ばってん少女隊から新曲が到着した。タイトルは、彼女たちが観光大使を務める福岡県宗像市の「神湊」から取った“虹ノ湊(コウノミナト)”。この楽曲を書き下ろしたのは、時代のムードを汲み取ったチルな日本語ラップでリスナーの心を揺らすRin音だ。最近の作品では「ダンスミュージック×和のテイスト×切なさ」を追求しているばってん少女隊とRin音のコンビネーションは、互いの新鮮な要素が溢れ出るほど抜群な化学反応が起きている。
以前は踊れるロックやスカコアを歌っていたばってん少女隊にとって、この楽曲の究極の「切なさ」を表現するのは新たな挑戦だったようだ。普段のコミュニケーションでもそうだが、感情を爆発させて何かを伝えるよりも、些細な感情の機微を表に出して相手の心を動かそうとするほうが難しい。でもそれが届いて心が通じ合えた時、身体の芯から温まるような関係性ができあがる。楽曲やMV、ライブのセットリストなどのクリエーションから取り組むばってん少女隊の創造力と表現力は進化し続け、この夏さまざまなフェスのステージを通してさらに逞しくなっていくだろう。
インタビュー=矢島由佳子
一人ひとりの意見が本当に大切で、「誰かが言うから私は言わなくていいや」が通用しなかったツアーかなと思います(上田)
――5月に開催した九州全県ライブハウスツアーでは、メンバーひとりずつ各県のセットリストを考えるという試みをしていました。それはどういった刺激や発見がありましたか?瀬田さくら 今までもセットリストはメンバーで考えるようになっていたんですけど、今回は最初におおまかなセットリストを決めて、そこから各県担当がそれぞれの県の雰囲気とかをイメージしながら好きな曲を入れるということをやりました。まずおおまかなセットリストを決める時に意見を持ち寄ったら、「自分はこういうライブがいい」と思っていたけど、他のメンバーからは違う意見があったりして。いろんなライブの面白さを知ることができたなと思います。
春乃きいな 自分の担当県は自分の意見が通るので責任感も大きくて。そこは成長できた部分だなと思います。
上田理子 ステージに立つ前は、県担当の子がめちゃくちゃ緊張してる印象がありました。責任重大というか、背負ってる感がね(笑)。
蒼井りるあ 出てしまえばいつものライブだけど、出る前までは心がそわそわしていて、落ち着かない感じがありました。
希山愛 1曲目で県担当の子がお客さんを煽ってライブがスタートするという流れだったんですけど、もうそれがめっちゃ緊張しました。やばかった。
柳美舞 私は煽りとかを考えるのが初めてだったので、「どうすればいいと思いますか?」と聞いてアドバイスをもらったりして考えました。
――自分が選曲してばってん少女隊のライブを作るというのは責任が大きいし、緊張感もありますよね。前回の取材で「最近はメンバー間で話し合うことが増えた」という話をしてくれましたけど、今回のツアーを作るうえでそれがより深まった感覚もありました?
蒼井 私は前よりも、みんなで考える時も自分から意見が言えるようになったかなって思います。
上田 全員で作ってはいるんですけど一人ひとりの意見が本当に大切で、「誰かが言うから私は言わなくていいや」が通用しなかったツアーかなと思います。
瀬田 こういった自分たちで作っていくライブをもっとやりたいなと思いました。
全力で歌うような曲とはちょっと違うじゃないですか。こういう「力を抜きつつ、でもかっこいい」みたいなものにあまり挑戦したことがなかったんですよね(春乃)
――新曲“虹ノ湊”を、ツアーで初披露した手応えはどうでした?
上田 1回目からお客さんもノッてくださって、これから私たちのライブの代表曲になっていくんじゃないかなというくらい楽しい曲で。ライブでここまで盛り上がる曲だということが想像できてなかったくらいでした。これからフェスやライブを重ねるたびにもっともっと成長していく曲なんだろうなと思うとワクワクします。
柳 完成した曲を聴いた時から、歌割りがそれぞれに合っているなと思って、ライブで披露するのが楽しみだったんですけど、いざライブで披露したら思っていたよりもファンのみなさんと一緒に盛り上がれました。
――そもそも「ダンスミュージック×和のテイスト×切なさ」を今のばってん少女隊は追求している中で、今回Rin音さんに依頼したのはどういう理由でした?
上田 Rin音さんは宗像市出身で、私たちは宗像市の観光大使をさせていただいてるんですけど、そういうつながりもあって。
春乃 九州を元気にしたいという想いを込めた曲で、宗像市出身のRin音さんに作詞作曲を、同じく福岡出身のcocoroyenさんにダンスの振り付けをお願いしてできあがっているんですけど。おふたりとも私たちと歳があまり変わらないのに、「こんなものを作れるんだ!」と刺激を受けました。
上田 もとからRin音さんの曲をめちゃくちゃ聴いてたので、Rin音さんにお願いするって聞いた時はびっくりしました。この4人(希山、上田、春乃、瀬田)は、曲ができる前にRin音さんとの会議にも参加してお話しさせてもらって。
希山 同世代で盛り上げていきたいよねっていう話もしたよね。
春乃 夏に向けての曲というのはその時点で浮かんでいたので、夏のフェスに向けてみなさんと一体になれて、九州を盛り上げられる曲にしたいという話をしました。
――夏フェスで盛り上がれる曲をというテーマの中で、この繊細で軽やかなビートと独特なメロディの楽曲が上がってくるのがRin音さんらしいですよね。みなさんは、Rin音さんの音楽にどういったイメージを持っていますか?
