【インタビュー】「正解がないよね」を正解にしたい──10代の新鋭・バチカン市国に愛されたい、ロックバンドとライブハウスに注ぐ無限の信頼の核心とは?

【インタビュー】「正解がないよね」を正解にしたい──10代の新鋭・バチカン市国に愛されたい、ロックバンドとライブハウスに注ぐ無限の信頼の核心とは?

ラフでざらついたオルタナ的な質感を基調としつつも、ギターソロもスラップベースも2ビートも予測不能な角度から攻め込んでくる、唯一無二のバンドサウンド。喜怒哀楽その他諸々の感情にフォーカスした言葉と旋律が、抗いようなく僕らの心の揺らぎと共振する楽曲世界──。以前ここrockin'on.comのレビューでも紹介した、全員10代の新鋭バンド「バチカン市国に愛されたい」。多彩に弾け回る彼らの音楽性についてディテールを描写すればするほど、彼らの表現自体の核心から遠ざかっていくような不思議な感覚を、彼らのライブを初めて観た時から抱いていたし、その感覚は8月にリリースされた最新デジタルEP『しあわせの定義』でさらに深まった。それでいて、彼らのスリリングな音楽を聴けば聴くほど、その奥底にある「人間への絶対的な信頼感」はくっきりと立ち昇ってくるのだ。バチカン市国に愛されたい──「世界一小さい国まで僕たちの音楽を」という途方もない野望をバンド名に掲げた4人は、ロックバンドという表現形態に何を求めているのか。高校の軽音部で2023年に結成、今春に高校を卒業したばかりの若い彼らはなぜ、特定の音楽性や固定観念からあえてはみ出すように自由闊達な楽曲とサウンドを繰り出し続けるのか。作詞・作曲を手掛けるバンドのキーパーソン・髙橋虎太郎(Vo)に、彼らのロック観・バンド観について訊いてみた。インタビュー=高橋智樹 撮影=小杉歩

俺らはライブハウスを戦場としているので、「どんな気持ちでも、ライブハウスにみんな持ってきていいよ」って。心はひとつだけど、気持ちはひとつじゃないから

──8月の東阪ツアーの前に、5月に渋谷TOKIO TOKYOで開催されたゲリラライブを拝見したんですが、その舞台上で次の東名阪ツアー「2nd ONEMAN TOUR 『僕らのしあわせの定義』」を11月に開催すると発表していました。ツアーの前に次のツアーを発表するバンドはあまり見たことないんですけども?(笑)。「こういうことをしたいよね」というのが、明確にあって。今のバンドの勢いは止めちゃいけないし、劣るところもあるかもしれないけど、その姿勢から勝負をしてるのが伝わればいいなと。──一つひとつステップを踏んでいくように、ライブハウスの規模を少しずつ大きくしていって──というような「予測可能なライブ活動」としてではなく、ロックバンドのライブというものを「普通のこと」として見せたくない、みたいな気持ちがあるような気がしました。おっしゃる通りで。SNSで「11月にツアーやります!」って簡単に発表するやり方もできたんですけど、やっぱりライブで、言葉で伝えたいなって。自分らが掲げてる「ロックバンド」というものを伝えるには、それがいちばん──遠回りだけど、いちばん近道のような気がしたので、それも誇りに思ってますね。──バチカン市国に愛されたいって不思議なバンドだなあと思っていて。普通は、曲が増えて作品が重なれば「このバンドはこういう音楽性で、こういうメッセージを発信していきたいんだ」ということが明確になっていくと思うんですけど、バチカン市国に愛されたいの場合、新曲が出るたびにそこが混沌としていく気がして──。(笑)。──今回のEPも“災”、“月に鳴る”、“慟哭”、“おんがえし”が同じ作品世界の中にあるわけですからね。「音楽性に縛られてない」のはやっぱり──小学生の頃にRADWIMPSを聴いてたんですけど、その時の野田洋次郎さんの感覚が今ならわかる気がします。自分らの可能性も、聴いてる人の可能性も定めたくない──お互いを尊重し合って、一緒に音楽を作っていくものだと思っているので。たとえばある曲で「ダサいやつを救いたい」という気持ちを表現したとして、それだけをやっていくんじゃなくて、欲張っていい気がします。「元気な人にはこのバンド」「悲しい人にはこのバンド」みたいな壁をなくすのが音楽だと俺は思ってるので。

