結成から6年、そのひとつの集大成となる11月4日(月・祝)の幕張メッセワンマンに向けて、初となるベストアルバム『全裸』をリリースする感覚ピエロ。全16曲、確かにバンドの歴史を総覧できるという意味では便利な1枚なのだが、じつはこのバンドを知るにはとてもじゃないけど足りない。“O・P・P・A・I”や“拝啓、いつかの君へ”のような「代表曲」だけではとても形容しきれない、というかこの16曲をもってしてもやっぱり定義できない「特殊」なバンド、感覚ピエロとは何なのか、メンバー4人にたっぷり語ってもらった。
インタビュー=小川智宏
僕らのなかでもある種、区切りというか。ここまででまとめるのがいちばんきれいだなと思った(秋月)
――感覚ピエロって、配信とかサブスクではベスト的なものを出してきているじゃないですか。それを今回改めてCDで出すというのはどういう意味合いなんですか?
秋月琢登(G) サブスク限定で出した『1826』が全69曲の完全ベストなんですけど……まあ、たぶん69曲って聴きづらいんですよ(笑)。
――はははは。
秋月 あれは僕らの結成5周年のタイミングの記録みたいなところではあるんですけど。今回の『全裸』は、幕張前というのもあって、僕らの改めての名刺、この1枚聴いてくれたら僕らのある程度がわかるんじゃないかなっていうのを表現したくて。あとはやっぱり、僕らってそんなにCDを出したいバンドじゃないんですけど――。
――そういうイメージはありますね。
秋月 作品作りとしてモノに残すことって必要かなと思って。そういう意味で、僕らのことを好きでいてくれるお客さんに持っといてもらえるものって何かなって思ったときに、わかりやすいベストアルバムってあったほうがいいなって。過去に『Break』ってアルバムを出したときに「僕らの名刺代わりです」って言ってたんですけど、今また6年経ったときの名刺って何やろってなったときに、これかなって。
――端的に言って、この『全裸』は誰に向けて出すものなんですか?
横山直弘(Vo・G) 今まで応援してくれて、これから幕張メッセにも参加するよっていうお客さんと……たとえばフェスで観て聴いてみたいんだけど、それこそサブスクで見たら69曲あってどうしたらいいかわかんないっていう人に対して、「これ聴いてくれたら絶対わかると思うよ」っていう。だから、今まで応援してくれたお客さんに対して僕たちを応援しているっていう証として届けたいというのと、これから出会ってくれるお客さんに対して「感覚ピエロ、これ聴いときゃ間違いないよ」っていうふたつですね。
――よく、ベスト出すっていうときに新曲入れたりもするじゃないですか。でも今回はシンプルに過去曲をパッケージしているもので。そういう意味では「名刺」って言いましたけど、そういう意味合いのほうが強いのかなとは思いました。
秋月 そうですね。あとは僕らのなかでもある種、区切りというか。だから(今年リリースした)“ARATA - ANATA”とか“落書きペイジ”とか“金求 -king-”は入れていないんですよ。ここまででまとめるのがいちばんきれいだなと思って。だから“ありあまるフェイク”で止めましたね。
横山 マスタリングに立ち会って、1曲目から16曲目までノンストップで聴いていったんですけど、僕は自分たちの過去の歴史本を見ているような感じがして。「俺たちの5年間、こんなんだったな……」っていうのを思いながら聴いてました。“メリーさん”とか、僕ら感覚ピエロ結成しましたって世の中に言う前にメンバーで録って、ミュージックビデオも作ってたなとか。いろんなことがあったなって思いながら聴いていたので、当事者的にはひたすらエモい1枚です。
アキレス健太(Dr) それこそ“メリーさん”とか初期の……横山にみんな録ってもらってたんですけど、スタジオの時間とかもあるじゃないですか。お金もなかったんで、1回叩いて「はい、じゃあ次」って(笑)。
横山 内科検診みたいな(笑)。
アキレス そうそう。「俺1回しか叩いてないねんけど」っていう。そういうのとか思い出します(笑)。
滝口大樹(B) 演奏でいうと結構やらかしてたりもするんで、こっ恥ずかしいんですけど、そういうのも含めてタイトルどおり『全裸』なのかなと。そういうほうがこの4人らしいのかな。
――『全裸』ですもんね。フルチンで。
秋月 そうなんです、フルチンです。
滝口 もう、恥ずかしくてしょうがない。
――恥ずかしいけど気持ちいい、みたいな。
全員 ははははは!
