【特集】バチカン市国に愛されたい──無垢で鋭利で、だからこそリアルな、ロックの無限の可能性そのもの。ロック新時代への扉をこじ開けた10代バンドの「今」に迫る!

【特集】バチカン市国に愛されたい──無垢で鋭利で、だからこそリアルな、ロックの無限の可能性そのもの。ロック新時代への扉をこじ開けた10代バンドの「今」に迫る!

《閑散と閑散と暮れ泥む歌声を/そっと夢に見る/狭い六畳の部屋に響く/歓声を歓声をってその先の光を/きみに、きみに見せるために/今日も歌っている》(“藍” 読み:ラン)《精神 崩壊寸前 一寸だけ洒落た/赤から青に変わる空模様/全身 強打寸前 壊れかけた身も心も/この歌が終わるまでは/ぎりぎり耐えて、ヒビは入るわ/くるくる回る 空っぽの頭で/今は忘れて 大がつくほどの/馬鹿でいい、大馬鹿者でいいのさ》(“精神崩壊女” 読み:メンタルブレイカーガール)なんなら文字数の許す限り歌詞をありったけ全曲列記してしまいたいくらいに、1曲1曲が心の暗黒と深淵の果てを灼熱のロックでかき回すようなカタルシスに満ちている新鋭バンド、バチカン市国に愛されたい。「世界一小さい国まで僕たちの音楽を」という野望をそのままダイレクトにバンド名に焼きつけた4人が鳴らす楽曲は、どこまでもざらついていて、ささくれていて、聴く者の日常の薄皮に生傷をつけてくるような切迫感に満ちている。ロックの異ジャンル引用と拡大解釈が進み、ロックという概念自体がゲシュタルト崩壊しつつある2026年にあってもなお──いや、そんな価値観のカオスの真っ只中だからこそ、バチカン市国に愛されたいの音楽を表現する言葉はロック以外に思いつかない。

2023年に都内の高校の軽音部で結成されたバンド、バチカン市国に愛されたい。作詞・作曲・編曲を手掛ける髙橋虎太郎(Vo)をはじめ、瓶子宝礼(G)・海老沢琉七(B)・菅原悠晟(Dr)のメンバー4人全員が、今春に高校を卒業したばかりだという。2024年6月の1stデジタルシングル『JOKER』を皮切りに『超救世主』(2025年4月)、『赤のバット』(同12月)、『紫煙』(2026年2月)といった配信楽曲群に加え、今年3月には全4曲の1st配信EP『僕になくて、きみにあるもの』をリリース。まだアルバムも発売されておらず、現時点で音源化されている楽曲は前述の計8曲のみ──という発展途上のバンドであるにもかかわらず、今年2月1日に下北沢WAVERで開催した初フリーワンマンはキャパ100人に対して整理券配布に300人が集結したほか、3月にShibuya Milkywayで行われた初の自主企画イベント「今日だけは世界一小さい国じゃなくてあんたに愛されたい」もソールドアウト満員の大盛況となった。さらに、今年8月に開催予定の東阪ワンマンライブ「1st EPリリース記念 ONEMAN LIVE “僕になくて、きみにあるもの”(8月21日 東京・渋谷WWW、8月23日 大阪・Live House Pangea)」が両日とも即完したのみならず、同公演に先駆けて5月29日にTOKIO TOKYOにて急遽行われたゲリラライブ(こちらも即完)のステージでメンバーから飛び出したのは、11月に新たな東名阪ワンマンツアーを開催するというサプライズ発表だった。ライブシーンで刻一刻と過熱する4人への期待感が、次々にアナウンスされるライブスケジュールによって火に油状態の止まらない熱量を生み出しているのである。そんな4人の現在地を今こそ体感しないわけにはいかないと思い、5月29日のTOKIO TOKYOゲリラライブに臨んだ。
【特集】バチカン市国に愛されたい──無垢で鋭利で、だからこそリアルな、ロックの無限の可能性そのもの。ロック新時代への扉をこじ開けた10代バンドの「今」に迫る! - photo by 小野秀梧photo by 小野秀梧
「Guerrilla Live ver 1.5『INTRODUCTION』」と銘打たれたこの日のライブ。フィードバックノイズを切り裂くようなインストセッションから「新曲やります!」といきなり未発表曲“ウソツ鬼”でオーディエンスを驚きと感激の渦に巻き込んでみせる。鋭利なキメ、蠢くベースライン、不穏なギターフレーズがイントロから赤黒い狂騒感を描き出す中、気怠さと焦燥感が渾然一体となった髙橋の歌声が、観る者すべての衝動を掴んで揺さぶっていく。そして、そのまま“赤のバット”へ突入してアンサンブルが加速すると、満員のフロアはますます熱を帯びていく。《赤のバットで気の済むまで/俺を 殴って 焦らして呼吸を止めて/感度がいいまま 脳味噌(あたま)の赴くまま/狂って 愛して 壊れちまえよ》(“赤のバット”)