上田 Rin音さんの曲は、サビで爆発的に盛り上がるというより、サビすらもおしゃれなしっとりしたイメージがあったので、この曲が届いてサビの弾ける感じを聴いて、Rin音さんの曲で似てるようなものあったっけ?って探しました(笑)。
希山 Rin音さんに書いていただくことが決まってから、Rin音さんの曲を歌ってみたんですけど難しくて。世界観がすごいなと思います。
上田 デモ音源からすでに爽やかさとか弾ける感じが伝わってきて、最初は私たちにこの良さを出せるのかが心配で。ラップパートのおしゃれな感じも今まで挑戦したことなかったですし、サビは弾けるんですけど常にリズムも崩せないし、ラップのかっこ良さも残しながら楽しさを表現することとか、もう全部やったことがなかったので。
春乃 こなれ感というか。全力で歌うような曲とはちょっと違うじゃないですか。私たちの今までの曲は全力か、“OiSa”みたいなスンってしたようなものが多かったので、こういう「力を抜きつつ、でもかっこいい」みたいなものにあまり挑戦したことがなかったんですよね。まだまだそこはもっと上手くできるようになりたいなと思っているところです。
希山 私も初めて聴いた時は、速いし「これは歌えるのか」って不安になったんですけど、聴けば聴くほどかっこいいなと思って。実際にできあがった音源を聴いた時、また新たなばってん少女隊をみなさんにお見せできるんじゃないかなと思いました。
蒼井 これを初めて聴いた時は、おしゃれだし、ラップがかっこいいし、やったことのない感じの曲調だし、「できるのだろうか」って思ったんですけど、ライブでやるとファンのみなさんが盛り上がってくれる感じも楽しくて。でももっと力を抜いてかっこよく観せられる魅せ方を研究したいなと思ってます。
《人生がもし2回あるのなら》という歌詞を解釈するのが難しくて。でも私自身も青春の中の悩みとかはあるから、その感情を歌に乗せられればいいなって(柳)
――「こなれ感」ってきいなさんが言いましたけど、まさにこの曲の「切ない」という感情とかを伝えるには、たとえば全力でヘドバンして盛り上がるスカパンクとかとはまた違う熱量や繊細な表現力が必要ですよね。人間力が丸裸に出るようなものでもあると思うし。
上田 今回cocoroyenさんという18歳の方が振り付けてくれたんですけど、できあがった振り付けを見た時に「え、難しい」みたいな感じだったんですよ(笑)。みんなでガチガチに揃えるとかじゃなくて、それぞれの表現力がないと成り立たない振り付けだなと思って。それは……もうちょっと頑張りたいって思うくらい、まだまだ追いついてはないんですけど。
――理想に辿り着くためには何が必要だと思いますか? ただひたすら練習すればいいというわけじゃないですよね、きっと。
希山 私は、ライブの時は全身で音楽を感じたいなと思って。何も考えずにただもうその場で楽しんで表現しようって。
瀬田 なんならお客さんも私たちのことを観ずに楽しんでる方もいて。それくらい私たちも自分たちの世界に入れるといいなって思います。
上田 お客さんとどっちが楽しさを表現できるか勝負、みたいなところはあるよね(笑)。
蒼井 Aメロ、Bメロは切なさを出すために、指先まで気をつけることを意識してます。サビは視野をすっごく広くする感じで、みなさんが楽しんでくれてるのを見て自分も楽しむということを考えながらやってます。
春乃 ツアーの初日に初披露した時はガッチガチだったんですけど、披露していくにつれて、ファンのみなさんが思い思いに楽しんでくれている姿を見て私たちもすごく楽しくなって。楽しさを高め合っていくことで成長する曲だなと思うので、よりよい表現ができたらみなさんももっと楽しんでくれるだろうなって。レッスン場でたくさんレッスンするのもいいけど、もっといろんなところでたくさん歌って掴んでいきたいなと思います。
――しかも、恋愛の切なさだけじゃなく、いろんな種類の切なさが織り交ざったような歌詞ですもんね。
春乃 最初の愛ちゃんのパートにある、都会に憧れる気持ちとか、「でも自分が育ったところにも良さがあるんだ」みたいな気持ちにすごく共感しました。それは地方で育った人に共通する感覚なのかなと思うんですけど。私も長崎出身で、東京はもちろん福岡さえも都会に感じて憧れた時があったし、でも高校生くらいになると自分の街にもいいところがたくさんあるんだなって気づいたので。そういうところはたくさんの人に共感してもらえるんじゃないかなと思います。
上田 大人になって故郷を思い出す時にも聴いてほしいんですけど、今の若い子たちに「みんなが住んでいるところもいいところだよ」って言ってあげたいというか。そういう曲でもあるのかなと思います。
