩淵が歌詞を書けなくて、別の日にすることになりました。珍しいよね?
岩淵 うん。こういうのは初めて。意地でも書き上げるタイプなのに。前日に北海道に行っていたんですけど、いろんなことの合間を縫って、徹夜で3回くらい書き直しても書けなくて。ジンギスカンを食べに行くの諦めたのに!って(笑)。食べに行かないつもりでもともといたんですけど、もしワンチャン行ける時のための用意はしていたんですよ。ジンギスカンは服に匂いが付くから、着替えのパーカーを用意していたし。「どうせ書けなかったんだからジンギスカンに行っておけばよかった!」って思いました(笑)。
──(笑)。恋の駆け引きを対等にしているつもりでいながら、どんどん負け越していく姿を感じる歌です。ハッピーエンドにするのかしないのかで悩んだとおっしゃっていましたが、結末は聴く人の解釈によるのかもしれないです。
岩淵 そうですね。今までのMOSHIMOの曲はストーリーが明確で、テーマや結論もわかりやすいものが多かったと思うんですけど、明確にするのがかっこいいと思えなくなってきていたりもして。そういう意味でも“飴と鞭”を作ることができてよかったです。
──「はっ!」と息を呑むような音で幕切れるのが想像力をくすぐります。緊迫した余韻を感じるエンディングです。
一瀬 もともとはブレスを入れる予定ではなかったんですけど、入れてみてよかったです。「気づいてくれるかな?」って話していたんですけど、気づいていただけて嬉しいです。
岩淵 「シリアスに聞こえるように入れてみよう」という意図でした。
──サウンドの全体像に関しては、どのようなことを考えていました?「ギターソロは飛ばして聴く」みたいな話もありますけど、「なら、なおさらギターソロを聴かせてやろう!」ってなります。僕はギターじゃないんですけど(笑)(岡田)
一瀬 10周年を迎えるにあたってテイストを変えていこうという話をしているんです。これまでのMOSHIMOは青春的というか、きれいめなロックだったんですけど、年齢を重ねてきたのもあって、ドロドロしたこともやってみたくなってきているんですよね。だから“飴と鞭”もそういった世界観を出しています。新しいアレンジャーにも入ってもらいました。
──FantasiaのメンバーでもあるボカロP、歌い手のpaloさんですね。
一瀬 はい。そういうことによってもグレードアップしたMOSHIMOを出したいと思っていました。
岩淵 電子音というか、鍵盤に入ってもらっているのは、意外と初めてなんです。
高島 最初のベースのスラップも印象的ですよね。あのベースにドラムのビートを当ててみるとバウンスするんですけど、アンサンブル的にもそれが正解なんです。でも、そうするとポップスじゃなくなるので。最近気づいたんですけど、僕が「これがめっちゃいい」って思うものは、大体みんな微妙な顔をするんですよ。
一瀬 それはあるのかも(笑)。マニアックだから。
高島 だからこの曲のビートも選んでもらいました。バウンスしない、わりと淡々としたビートです。シンセが加わったり歌詞が乗ったりすると、結局選んでもらったこれが正解だったと感じます。淡々と進んで行くのが、物語が進んで行く感じと合っているので。
──岡田さんは、ベースに関してどのようなことを考えていました?
岡田 僕は加入して1年くらいなので、僕のベースによってクオリティが上がったように聴かせたいというのがありました。今までの経験を活かして、いろんな面でこだわりましたね。スラップはもともとそんなにやらないんですけど、こういう要素も入れることで今までのMOSHIMOとの違いを出せるのかなと思っていました。
──MOSHIMOの楽器隊は、歌に遠慮しないで思い切りガツン!とプレイしていますよね。
岡田 そうなんだと思います。岩淵さんの声に特徴があって音が抜けるし、ベースでいろいろやっても被んないので。
岩淵 私、声がでかいんだと思う。昔、レコーディングの時に歌ったら、エンジニアさんが「うわあああっ!」って声を上げたんですよ。めちゃくちゃ声が大きかったらしくて。使っていたのがアメリカの機材で、デフォのセッティングがアメリカ仕様だったんです。でも、使ってみたら声が抜けてこないので、上げ目のセッティングにしていたんですよね。
──デフォルトのセッティングは、日本人のシンガーに合っていなかった?
岩淵 そうみたいです。「ポチ(岩淵)ちゃん、アメリカ仕様で行けたよ! 声量が全然違うんだ」って言われました。
一瀬 喋り声もでかいからね。
岩淵 恥ずかしい(笑)。
──MOSHIMOって、意外とラウドバンドだと思いますよ。
岩淵 確かにそうですね。使っているアンプもディーゼルとヒュース&ケトナーだから、実はそんなに優しい音ではやっていないんですよね。
──岩淵さんのかわいい声に騙されてはいけないんです。
岩淵 そんなに「かわいい」って言われないから嬉しい(笑)。
一瀬 かわいい声質だから後ろの音は重たいほうが面白いだろうなというのは、昔から思っています。
高島 ドラムも岩淵さんの歌に合わせた設定になっているところがあります。「キックもバカでかくていいでしょ」って。
──2023年にリリースした『CRAZY ABOUT YOU』の時、高島さんは26インチのベードラを使っていましたが、あのサイズは完全にハードロック仕様ですよね。一般的には22インチとかですから。
高島 “飴と鞭”も26インチです。エンジニアとドラムテックも「ローが出る!」って喜んでいました。
岡田 ドラムであれだけ低音を出してくれると、ベースも低音を出せるんですよ。パワー感を出すことができます。
──ギターソロも思いっきり弾いていてかっこいいですね。MOSHIMOは、ギターソロも大事にしているという印象があります。
一瀬 一応ギターロックバンドなので、ギターソロは入れていこうと思っています。
岡田 「ギターソロは飛ばして聴く」みたいな話もありますけど、だからといってギターソロを入れないのは違うなと思っています。「そういうことなら、なおさらギターソロを聴かせてやろう!」ってなりますよね。まあ、僕はギターじゃないんですけど(笑)。
一瀬 MOSHIMOの今までの曲も、わりとギターソロがあるんです。