秋月 やっぱ、生まれたまんまの姿じゃないとね。
じつは今回リテイクしてたんですよ、ほぼ全曲。でもそれを聴いても僕、何も感じなくて。僕らじゃないような気がしたんですよね(秋月)
――秋月くんは振り返ってどうですか?
秋月 振り返ると辛いことしかないので振り返りたくないっすよね(笑)。まあでも、過去のほうがやっぱ好きなんです、僕は。
――そうなんですか?
秋月 歳取ってくと、なくなっていくんですよね、その感じが。なくなってくというか、薄れるんやなって気付かされるというか。あの頃はお金とか数字にもつながらないなか、悶々として曲を録ってて。今はいろんな人が聴いてくれるようになって救われてますけど、そういうのを録ってたときのエアーが蘇るというか。昔の曲のほうがぶっちゃけ雑いし、ピッチだとか細かいフレーズでいうたらミスもあるんですけど、それも含めて全然いいなって。いい意味で完成されてないのが作品として面白みがある。変に整理されすぎた音源よりはこっちのほうがロックバンドっぽいなって思います。“拝啓、いつかの君へ”ぐらいまでが好きですね。
――その「薄れてきたもの」って?
秋月 なんか……ムカつくことが減ってきましたね。反骨心というか。普段生活している中でムカつくことがあると「これ大事やな」と思って、すごく曲が書きたくなったりもするんで。そういうのは大事やなって。だから……じつは今回リテイクしてたんですよ、ほぼ全曲。でもそれを聴いても僕、何も感じなくて。
――最初はリテイクして入れるつもりだったってこと?
秋月 そうなんですよ。“メリーさん”も“O・P・P・A・I”もリテイクしたんですけど全部ボツにして、やっぱりこっちのほうがいいなって。僕らじゃないような気がするんですよね。
――確かにそうなったら全然違う作品になってましたね。
秋月 なんか、感覚ピエロじゃなくても弾けんじゃね?みたいな気がしちゃったんで。
――なるほどね。でも確かに“拝啓〜”ぐらいまでの時期とそれ以降って、違うと思うんですよね。それが秋月くんが言うように「何かがなくなってしまった」ということなのか「違うものが生まれてきた」ということなのかは取りようだと思うんですけど。
秋月 まあ、そうですね。違うことが芽生えるって感じっすね。背負うものが増えたので、途中から。
――やっぱり初期の曲って、いかにパンチ出すか、どうワンパン食らわすかみたいなところがすごく出ている気がするんですよね。それに対して後半の曲は格段に視野が広がっている感じがする。曲として、あるいはバンドとしてどういうメッセージを発信していくかっていう。
秋月 昔は「パンチ」って言葉むっちゃ使ってたもんね。
横山 まさにそのとおりだと俺も思います。やっぱり抱えているもんが変わってきたというのもそうだし、時代感に影響を受けているところもあるし。そこで「変わってしまってる」って言いかたが正しいのかはわかんないですけど、変わってることは事実なので、それをベストとして16曲にまとめたときに、じゃあ次俺たちはどうしたいのかなっていうワクワクにもつながるから。その変化も楽しんでいけたらいいんじゃないかなと思いますけどね。
これっていうのが一言で言えないのがアイデンティティだと思っているフシもあるんで、感覚ピエロは(横山)
――と言いながら、たとえば“疑問疑答”のあとに“A BANANA”が来たりすると、どっちなんだって思ったりもするんだけど(笑)。
秋月 曲順も、最初はアルバムとして曲順考えようかなとも思ったんですよ。それでパーッと並べてみたんですけど、でも僕らってこういうことなんですよね。“疑問疑答”みたいなシリアスな、ソリッドな曲を出したと思いきや、次に“A BANANA”みたいなのを出すっていう。そこはそのままの順番でいきたいなって。この曲順どおり聴いてもらえたらわかると思う。ひねくれてんやろなって思いますけどね。
――そうなんですよね。だから1枚通して聴くとよくわかるっていうか、ますますわからなくなるというか(笑)。こいつら何者なんだ?っていう。
アキレス ふふふふ。
――新しい名刺をもらったはずなのに、混乱するところもある(笑)。
秋月 でもそれは嬉しいんです、じつは。“ありあまるフェイク”の最後の歌詞で《「てめぇで考えろボケ」》っていうのがあるんですけど、そういうことなんで、言いたいことって。僕らって「“O・P・P・A・I”のバンドですよね」とか、「“拝啓〜”のあのバンドですよね」とかじゃなく、エロとエモとかでもなく、聴く人によって全然変わるんで。僕らも薄いもの作っている気はないし、「感覚ピエロって一言で何?」と聞かれても説明しようがないですしね。
