日本インディーズプログレの雄・
八十八ヶ所巡礼は今年8月18日、自身の結成20周年を記念して初の日本武道館ワンマンライブ「八十八ヶ所巡礼 結成二十周年記念公演 日本万歳!!」を開催した。変幻自在なリフとフレーズを、ロックのいかなる雛形でも因数分解不能な3ピース・プログレ異次元へと昇華し続けてきた八八の音楽的な革新性。日本伝統の価値観と現代への憂いをロックに重ね合わせる独自の世界観。そしてオーディエンスを「貴様ら!」と呼びながら圧倒的な信頼関係を構築してみせるライブバンドとしての包容力と連帯感──。そんな八八の核心の数々が渾然一体となって渦巻き、「バンドの20周年の祝福」を遥かに超越した高揚感を描き出した、まさに金字塔的なロックアクトだった。
バンドのキーパーソン・マーガレット廣井(B・Vo)が以下のインタビューでも語っている通り、結成以来20年に及ぶ八十八ヶ所巡礼の歩みは、「武道館ワンマンが目標」でもなければ「シングルヒットでバズ狙い」でもない、むしろその真逆を行くようなプログレ獣道ぶりだった。しかし、その先にあった8月の武道館公演の、どこまでも自由でダイナミックで誠実なステージは、彼らの足跡の正しさを何より克明に物語るものだった。11月から新たに開催するライブハウスツアー「八十八ヶ所巡礼 20th Anniversary tour 日本万歳!!」を前に、バンドにとっても重要な一夜となった武道館公演について、そして11月4日リリースの新曲“ドグマ・スプーキー・ワンダーランド”に込められた「今」への問題意識について、マーガレット廣井に改めてじっくりと話を聞いた。
インタビュー=高橋智樹
武道館やったからといって、僕らはアンダーグラウンド感が抜けないですね。あの景色を見たからといって、創作意欲が湧いてくるわけでもなく(笑)
──20周年記念の武道館公演、最高のライブでした。マーガレットさんご自身の率直な感想は?率直に……「終わったなあ」という感じですね(笑)。「終わってしまって名残惜しい」とかも感じないですし。夢のような感じではなかったです。ちゃんと現実なんだなという実感がありました。普通にライブハウスでライブやってるのと、そこまで大きな差はない感覚でしたね。「無事に終わってよかった」というのがまずいちばんにあって──「これをまだあと20年やるにはどうすればいいかな?」というのを、ライブをやりながら考えたりはしてました。
──ライブの最後に「またいつか、日本武道館で会いましょう!」っておっしゃっていたので、それなりの手応えなり感慨なりを覚えたのかな、と思っていたんですけども?まあ、「僕らにもできるんだな」っていう実感はありましたね。それこそ、20年前には武道館でやれるなんて思ってなかったから。「武道館をやらずにアンダーグラウンドのまま、ずっと長くやり続けたいな」と思ってたし──まあ、武道館やったからといって、僕らはアンダーグラウンド感が抜けないんだけど(笑)。よかったですよ、武道館後に急にメンバー不仲になったりもせず(笑)。
──武道館をやったからいきなり「これからはオーバーグラウンド向きの曲を」とはならないとは思うんですけど、あの景色を経験することは大きな糧になると思うんですよね。そうですね。でも、あの景色を見たからといって、創作意欲が湧いてくるわけでもなく(笑)。まだ今は噛み締めているというか、余韻にちょっとだけ浸っているのかなあと。腑抜けてしまっているというか……僕、普段からずっと腑抜けてる状態なんですけど──。
──いやいやいや(笑)。武道館の前ですら、結構ダラダラ過ごしていたので。だから、全部空っぽになってからまた作り始めるのかなと思うんですけどね。
──あの武道館公演は、意味合い的には20周年の集大成ではありますけど、あれを機に別の章が始まるわけでもないわけですからね。ずーっと第1章のままきてますから(笑)。メンバーチェンジがないというのは、そういうことなんでしょうね。まだまだ……50周年ぐらいになれたらいいですよね。体も動いてるだろうし、ずっと第1章のまま行けたらいいなと。
