悦楽と戦慄を同時に掻き立てるような、麗しのカオスとでも呼ぶべきサウンドスケープ。ウィスパー・ヴォイスと絶唱の間を激しく行き来するあのハイトーン・ヴォーカル・スタイルで放つ、願いと嘆きが渾然一体となった熾烈なるイマジネーションの世界……3月にリリースされた最新EP『contrast』を引っ提げて、6月12日:大阪・NHK大阪ホール、6月18日:名古屋:日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール、そしてこの日=6月21日:東京・中野サンプラザの3公演にわたって行われた、TK from 凛として時雨の東名阪ホール・ツアー「TK from 凛として時雨 TOUR 2014 “contrast”」。その最終日、ソールドアウト満員の中野サンプラザに鳴り響いていたのは、7月23日にリリースが発表されている初のシングル『unravel』、そしてその先へ向けてさらに荘厳さとダイナミズムを増して沸き立つ、TKの音楽の躍動感と表現欲求そのものだった。

ステージ正面のTKのギター・スペースを半円状に取り囲むように、上手からBoBo(Dr)、大古晴菜(Piano)、須原杏(Violin/大阪・名古屋公演は佐藤帆乃佳)、日向秀和(B)の姿が、舞台を覆う紗幕越しに照らし出され、最後にテレキャスターを構えたTKの姿が映し出された瞬間、客席の高揚感は一気にMAXに到達する――とは言っても、全席指定のホール公演ということもあって、もともと身体より感情と思考に作用し躍動させる音楽の最たるものであるTKの表現が、この日のライヴではよりいっそうピンと張りつめた緊迫感の中で展開されていたが、それがかえって全細胞レベルでの覚醒感をもたらしてくるのも、TK×全席指定ホール会場という組み合わせゆえだろう。ステージを覆ったままの紗幕に映像を映し出しながら、TKのハイトーン・スクリームが中野サンプラザを凄絶で華麗な異世界へ導いてみせた“Abnormal trick”。TKの超高速アルペジオと大古のピアノ・フレーズが乱反射した“phase to phrase”。さらにエフェクトのかかったアコギで奏でる、ハイブリッド感と体温に満ちた“flower”の途中で紗幕が上がり、会場の高揚感がさらに濃密さを増す……たった5人でフル・オーケストラに匹敵するほどのエネルギーとイマジネーションを放射するTK/BoBo/日向/大古/須原の姿を、誰もが身動きすら忘れたように凝視し、曲が終わるとハッと魔法が解けたように拍手を送っていく。

アルバム『flowering』の“daylily”とEP『contrast』のカヴァー・テイクを除いて両作の全収録曲を、アンコールまで含め全17曲の中で披露していたTK。日向の豪腕ベース&BoBoの16ビートとともに描き出す疾走感の中、ダイヤモンドの砂嵐の如き清冽な音像で交感神経を研磨する“Dramatic Slow Motion”、鋭利なカッティングが巻き起こす狂騒感と、須原のヴァイオリンの調べが綴るメロディアスな静謐が交互に押し寄せ、壮大なうねりを描き出していく“Crazy Tampern”といった『contrast』収録曲は、ひときわ鮮烈な輝きと弾けんばかりのヴァイタリティに満ちていた。さらに、「楽しめてますか? 僕はすごい楽しんでます」という挨拶を挟んで日向のアップライトベース&大古のエレピ音色とともに響かせた“fourth”のアコースティックな音像は、観る者すべての心の秘部と共鳴するようなセンシティヴであたたかなヴァイブに満ちていた。

そして、新曲“unravel”! TKの歌とともに紡ぎ出す、めくるめく静寂美の世界。そして轟音一閃、壮大な衝動とメランコリアの一大絵巻へと展開していく。《歪んだ世界にだんだん僕は透き通って見えなくなって/見つけないで 僕のことを 見つめないで》という心の軋みそのままの言葉を凄絶に歌い上げるTK。5人が楽曲の世界観と完全に融け合いながらサンプラザ狭しと鳴り渡らせていく、目映い光あふれる極限の風景……凛として時雨の性急で獰猛なカタルシスとは別種の音世界を、ソロ・アーティストとして追求してきたTKの確かな進化の結晶が、ここには確かにあった。この日のライヴでは“unravel”以外にも、本編で1曲、アンコールで2曲(TKピアノ弾き語りで1曲、TKギター&大古ピアノで1曲)の新曲を披露、新たな次元への突入を予感させていたTK。“Fantastic Magic”“Shandy”と畳み掛けた後に本編の最後を飾ったのは、このツアーのテーマとも言える楽曲“contrast”だった。ポップな親和性を備えた穏やかなAメロの先に広がる、高純度に磨き抜かれた壮麗なバンド・アンサンブル。《永遠なんて憧れの残酷なfakeさ 君は信じてたかい?》という、極彩色の退廃感に満ちた言葉の数々……唯一無二の才気と妖気が広大なホールの空間を完全に支配した、圧巻のアクトだった。
アンコールを求める手拍子に応えて1人で再びオン・ステージ、ピアノの前に腰掛けて軽くガッツポーズをするTKの姿に、驚きと歓声が広がる。まずはひとりで物憂げなピアノ弾き語りを展開、さらに大古と2人で麗しの歌と音のタペストリーを編み上げてみせた後、フルメンバーを呼び込んだところで、「今日は重大なニュースがございまして……」と静かに語りかけるTK。客席が瞬時にざわざわと色めき立つ。が、それに続く言葉は「……BoBoが、新しい短パンをはいております!」。会場が笑いに包まれ、緊張感が一瞬ほぐれたところで、この日のラスト・ナンバーとして響かせたのは“film A moment”。ピアノのマジカルなイントロから、光と闇の間を疾駆するようなスリリングな音像がオーディエンスの頭と身体を震わせ、天を突くようなTKの渾身の絶叫が観る者すべての魂を突き刺して……終了。
TKに続いてBoBo、日向、大古、須原が姿を消した後、場内が暗転。そこで舞台背後のスクリーンに映し出された文字は……「TK from 凛として時雨 NEW ALBUM 8.27 Release」の文字! さらに10月には東京・仙台・名古屋・大阪のライヴハウス・ツアーを開催することが告げられると、驚きと感激の声が客席を駆け巡り、一段と高らかな拍手が巻き起こっていく。『flowering』から2年2ヵ月ぶりとなる2ndアルバム。ひたすら己を研ぎ澄ませてきたTKの新たな世界は、もうすぐそこまで迫っている――という期待感が、痺れるような余韻とともに胸を満たした、最高の一夜だった。(高橋智樹)
■セットリスト
01.Abnormal trick
02.phase to phrase
03.flower
04.haze
05.12th laser
06.Dramatic Slow Motion
07.Crazy Tampern
08.fourth
09.white silence
10.unravel(新曲)
11.タイトル未定(新曲)
12.Fantastic Magic
13.Shandy
14.contrast
(encore)
15.タイトル未定(新曲)
16.タイトル未定(新曲)
17.film A moment