――だから、16曲だと物足りない。やっぱりこれ聴いたら69曲聴きたくなる(笑)。それがこのアルバムの役割なんだろうなと。
秋月 うん。
――そういう意味じゃ『全裸』と言ってるけど全然全裸じゃないのかもしれないなと思います。
秋月 まあ、でも結構さらけ出してる気はしてますよ。でも案外出切ってないのかもしれない。というか、弄んでるのかも、ピエロっぽく。
横山 これっていうのが一言で言えないのがアイデンティティだと思っているフシもあるんで、感覚ピエロは。
――そのアイデンティティはちゃんと出していると。それは確かにそうですけど、よくそれで6年戦ってきましたよね(笑)。それがこのバンドのすごさだと思う。
横山 確かに、いちばんややこしい戦いかたしてると思うんですよ。だって「○○好き必聴」ってついたほうがわかりやすいですもん、当たり前に。そこにはめられないってことは、僕らの入り口にたどり着くまでに結構時間がかかると思うんですよ。でも入り口まで来て扉を開いてしまえば、その人にとってのオンリーワンの存在になれると思う。その入り口まで来てくださいよっていうアルバムにできたのはよかったかな。
――これがこういうベストアルバムになったこと自体が、感覚ピエロの戦いが続いていることの証明ですよね。少なくとも4人にとってはまだ「知ってもらうフェーズ」が続いているんだなっていう。
秋月 もっとコアなベストにもできましたからね。でもそこは違う。
滝口 時が経てばそういうものもあるかもしれないですけどね、望まれるのであれば。
秋月 まだ全然足りない。満足はしないのでね、基本的に。どんだけいきゃあ足りるのかわかんないですけど、たぶん一生思わない。
滾る方向というのは変わってきてます。悪ふざけでおちょくってやろうぜってところから、「俺、こう思ってるんだよね」っていう方向に(横山)
――そんななかでも、ここまでの歩みというのは自分たち的にはどういう感触なんですか? いい感じで来てるなっていうことなのか、なんだかんだありながらどうにかたどり着いたなっていう感じなのか。
秋月 後者ですね。選択肢むっちゃあるなかで引いてきた結果なので。思惑どおりいっているところもあるし、全然真逆なところもあるし。
横山 まだ全然道の途中で汗かいてる途中なんで。がむしゃらに走ってますね。
――最近の曲聴いていると、もちろん初期とは違うかもしれないけど、滾る感じとか衝動性が、また出てきている感じもするし。
横山 バンドが5、6年歳取ったってことはそれぞれの人間も同じだけ歳取っているので、滾る方向というのは変わってきてますけどね。“O・P・P・A・I”みたいな悪ふざけでおちょくってやろうぜってところから、今は向かうべきところが「俺、こう思ってるんだよね」っていう方向に変わってきてる。
――それは曲を書いていて自然に出てくるものですか?
横山 曲を書いているときよりもステージに立っているときのほうが思いますね。お客さんに対して言葉を投げかけているときに――昔だったら乱暴なこと言ってライブを終わってりゃよかったけど、今はちゃんとお客さんに「ありがとう」ということを伝えたいし。そういう変化は曲書くときも、こうして取材を受けているときも、影響は出ていると思いますね。
――うん。そういう意味でも、感覚ピエロがこうして進んでくるなかで、いちばん変わったのは横山くんだと思うんですよね。フロントマンとしての佇まいとか、発信するものとか。
横山 ああ、よく言われます。結成当初は大学生だったのが、今は27で。大学生のときにやってたときのお客さんよりも、今のお客さんは歳下が増えてくるわけじゃないですか。そこに対して自分が何を見せなきゃいけないのかなっていうのはよく考えるし、そういう意味では変わってるのかな。フロントマンとしてやるべきことだったり。
――そうやって横山くんが覚醒することでバンドも変わっていったと思うんですよね。それがこのベスト盤に出ている変化のひとつの要因なんじゃないかなと。
秋月 それはあるんじゃないですかね。やっぱりボーカルが引っ張っていってもらいたいので、ライブとかは。MCも基本的に今は横ちゃんに任せますし、いちばんのバンドの「口」なので。
横山 でもこの5、6年でいちばん変わったのはアキレスでしょ。名前変わってるし(笑)。
滝口 ははははは!