“赤のバット”、“藍”のミュージックビデオを観た段階では、漠然と「ちょっとクールなナードっぽいオルタナバンド……的な?」といったイメージを勝手に抱いていたのだが、実際に目の前で音を鳴らしている4人は、ロックが我が身をも焦がす危険物であることを承知で、迷いなく爆音の中に身を投じているような、正体不明の無邪気さと凄味を湛えているように見えた。髙橋:テレキャスター/海老沢:ジャズベースというオーソドックスな組み合わせに対し、緻密なフレーズを弾きこなすリードギターの瓶子がミュージックマン アクシス使用、という異色の弦楽器ラインナップも、その「正体不明感」を増幅する一因だったように思う。“藍”、“タラレバナシ”、“精神崩壊女”、“あこがれ”といった『僕になくて、きみにあるもの』収録曲はもちろんのこと、“赤のバット”など既発曲や未音源化曲も含め、本編12曲+アンコール2曲の計14曲を披露。菅原&海老沢のダイナミックで予測不能なリズム/随所にギターヒーロー感を漂わせる瓶子のギタープレイ/「歌い上げる」よりは「ぶっ放す」とでも呼ぶべき髙橋のボーカル、という各パートの共鳴──というかせめぎ合いは、オルタナなようでロックンロールなようで、その実どのジャンルにも因数分解不能で、だからこそ未知の高揚感に満ちていた。4人一丸のサウンドは荒削りさこそあったものの、それは同時に、10代バンドの「今」の極限進化の瞬間に立ち会っているドキュメント感をかき立てる要因でもあった。《この街にいないことぐらい/わかってるよ、わかってても/チラチラ後ろを振り返って/遠い街まで届くかなんて/わかんないけどさ、まだきみを歌にする》(“タラレバナシ”)
【特集】バチカン市国に愛されたい──無垢で鋭利で、だからこそリアルな、ロックの無限の可能性そのもの。ロック新時代への扉をこじ開けた10代バンドの「今」に迫る! - photo by 小野秀梧photo by 小野秀梧
演奏中のささくれた緊迫感とは裏腹に、MCでは和気藹々とした部室感を覗かせていた4人。そんな中、髙橋がオーディエンスに語りかける。「バチカン市国に愛される絶対条件として、みんなにまず愛されないといけないと思うんで。ロックバンドとして、みんなに愛されに来ました! よろしくお願いします!」──ウィットと本気が痛快に入り交じった髙橋の言葉が、フロアの歓喜とがっちりギアを合わせて、会場丸ごと天井知らずの躍動感へと導いていたのが印象的だった。応援歌にもメッセージソングにもなりようがない、胸の内でこんがらがってドロドロとぐろを巻く諦念や後悔や煩悶に、バチカン市国に愛されたいの音楽はくっきりとしたエッジと加速度を与え、その楽曲に触れる者を前へ先へと突き動かしていく。どれだけ時代が変わろうとも、今ここに鳴っているのは紛れもなく、僕らがロックに見てきた希望そのものだ。《1人きりの夜にダサい歌を書いてる/殴り書きの文字たち、頭を巡ってる/デタラメな嘘でも歌うからさ/辛くなったらそばにいるよ》(“あこがれ”)《気味が悪い? 見た目が酷い?/それだけで追いやられる世界なら/お前だけを幸せにしたい/無意味な日々を淘汰》(“JOKER”)まだ何も成し遂げていない若いバンドながら、その一瞬一瞬が破格の可能性とともにある、バチカン市国に愛されたい。前述の11月の「2nd ONEMAN TOUR」は11月8日 東京・渋谷WWW X、11月20日 大阪・Live House ANIMA、11月23日 愛知・CLUB UPSETの3公演にわたって開催される。始まったばかりの4人の物語が、どれだけの変化や挑戦を経て、どんなロックの地平に辿り着くのか。今から楽しみで仕方がない。(高橋智樹)
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