ドリーム・シアター @ 日本武道館

Photo by Masayuki Noda

“Pull Me Under”に、“Take The Time”に、“Learning To Live”に、満員の武道館一面のシンガロングの嵐が吹き荒れる――。名盤『イメージズ・アンド・ワーズ』発売から25年を経た今なお、いや今こそダイナミックかつ重厚に咲き誇る音楽への冒険心とチャレンジング・スピリットが、日本武道館をプログレッシヴ・メタルの理想郷に変えた、圧巻のステージだった。

Photo by Masayuki Noda

来日公演としては「LOUD PARK 14」ヘッドライナー出演+東京・大阪単独公演を行った2014年以来3年ぶりとなるドリーム・シアター
今年1月から開催されている、1992年リリースの2ndアルバム『イメージズ〜』完全再現ワールドツアー「DREAM THEATER IN CONCERT “IMAGES, WORDS & BEYOND”」の一環として実現した全4公演+追加1公演のジャパンツアー、しかも2008年以来9年ぶり3度目となる日本武道館ワンマン! と最高の条件が揃ったこの日の客席は、開演前からむせ返るような熱気が渦巻いていた。
しかし、ジェイムズ・ラブリエ(Vo)/ジョン・ペトルーシ(G)/ジョーダン・ルーデス(Key)/ジョン・マイアング(B)/マイク・マンジーニ(Dr)が描き出す緻密で壮麗なアンサンブルは、そんなオーディエンスの期待値をあっさり凌駕するものだった。

下記のセットリストの通り、この日のアクトは二部構成の本編の後半に『イメージズ〜』を配したステージ。“The Dark Eternal Night”(『システマティック・ケイオス』/2007年)で幕を開けた本編前半には、“As I Am”のようなキラーナンバーはもちろんのこと、最新アルバム『ジ・アストニッシング』(2016年)からの“The Gift of Music”“Our New World”、セルフタイトル作『ドリーム・シアター』(2013年)の“The Bigger Picture”といった近年の作品も盛り込んで、楽曲/演奏両面で現ラインナップの完成度と訴求力を存分にアピールしていたのが印象的だった。

Photo by Masayuki Noda

超絶技巧と変拍子を緻密に編み上げながら、メンバーそれぞれがプレイヤーエゴに向かうことなく、ミステリアスで荘厳な楽曲世界を構築するために全神経を研ぎ澄ませて、己の素養とテクニックのすべてを注ぎ込んでいく。そして、他ならぬその辣腕プレイが生み出すストイシズムこそが、この場のオーディエンスの求めているものである――ということが、刻一刻と高まっていく武道館の多幸感からも伝わってくる。

そんな中でも、ジョン・マイアングがジャコ・パストリアス“Portrait Of Tracy”カバーを披露したり、“As I Am”にペトルーシ&マイアングがメタリカ“Enter Sandman”のリフを忍ばせたり……といった音楽的な奥行きとウィットを随所に感じさせていた5人。MCでジェイムズ・ラブリエが見せる朗らかな名司会ぶりも、武道館の濃密な一体感をさらに高めるのに一役も二役も買っていた。

Photo by Masayuki Noda

そして――前半から約20分のインターバルを置いて、後半はいよいよ『イメージズ〜』完全再現。この瞬間を待ち詫びた観客の想いが、“Pull Me Under”の冒頭から武道館一丸のクラップを巻き起こし、客席を煽るラブリエに応えて《Pull me under》の大合唱が鳴り渡っていく。
泣きのフレーズからハードなサウンドまで剛軟自在なペトルーシのプレイが冴え渡る“Another Day”では見渡す限りのハンドウェーブが広がり、“Take The Time”では熱いシンガロングとペトルーシ/ルーデス/マイアングの複雑怪奇なユニゾンフレーズが共存する。他のどのバンドにも上書きできない唯一無二の高揚の形が、この場所には確かにあった。
後日加入組のルーデス&マンジーニを擁しながらも、5人が繰り広げるサウンドはまさしく『イメージズ〜』のロックアートとしての先進性を「最新型」の輝度と強度をもって提示するものだったし、変拍子にも確かなグルーヴ感を与えていたマンジーニは、すでにドリーム・シアターのリズムの強靭な軸を体現していることが十分に窺えた。

Photo by Masayuki Noda

ピアノ曲“Wait For Sleep”を除き『イメージズ〜』パートを半音下げで演奏していたのは、ラブリエのコンディションを気遣ってのことだろうし、愛知・広島・武道館と3日間連続公演の疲労をその声から感じる瞬間もゼロではなかった。が、“Another Day”“Take The Time”……と1曲1曲繰り広げられる壮大なサウンドスケープと、演奏が進むごとに高まる客席の熱量を、すべて抱き締めてイマジネーションの頂へと導くエネルギーを、ラブリエの歌と佇まいは間違いなく備えていた。
中でも本編最後、“Learning To Live”で響かせた渾身のハイトーンシャウトは、超絶プレイ満載の『イメージズ〜』再現の中でも屈指の名場面だった。

本編だけで2時間半に及んだこの日のアクト、アンコールではさらに1995年のミニアルバム『ア・チェンジ・オブ・シーズンズ』からトータル23分の組曲“A Change of Seasons”をフルで演奏。実質三部構成と呼ぶべき充実の内容が3時間にわたって展開された、堂々の名演だった。
『アウェイク』『メトロポリス・パート2: シーンズ・フロム・ア・メモリー』など、今こそ完全再現してほしいアルバムはまだまだあって――という勝手な夢想が止まらない、至福の一夜だった。(高橋智樹)

Photo by Masayuki Noda

〈SET LIST〉

01.The Dark Eternal Night
02.The Bigger Picture
03.Hell’s Kitchen
04.The Gift Of Music
05.Our New World
……Bass Solo(Jaco Pastorius“Portrait Of Tracy”カバー)……
06.As I Am
07.Breaking All Illusions

08.Pull Me Under
09.Another Day
10.Take The Time
11.Surrounded
12.Metropolis, Pt.1: The Miracle And The Sleeper
13.Under A Glass Moon
14.Wait For Sleep
15.Learning To Live

(Encore)
En1.A Change of Seasons: I. The Crimson Sunrise
En2.A Change of Seasons: II. Innocence
En3.A Change of Seasons: III. Carpe Diem
En4.A Change of Seasons: IV. The Darkest Of Winters
En5.A Change of Seasons: V. Another World
En6.A Change of Seasons: VI. The Inevitable Summer
En7.A Change of Seasons: VII. The Crimson Sunset
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