瀬田 ばってん少女隊が東京とかで活動する選択肢もあるけれど、やっぱり福岡・九州を盛り上げたいという気持ちとか、みんなそれぞれ地元が好きという気持ちがあって、それが歌詞に乗っているなと思います。レコーディングの時は、ちょっと寂しさとかグッとくるものを持っているけど、それを表に出さず、笑顔でずっと地元にいる感じをイメージしました。「みんな帰ってこないかなあ」くらいの笑顔と明るさ。この前成人式があったんですけど、結構もうみんな離れ離れになっちゃっていて。それが寂しいなって思いつつ、でもまた会えるよねっていう、そういうフッと笑う感じを表現しようかなと思いながら歌わせてもらいました。
柳 私はメンバーの中で唯一早口じゃないパートを歌っているんですけど、だからこそもっと感情を出せたらいいなと思って。《人生がもし2回あるのなら》という歌詞を解釈するのが難しくて、「これはどういう意味なんだろう?」って考えたんですけど、私自身も青春の中の悩みとかはあるから、その感情を歌に乗せられればいいなって。レコーディングの時に「もっと悩んでる感を出して」って言われて、その感情になりきって歌うのが難しかったんですけど、新たな挑戦ですごくよかったです。
曲がいいからこそ、活かすも殺すも自分たち次第。そこには怖さもあるけど、たくさん力をつけて良さを伝えていきたいなと思います(春乃)
――この夏はフェスの機会も多くて、ラインナップにバンドが多い中での出演や、初めてばってん少女隊を観る人も多い中でのパフォーマンスもあると思います。ばってん少女隊としてはどういうふうに戦っていきたいですか?上田 前までは盛り上がる曲が多かったんですけど、今年は“OiSa”みたいな、みなさんに自由に楽しんでもらえるような曲もたくさんあるので、それを音楽好きのみなさんと一緒に楽しめたらいいなと思います。
瀬田 以前はロックやスカコアで、そういう音楽が好きな方たちと一緒にぶち上がりたいというのがあったけど、今は別の戦い方もできるような楽曲ができたので。音楽を楽しめるライブをやりたいなと思います。
蒼井 私はまだ青空の下でみなさんと一緒に楽しむということをあまり経験してなくて。実際にそれを体験できるのはすごく楽しみだなって思うし、それを経験して“虹ノ湊”を自分の中でもっと深めていきたいです。たくさんフェスに出させていただけるチャンスを頑張っていきたいなと思います。
春乃 もう音楽はかっこいいものをたくさんいただいていて、そこは本当に誇っていきたいし。私たちのダンスとかフォーメーションはアイドルにしかないもので、バンドさんにはないものなので、それらで魅せることに特化した曲と、みなさんと一体になって盛り上がる曲のメリハリをつけて、私たちらしいステージを作りたいなというふうに思います。
――きいなさんは前回の取材でも「『アイドルだから』って毛嫌いするような人にも届けたい」ということを話してくれましたよね。フェスはその絶好のチャンスでもあると思います。
春乃 そうですね。今までアイドルとかばってん少女隊がまったく視野にすら入ってなかった人たちの目にちょっとでも入れてもらえる機会だと思うので、せっかくの機会を無駄にせず、たくさんの人に観てもらいたいなというふうに思います。アイドルらしく盛り上がる曲だけだと敬遠されがちになるのかなと思うので、“OiSa”とか新しい武器を持って、音でも、そして視覚でも、みなさんを魅了できるように頑張りたいです。
上田 きいなが言った通り、“OiSa”、“わたし、恋始めたってよ!”、“YOIMIYA”、“虹ノ湊”と、かっこいい楽曲をいただいているんですけど、その楽曲の良さを倍増して届けられるかどうかは私たちが重要になってくるので。フォーメーションや振り付けもそうですし、一つひとつの表情や動作から、「なんかステージ観ちゃう」みたいに思わせたいなって思います。
春乃 “虹ノ湊”もそうだけど、曲がいいからこそ、活かすも殺すも自分たち次第。そこには怖さもあるけど、たくさん力をつけて良さを伝えていきたいなと思います。
“虹ノ湊”
ニューシングル『虹ノ湊』
発売中デジタル配信・エムカード
BTRC-1010/1,500円(税込)
絵柄:7種
収録内容:虹ノ湊(音源)/ランダムボイス1種
「『虹ノ湊』リリースイベント」
6月29日(水)福岡・HMV&BOOKS HAKATA7月9日(土)東京・ららぽーと立川立飛
7月10日(日)埼玉・大宮ステラタウン
7月16日(土)福岡・道の駅むなかた
「7周年記念ワンマンライブ」
7月3日(日)福岡国際会議場メインホール「ワンマンライブ」
11月26日(土) 中野サンプラザ提供:BATTEN Records
企画・制作:ROCKIN'ON JAPAN編集部