音楽で星空とあなたの心を繋ぐ「天体ソング」10

人はなぜ星空に心惹かれるのだろう。大昔から人々は夜空を見上げては星座を紡いできた。それだけでなく、星たちが浮かぶ宇宙の謎に踏み込み、その真実に直接触れようと、今も世界で宇宙開発が繰り広げられている。
そして同時に、誰もが思い出の中にあの頃見上げた満天の星空だったり、都会の空でやっと見つけた星の儚い美しさだったり、星空にまつわる鮮やかな記憶を持っているように思う。夜空は想像力を掻き立てるキャンバスであり、神秘を湛えた広大な宇宙でもあるが、一人ひとりの記憶を閉じ込めた風景でもあるのだ。
そんな、夜空のロマンを存分に描いた名曲10をご紹介したい。星空を見上げながら聴けば、また新しい発見があるかもしれない。(徳永留依子)


※リリース順

●スピッツ/“スピカ”(1998)

≪この坂道≫を乗り越えてやがて来る季節に思いを馳せる、おだやかな希望を感じさせる楽曲。スピカはおとめ座の一等星で、春に観られる星。種まきの時季を伝える星ともされ、何かが始まる兆しを感じる歌詞にぴったりの星だ。また「スピカ」はラテン語で「穂先」を意味し、原義は「尖っている」から。暖かな季節の象徴たる優しい星の光がじつは尖っている、というのはなんだかスピッツらしい。

●aiko/“アンドロメダ”(2003)

ふと裸眼で夜空を見たとき、星が驚くほど少なく、妙に悲しくなったことがある。星が減ったのではなく自分が変わってしまったと気付いたからだ。アンドロメダ座大銀河は、地球から肉眼で観測できる最も遠い銀河と言われている。aikoの“アンドロメダ”では、はるか遠くの銀河も見つけられたはずの目が、いつしか大事なものを見落としてしまって、その記憶すらだんだんと薄れていく切なさが歌われている。

●ASIAN KUNG-FU GENERATION/“ライカ”(2008)

1950年代、ソ連の打ち上げたスプートニク2号にただ1匹乗せられ宇宙へ行った犬・通称ライカ。彼女を乗せた宇宙船は地球軌道の周回に成功し、それは地上のすべての生物にとって初めての偉業だったが、はじめから生きて帰ることが絶対にできない片道切符の旅でもあった。悲しい運命になぞらえた歌詞が、開放感のあるコード進行に乗せて歌われるのがいっそう胸を締め付ける。《切実な遠吠え》は彼女の苦しみだろうか、それとも生きた証だろうか。

●the HIATUS/“ベテルギウスの灯” (2010)

ベテルギウスはオリオン座の一等星だが、実は星そのものはすでになくなっており、地球に届いているのは過去の光だけだという説もある。細美武士(Vo・G)は、もう存在しないとされるベテルギウスを「古びた権威」や「過去の封建的な存在」の象徴として登場させたのだという。対して、主人公が思い出そうとする《君の名前》、《君の言葉》は今、信じるべき確かな存在の象徴なのだろうか。それすら星を掴むように遠く、もどかしいーーそんな感情が、叙情的な日本語詞と疾走感あるアレンジから溢れてくるよう。

●ACIDMAN/“ALMA”(2010)

深遠な宇宙に確かに存在する、あたたかな生命の記憶を辿るようなドラマチックな1曲。タイトルは南米チリの標高5000mに建設された巨大望遠鏡の名前から。過酷な環境を切り拓いてまで宇宙の謎に近づこうとする人類の探求心が、≪輝く星に 明日が見えるまで/僕らは手を伸ばす≫という歌詞にもリンクする。アルマ望遠鏡は視力に換算すると6000にもなる力を持ち、それまで観測できなかった遠く、かすかな宇宙のサインをとらえることができるそうだ。それは、生命の起源を紐解くことにも繋がるという。国立天文台の協力のもと撮影されたMVで、アルマ望遠鏡の姿を垣間見ることができる。

●BUMP OF CHICKEN/“宇宙飛行士への手紙”(2010)