──なるほど。楽しい瞬間も悲しい瞬間もあるわけだから、音楽がどこかに勝手にフォーカスする必要はないという。そうなんです。俺らはライブハウスを戦場としてやっているので、「どんな気持ちでも、ライブハウスにみんな持ってきていいよ」って。心はひとつだけど、気持ちはひとつじゃない、みたいな。そこには俺らのことが好きで観に来てくれる人たちがいるけど、気持ちは別に同じじゃなくていい──泣いてる人がいてもいいし、笑ってる人がいてもいい。それがライブハウスのいちばんの醍醐味というか、いいところなので。それを作品、音源にも込めていきたいなって。

高校の時は「大会で勝ちたい」だけがバンドの総意だったのが、卒業して「こういう人たちに届く音楽をしたい」に変わった感じですね

──アレンジもひと筋縄ではいかないというか、メンバーに要求する演奏力がどんどん高まってますよね。曲作りはどんな流れでやってるんですか?弾き語りで作ったものをメンバーに渡して──ベースもギターも全部自分が考えたものを、メンバーを家に呼んで「こういうフレーズだよ」って伝えるっていうアナログなやり方です(笑)。で、スタジオで合わせてみた時に「このベースラインはギターのこの音と当たるよね」って試行錯誤して。ドラムだけは、「こういうフィルがいいな」というのを口で言って編曲してます。──「難しい」とか「大変」とか言われません?言われるんですけど(笑)、今のみんなのレベルよりちょっと先の宿題を渡さないと、歩みが止まっちゃう気がするし、誰かひとりそれを投げかけるやつがいないと、バンドが成長できない気がするから。「むずいんだけど」って言われても、「できたらかっこよくね?」「……そうだよね」っていうメンバーが集まってるので、信頼もしてるし、ずっと一緒にやりたいなと思いますね。──「同じ音楽が好きな人同士で集まった」とかではないですよね。そもそも結成のきっかけは?高校の軽音楽部で組んだんですけど。今のギターの子(瓶子宝礼)だけが初期からのメンバーで、ベース(海老沢琉七)とドラム(菅原悠晟)は途中から入ってきた形で。高校の時は「大会で勝ちたい」だけがバンドの総意だったんですけど、高校を卒業してそれが消化されて、今度は「こういう人たちに届く音楽をしたい」という気持ちに変わっていった感じですね。──最初は本当に、大会という壁を乗り越えるための傭兵部隊みたいな感じだったんですね。高校ではどのバンドもオリジナル曲をやってたんですけど、文化祭に向けた企画バンドでコピーを20〜30曲やる、みたいなのが3年間あって。だからこそ、無茶振りにも応えてくれるし、そういうところでの信頼もありますね。──そういう演奏面のスキルと根性があったところに、表現すべき「心」がリンクした、ということでしょうね。虎太郎さんが詞曲を書く時は「書こう」と思って集中して取り組む感じですか?突発的に取り組む時もあるんですけど、感覚を忘れないために「1日3曲書く!」って決めて取り組んで──「書かなきゃ書かなきゃ」って思ってるよりは「ああ、時間だから書くか」って動いて、でも自然とテーマが降ってくる感じですね。「今、自分たちに何が足りないかな」っていうのは考えていて。高校生の頃だったら、速い8ビートで、たまにシャッフルするぐらいで、表現が一個しかなかったのが、いろんなバンドさんと一緒にやらせてもらうことが多くなって、それで得た学びを活かしたりして。「こうやったらお客さんは跳ぶのか」とか、ノリを意識して作るようにもなってきたので。「同じルートの動き方でも、キーが変わると照明の感じ方が変わるな」みたいなことをフロアで感じて、すぐ帰って曲を書くという。前はテーマを決めて、自分の好きなあらすじを作って、みたいなやり方だったんですけど、だいぶ自分の感情に近い──今自分のやりたいことに近くなっていて。それは最近のいいことだなと思いますね。
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