──“飴と鞭”は約3分半ですけど、短めの尺の中でドラマチックな展開が凝縮されているのも楽しいです。10周年を迎えた今、自由に作ったものをどう受け止められるのか考えられるようになったし、考えちゃうようにもなっているんです(岩淵)
一瀬 そういうのは最近意識しています。世の中全体で長い曲が少なくなってきているので、合わせていこうと思っていて。
岩淵 過去のMOSHIMOの長い曲もいいと思っているんですけど、「そんなに説明は要らないのかもしれない」と思うようになりました。短くなっていくのはいい方向だと思います。音楽って、サビひとつでいいのを書けたら、それだけで気持ちは動きますから。
──“飴と鞭”の歌詞も感情の揺れ動きをじっくり描写しつつも、全体的にシンプルです。
岩淵 《まだまだ満たされてない》のラップみたいなところは、素直な自分の気持ちです。「現状に満足してないし、もっといろいろな場所でライブをして、いろいろな人に知ってもらって、ライブバンドとして生きていきたい。愛されていたい」って思っているんです。「今の自分の現在地ってどこだろう?」と考えながら素直に書けたのが、そこの部分ですね。
──心の声的な描写がウィスパーで、普通に歌っている部分との掛け合いみたいになっているのも印象的です。
一瀬 海外の音楽も含めて研究しているんですけど、ボコーダーを使ったり、ハモりとかを重ねている曲も多くなっているじゃないですか。「そういうのでまだやってないやり方ってないかな?」と考えて、ウィスパーを推してみることにしたんです。岩淵のウィスパーは音が抜けるんで、いいんじゃないかなと。
岩淵 小声でもでかい?
一瀬 うん(笑)。
岩淵 ダブル、トリプルの重ね、ハモりも入っていたりとか、声の倍音を広めて気持ちよく聴ける楽曲は増えていますよね。今までのMOSHIMOはシンプルに自分の声1本で、ハモりはみんなに入れてもらうライブに近い形の音源の作り方でしたけど、変えていくのはありなのかなと思います。
──岡田さんはMOSHIMOの楽曲制作に関して何か感じていることはありますか?
岡田 楽曲提供をやっているというのもあると思うんですけど、方向性を定めてそこに辿り着くのが得意なんですよね。
岩淵 でも、自分の曲となると、何を書いたらいいのかわからなくなったりもするんです。だからテーマが決まっているタイアップはありがたいんですよ。求められていることを踏まえつつ、「それ以上のエッセンスをどこで出すか?」って考えるのが楽しくてしょうがないです。だから今後、彷徨うことになるんだろうなと思っています。
──10年やっていると、そういう課題とも向き合うことになるんですね。
岩淵 そうなんだと思います。2024年は地元の福岡に仲のいいバンドを呼んでMOSHIMO主催の「MOSHIFES.」をやったんです。コロナ禍の影響で地元でやれなかったこともあった「MOSHIFES.」をもともとの形に戻せて、自分たちの中で達成感がありました。そういうことを経ての10周年ですけど、「どう音楽を作っていくのか?」と考えることになるでしょうね。絵にたとえると「海の絵を描く」というテーマを踏まえたら、色は何を使ってもよかったりするのが楽曲提供。でも、MOSHIMOでの曲作りって白いキャンバスと向き合うことになって、それを大きくも小さくも好きにできるし、切り刻んだとしても構わないんです。
──自由にできるがゆえの大変さということですか?
岩淵 はい。大人になって10周年を迎えた今、自由に作ったものをどう受け止められるのか考えられるようになったし、考えちゃうようにもなっているんですよね。そういうところを彷徨いながらスタートする2025年だろうなと思っています。
──そういう予感もある2025年のスタートを飾るのが“飴と鞭”ということですね。『闇芝居』のスタッフさんたちの反応は、いかがでしたか?
