ACIDMAN@日本武道館

海外公演を含めこれまで19か所をまわってきたライヴツアー“有と無”のファイナルにして、通算5回目の武道館公演となった今日のライヴ。5回目でありながら、良い意味で慣れやホーム感とは真逆の緊張感と、それゆえの特別感がライヴ全篇を覆っていた。大木伸夫(Vo,Gt)の「もうこの場所で5回もライヴをやらせてもらっています。全て、皆さんのおかげだと思っています。ありがとう」というMCが心からのものであることを、彼らの演奏と演出自体が雄弁に物語っていたのだ。「聖地」武道館でのライヴ、かくあるべし。そういうライヴだった。

開演時間を10分ほどまわった頃、会場が暗転し、SEとして“有と無(introduction)”が鳴り響く。となれば、アルバムの流れを再現し、続くのはもちろん“永遠の底”。最初のコーラスでの大木の絶唱で1度、曲後半で3人の演奏が爆発するタイミングで2度、それぞれ静→動のギアが入り、熱を待ち侘びた観客にも火が灯っていく。素晴らしいオープニングだ。そこから“風、冴ゆる”~“star rain”とアップテンポのナンバーが連続した中で、驚かされたのが音の鳴り。不穏な程ローが際立つ佐藤雅俊(Ba)のベースと乾いた大木のギター、そしてそれらを時に包み、時にブーストさせる、引き締まり切ったスネアの音が印象的な浦山一悟(Dr)のドラム。90年代後半にシカゴ音響派と呼ばれたポストロックバンド達を彷彿とさせる、高潔な音像である。そんな音で、次々と放たれていく『有と無』からの楽曲たち。新境地とも言えるACIDMAN流ファンクロック“your soul”、落ち着いた上モノに対し異様な手数のドラムがストレンジなムードを醸す“ハレルヤ”、ストリングスを交えた壮大なサウンドスケープで描き切った“世界が終わる夜”など、どの曲もライヴレパートリーとして完全に彼らのものになっており、また観客からも受け入れられている。しかし、そんな中、彼ら自身からある一点における不完全燃焼が述べられた曲があった。歌うようなベースが牽引した“EDEN”である。演奏を終えたとき、大木がMCでこう語った。「今回のツアーで1つ謝らなきゃいけないことがあって、2月からずっと謝り続けてきました。結成当時からストイックに、ファンにも迎合することなく、音楽をやってきました。にもかかわらず、このタイミングで、うちの佐藤がタオルを回しはじめて、すみませんでした。(望んでいたように全員がタオルを回すには至らず)やっぱり俺達はタオルを回すようなバンドじゃないんだな、若旦那にはなれなかったな、と」。ただし、爆笑が起きる会場に対し、それでも「またうちの佐藤がタオルを回しはじめたら、皆さんご協力をお願いします」と締めるところに、バンドへの愛が滲んでいた。

 ライヴのピークを刻んだのは、“Stay in my hand”~“FREAK OUT”~“ある証明”とハードなナンバーの連打で温まりきった会場に対して、改めて曲に込めた想いを大木が語った上で歌われた、ライヴ本編の最終曲“最期の景色”だ。いつか必ず訪れる終わりに向き合い続けてきたバンドだからこそ歌いたかった、歌わざるを得なかったこの曲。あえて「死」を直接的に想起することで、本当に大切なものを確認していく言葉たち。3人の全身全霊の演奏中、渾身の叫びを上げる大木は、歌いながら泣いていた。ドラマチックというより、1つのドラマである、この曲は。この曲によって締められるこのライヴは。大切な場所で、大切な想いを、大切な人間の前で鳴らし、歌う。その意味を芯から意識することで、ロックバンドのライヴはここまで誠実に、美しいものに成り得るのだ。ACIDMANはこの武道館で、またもそれを証明して見せた。(長瀬昇)

■セットリスト
SE 有と無(Intoroduction)
1 永遠の底
2 風、冴ゆる
3 star rain
4 EVERLIGHT
5 アイソトープ
6 your soul
7 FREE STAR
8 EDEN
9 en(instrumental)
10 ハレルヤ
11 2145年
12 ALMA
13 世界が終わる夜
14 黄昏の街
15 Stay in my hand
16 FREAK OUT
17 ある証明
18 最期の景色
(encore)
1 廻る、巡る、その核へ
2 新世界
3 Your Song
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