秋月 でも健ちゃんはいちばん変わってないよ。
アキレス 濃くなってるだけ。
秋月 そうそう。沈んでたものが浮き上がっただけ、流木みたいに(笑)。
アキレス 意地でも変わらないつもりなんで、僕は。それを濃くしていくのみなんで、絶対曲げないです。
――だいぶ濃くはなってますよね。
秋月 いろんな意味で(笑)。
アキレス だから、ボーカルが強ければ強いほど、俺はそれに勝とうとしている。
横山 『少年ジャンプ』方式でしょ?
アキレス いちばんの敵、ライバルはここにいる。
秋月 根本的に全員目立ちたがり屋なんですよ。ボーカル食いにいくぐらいの楽器陣なんで。そこで横ちゃんが結成当時より全然勝ってくれてる。昔はめっちゃ言われてたんで、「ボーカルいちばん引っ込むね」って。
――変な言い方ですけど、この個性的なメンツで、脱退とかメンバーチェンジもなくやってこれたというのもすばらしいですよね。
横山 なんとか……。
アキレス ギリギリよな(笑)。
秋月 干渉しないのが秘訣ですかね。もっと言いたいことはあるけど、言っても聞かないので言わないっすよね。
――それは信頼じゃなくて諦め?(笑)。
秋月 諦めですね。信頼は別のところでありますけど、このメンバーと付き合ってくなら、諦めることも大事だなって(笑)。そもそも友達でも幼馴染でもないですし、ぶっちゃけどんな人生歩んできたか知らないし。
――それは逆にいえば感覚ピエロじゃないとなし得ないこと、感覚ピエロだからこそできることっていうのがあるから一緒に続けているんですよね。
横山 それしかないんじゃないですか。無理でしょ、このバンド以外で。
アキレス 信頼というよりリスペクトなんかな。
――やっぱりそれまでやってたバンドとは違う?
横山 ぜーんぜん、違う! それはいい悪いとかいう話じゃないですよ。そうあるべきだし、そうあることが喜びなんだと思うし。でも全然違います。
秋月 このバンドはおもしろいよね。変わってるよ、ほんと。
ベストアルバム『全裸』ティザー映像
ベストアルバム『全裸』2019年9月4日発売
完全生産限定プレミアム盤 JICD-00006~7 / ¥4,500+税
・CD 全16曲
・限定DISC「O・P・P・A・I Remixes」全5曲
・全16曲徹底解析/6年間の軌跡インタビューブック
通常盤 JICD-00008 / ¥3,200+税
・CD 全16曲
〈収録曲〉
[ Disc1 ] 完全生産限定プレミアム盤、通常盤 共通
1. メリーさん
2. O・P・P・A・I
3. Japanese-Pop-Music
4. D.B
5. A-Han!!
6. 拝啓、いつかの君へ
7. 会心劇未来
8. 加速エモーション
9. ワンナイト・ラヴゲーム
10. 等身大アンバランス
11. 疑問疑答
12. A BANANA
13. ハルカミライ
14. さよなら人色
15. 一瞬も一生もすべて私なんだ
16. ありあまるフェイク
[ Disc 2 ]
特典Disc「O・P・P・A・I Remixes」※完全生産限定プレミアム盤のみ
1. O・P・P・A・I (TeddyLoid remix)
2. O・P・P・A・I (ハヤシヒロユキremix)
3. O・P・P・A・I (naotohiroyama(ORANGE RANGE/ delofamilia) remix)
4. O・P・P・A・I (shinnosuke yokota remix)
5. O・P・P・A・I (岡崎体育remix)
ライブ情報
感覚ピエロ5-6th anniversary『LIVE - RATION 2019 FINAL』~幕張ヴァージンはあなたのもの~場所:千葉 幕張メッセイベントホール
日時:2019年11月4日
開場 17:30/開演 18:30
チケット:前売:¥5,800(税込)
※年齢制限:小学生以上有料。未就学児童は入場不可。
提供:JIJI INC.
企画・制作:ROCKIN’ON JAPAN編集部