岩淵 「すごくいいです! 時間のない中、本当にありがとうございます! エンディングの尺にもぴったりでした!」とおっしゃっていました。
一瀬 「29.5秒」と言われたら僕らは29.5秒で作るので。そこも作家業が活かされているところですね。
岩淵 意地でもぴったりのいい曲を作りたいというのがありますから。
──『闇芝居』の熱心なファンにも喜んでいただけたらいいですね。
岩淵 そうなったらいちばん嬉しいです。私、ガンダムが大好きで、アニメもめっちゃ観るんです。昔、超超超オタクだったんですよ。ガンダムが好きすぎて、「この曲、ガンダム愛を感じないんだけど」って思うとすごく腹が立っていました。「この人は商業目的でやってる! ガンダムのことが好きでやってない!」ってリストを作っていましたから(笑)。商業目的になるのはわかるけど、だからこそちゃんと愛を持ってやってほしいんです。
一瀬 作品にリスペクトがあってほしいということだね。
岩淵 うん。「曲がはまってねえ! 私のガンダムがあ!」ってなることがありました(笑)。
──MOSHIMOは10周年ですが、前身バンドのCHEESE CAKEでの活動も含めると20年くらい?いろいろ葛藤はありそうですけど、「もうやりきった! 音楽をやめよう!」ってならない。楽しく音楽をやっていきたい(岩淵)
一瀬 CHEESE CAKEも入れると18年とかです。高校1年生くらいの頃からやっているので。
岩淵 長っ! しぶといね〜(笑)。あんなに死にそうな時期が何回もあったのに一応バンドがちゃんと続いているのが嬉しいです。
一瀬 お客さんのおかげ。
岩淵 ほんとそうだと思う。感謝しています。
一瀬 いろいろありましたけど、楽しくやれるようになってきました。
──岩淵さんと一瀬さんの喧嘩は、多そうですけど。
一瀬 喧嘩はよくしてます(笑)。最近も「会社やめる!」ってブチ切れてましたから。
岩淵 あれはおまえが悪いんだよ。
一瀬 どうでもいいきっかけで喧嘩が始まって。
岩淵 どうでもよくない! あれは! ……って、こういうことだよね?(笑)
岡田 こういう流れで喧嘩が始まるんですね(笑)。
一瀬 「バンドもやめる! 会社もやめる! 全部やめる!」っていう感じでしたね。ウチの会社の所属バンドのパーカーズにそのことを話したら、メンバーの一部が泣いてました(笑)。
高島 誰?
一瀬 けんちゃん(豊田賢一郎)。ラーメン食べながら泣いてた。岩淵がやめると寂しかったらしくて。
岡田 いいやつだなあ。
岩淵 「あいつ、そんなこと思っててくれたの?」って嬉しかったです。
一瀬 その横でフカツくんは泣きもせずに大盛り食べてたけど(笑)。
──(笑)。いろいろありつつも、続けてきたから「豊洲サンセット2023」で大好きなスピッツと共演できたんですよ。
岩淵 そうですね。草野(マサムネ)さんがMCで「寅さんみたいなバンドだよね、MOSHIMOは。かわいらしいんだけど生き方とか曲に出てくる不甲斐なさ、おっちょこちょいな感じ……あっ、褒めてます」みたいなことをおっしゃってくださって嬉しかったです。
──2025年の今後の動きに関して、現時点で言えることはありますか?
一瀬 10周年を迎えるこのタイミングからライブの演出も変えようと考えていて。たとえばLEDを使って映像演出やVJもありきでやっていくと思います。12月にはZepp Shinjuku(TOKYO)でライブをします。
──高島さんは、10周年に関して何か思っていることはありますか?
高島 僕はその瞬間のことを一生懸命やるだけにしていて、それが想像もしていなかったところに連れて行ってくれるのをずっと体験してきたんです。東京に出てきた時も、地元が同じだったふたり(岩淵と一瀬)とバンドをやることになるとは思っていなかったですし、もっと言うならば自分がタトゥーを入れるなんて思ってなかったし(笑)。だから「10周年だからこうしていきたい」とか考えずに、とにかく純度の高い演奏をしたいです。それがバンドのためにもなるし、お客さんのためにもなるんだと思っています。
一瀬 2025年に関しては、いろいろお知らせできることがこれから出てくると思いますので、楽しみにしていただけたらなと。
──最新のアーティスト写真、かっこいい雰囲気ですね。
一瀬 実は最近、写真で問題が起きまして……。
全員 (爆笑)。
──何があったんですか?
一瀬 コンビニに張られるライブ広告のポスターにMOSHIMOを載せていただくことになったんですけど、「NGが出ました」という連絡が来て。「なんでですか?」とお聞きしたら、「一航さんのタトゥーが駄目です」と。
──なるほど(笑)。
一瀬 「レタッチしたらどうなんですか?」とお聞きしたら、「真っ白にしてもらえたら大丈夫です」とのことだったので、一航さんのタトゥーを全消ししました(笑)。そのポスターが12月24日から関東圏で張り出されているので、見た人もいるかもしれないですね。
岩淵 あのレタッチの仕方(笑)。
一瀬 ぶっちゃけ、不自然だと思います(笑)。
高島 家族の中でもう80歳を超える祖母だけが、僕のタトゥーのことを知らないんです。タトゥー見たらびっくりさせてしまうと思って写真とかを見せていなかったんですよね。でも、おかげさまでばあちゃんに見せることができます(笑)。
──(笑)。そんな出来事も経て始まる10周年に関して付け加えておきたいことは?
岩淵 しっかり、どっしり進んで行きたいです。10周年を迎えられたのは本当にありがたいことですから、喜んでくださるみなさんを巻き込んでしっかり……しっかりというか、楽しくやりたいかな。曲を作る中でいろいろ葛藤はありそうですけど、それでも好きでやっていることなんです。さっきの話じゃないですけど、「もうやめる!」とか言いつつも、「もうやりきった! 音楽をやめよう!」ってならない。楽しく音楽をやっていきたい。人生の最期を迎えた時に、「お疲れでした!」ってみんなに笑ってほしい。悲しむ人、おらんようにして最期を迎えたいです。「あいつ死んだらしいよ! お疲れ!」っていうくらいの感じで(笑)。