“天体観測”(2001)に始まり、近年では“流れ星の正体”(2019)など、宇宙について歌い続けているBUMP OF CHICKEN。これらの楽曲は壮大なテーマを選んでいるはずなのに、人の体温を身近に感じることには毎回驚かされる。“宇宙飛行士への手紙”では、無限に広がる宇宙において我々は小さな存在であるけれど、その中で強く確かに息づく、大切な人との繋がりが描かれる。私達が見上げている星の光はすべて、今よりも過去から時間を越えて届くものだ。それと同じように、過去の記憶が未来の自分たちを照らす光になっていくかのような描写が切なくも美しい。ちなみに作詞作曲を手掛ける藤原基央(Vo・G)の誕生日は「宇宙飛行士の日」である。

●サカナクション/“アンタレスと針”(2011)

「アンタレス」はさそり座の心臓部分でひときわ輝く一等星だが、この曲はアンタレスを描いた歌ではない。サビで繰り返される「シャウラ」は、さそり座の針部分を担う二等星の名前。赤く煌めくアンタレスよりも控えめなこの星を、もどかしい二人の関係に喩えている山口一郎(Vo・G)の詩情が光る隠れた名曲だ。空間を縫うように展開する、まるで星座を紡ぐようなアンサンブルも秀逸。なおさそり座は夏の星座で、地平近くにあるのでひらけた空で見つけやすい。この歌に登場する「僕」と「君」は、街の喧噪から離れて2人星を眺めているのかも、と想像が膨らむ。

●米津玄師/“orion”(2017)

星が最も輝く季節、冬において代表的な星座がオリオン座である。星にはさほど興味がないという人でも、その形を思い浮かべることができるだろうし、誰しも真冬の夜空で見つけた経験があるのでは。米津玄師の“orion”は「冬の星座」たるオリオン座の魅力が存分に表現されている1曲。端正なストリングスや淡く煌めく音像、落ち着いたテンポながらエモーショナルに広がる歌声が、深い冬の夜、白い息を吐きながら星を見上げる情景を思わせる。米津玄師自身も冬の曲を作るにあたり、夜空にオリオン座を見つけた原体験からこの曲が生みだされたという。「あなた」との触れ合いを星に重ね、≪落ちてきたんだ 僕の頭上に/煌めく星 泣きそうなくらいに≫、≪あなたと二人 この星座のように/結んで欲しくて≫と歌われるのが眩しい。

●Base Ball Bear/“ポラリス”(2019)

北極星であるポラリスは、地球が周ってもその位置をほとんど変えず、古来より航海の目印となっている。そのため数多くの作品で「信じられる指標」、「目指すべき方向」といった意味合いで登場する存在だ。この楽曲もまた、ベボベがスリーピース体制を明確に意識し、進むべき方角へ向けて打ち出した作品になっている。≪ギタードラムベース 輝くフレーズ 結んだ先にポラリス≫という歌詞にその信念がにじみ出ているが、ポラリスは実は3つの星が重なった光で形成される「三連星」というのもおもしろい。他にも歌詞には「3」を連想させる言葉が散りばめられている。

●小沢健二/“彗星”(2019)

10曲目には小沢健二にとって13年ぶり、歌入りのものでは17年ぶりとなるオリジナルアルバム――その名も『So kakkoii 宇宙』から、先行配信楽曲である“彗星”を挙げたい。2020年、1995年、2000年代をタイムマシンのように行き交うキラキラとした楽曲。時空を越えメタ的に綴られる視点はなるほど、宇宙を周回する彗星から世界を見下ろすよう。そうして語られるのは優しい光のような、日常への賛歌。長く寒い冬や嘘に苛まれた時があっても、新しい時代の息吹は私たちの部屋にも届き、真実は勝利し、青春は再生する。それはまさに、人類が誕生するよりはるか昔から周期的に地球に近づいては、空を明るく横切っていく彗星のようだと思う。≪今ここにある この暮らしこそが/宇宙だよと/今も僕は思うよ なんて奇跡なんだと≫――何気ない日々の暮らしもまた、宇宙の一部分であり、大いなる奇跡と不思議に溢れているのだ。
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