──ライブ中に「礼儀正しい日本人が大好き!」って叫んでましたね。旧来型のロックの、反体制・反伝統的な価値観から見ると異色な在り方かもしれないけど、それが価値観の根幹になっているバンドってなかなかいないです。そこがブレたら、僕らの必要性がなくなっちゃう気がするんですよ。僕が出会った日本人は、平均的にいい人が多い印象なんです。それが変わっちゃうのが嫌だなあって。触れ合わないとわからないことはいっぱいあるんですけど……うちの両親もそうだし、親戚もそうだけど、周りに優しさを分け与えることができる人たちが常に一定数いないと、世の中おかしくなっちゃうじゃないですか。そうならないように──僕らが20年やってきて、ついてきてくれてるお客さんって、本当にいい人が多いなあと思います。自分勝手に暴れて、周りに迷惑をかけるような人間がひとりもいない、そういうライブであり続けてほしいし。僕はモッシュやダイブの文化はそんなに好きじゃないんですよ。海外のメタルバンドの客とか、殴り合いしてるだけの人とかいるじゃないですか(笑)。傍から見てたら面白いけど、自分のライブで自分のお客さんがあれに巻き込まれてるのを見ると、やっぱりいたたまれないですからね。
「まだまだ人生長いなあ」と思いながらバンドやってますけどね。やることないのがいちばん苦しいと思う
──そういう、「礼儀正しくルールを守る日本人」であるお客さんを前に、ライブ終盤にマーガレットさんが舞台を降りてお客さんのほうに近寄っていくんだけど、お客さんと接触しちゃいけないという興行のルールはしっかり守ってましたね。ハイタッチ「風」のアクションで。当日に「舞台下に降りてもいいっぽいよ」っていうのはディスクガレージの人に言われたので。せっかくだから、やれることは全部やろうと。何百回もできることではないので。ただ、楽器を持って降りたり、お客さんに触ったりするのはダメらしいですね。そのルールを破っただけで「次」がなくなっちゃうことがあることを、名古屋のElectricLadyLand会長の平野さんから言われていたので(笑)。「ライブ中に国歌を途中まで斉唱するのも、場合によっては不敬なことになっちゃうかもしれないから、その確認も会場に取ったほうがいい」って言われて──僕もそれはずっとモヤっとしてたので、ライブの映像を観てもらって「全然大丈夫です」ってOKをいただきました。
──入場SEも“君が代”でしたし、本編ラストは“君が代”イントロからの“日本”でしたからね。前に“君が代”を変えて演奏して問題になったことがあったらしいので。諸々クリアできてよかったですね。いろいろ失敗はしましたからね、人生で(笑)。
──(笑)。武道館って、それ自体を目的にするバンドもたくさんいるし、そこから逆算して「そのためにどういう曲が必要か」って考えるケースまであるくらいですけど、八八が「八十八ヶ所巡礼であること」を貫いたまま武道館に立ったというのは、重要な出来事だったなあと改めて思うんですよね。まあ、今の時代の流れにはかなり反してると思うんですけどね。今はもう若くして、25歳ぐらいでFIREしたいっていう人たちがいっぱいいるじゃないですか(笑)。それはそれで味気ないんだろうなと思ったりするんですけど……だから、「まだまだ人生長いなあ」と思いながらバンドやってますけどね。やることないのがいちばん苦しいと思うので、バンドだけやれててよかったですね。
──ちなみに、MCで「一緒に親孝行しようぜ貴様ら!」と言って“親孝行”を披露していました。ご両親も武道館には来ていたそうですね。ライブには両親と、親戚も──甥っ子も来てくれてて。甥っ子は別に、僕に懐いてるわけでは全然ないんですけど、ライブが終わったあとの楽屋では、少しだけ尊敬してるような目で見てくれてるなあと思って。楽屋で「ギターが欲しい」と言ってたので、「じゃあ今度送るね」とは言ったんですけど……あんまりこんな道は歩んでほしくないなあ、とは思ってます(笑)。