髭(HiGE) @ 新木場スタジオコースト

今年の髭(HiGE)はすごい。2月/3月と立て続けに行われた、13日の金曜日恒例(?)自主企画ライブ「CLUB JASON」でも確実に1回1回右肩上がりにギアを上げてきた、ロックン・ロールの愉快な囚人にして異端児=髭だが、3月にリリースされたアルバム『D.I.Y.H.i.G.E.』を引っ提げた同名ツアーのファイナルにして髭史上初のスタジオコースト・ワンマンは、ギアがどうとか右肩上がりがどうとかいうのがどうでもよくなるくらい、異次元のスケールを獲得してしまっていた。あの、ロックの嘘臭くて無責任なところから先に鳴らしてしまうような髭ちゃんのまんま、だ。2曲目“D.I.Y.H.i.G.E.”で爆発して一気に大気圏外に飛び出したオーディエンスの熱気は、ついに終演までの間ダウンすることはなかった。

この日はアルバムのお披露目ツアーではあるものの“髭よさらば”も“夢でさよなら”もなし。自分たちの楽曲というアーカイブを徹底検証し、髭というバンドを改めて構築しようとするような、渾身のセットリストで、“溺れる猿が藁をもつかむ”“ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク”と攻め倒す。ステージと一緒に歌うわ踊るわ、ぎっちり埋まったフロアの一体感も笑っちゃうくらいすごいのだが、それがいわゆるワンマン・ライブにありがちな、ステージとフロアだけで完結した=閉じた盛り上がりには、どうしても見えなかった。なんだかフェスのヘッドライナーか何かを観ているような……ファンに向けて鳴っているのはもちろんのこと、それこそ髭のこと知ってようがいまいがロック・リスナーなら片っ端から巻き込んでいってしまうような怒濤の迫力が、この日の髭の演奏には確かにあった。「やってまいりました! 紛れもなく俺、須藤! とんでもなくいい日になりそうじゃない? 俺たちがミスしなければ」という冗談めかしたMCまで、すべてが心地好い。

演奏が「完璧」だった、ということではない。《このメッセージ聞こえるかい?》というリフレインとともに“Acoustic”で真っ白に輝くばかりのギター音響空間を生み出し、「このメッセージ聞こえるかい? あ、そう? そりゃよかったね! うれしいよ。ありがとう!」とややSなMCをキメたところで、満を持して次の“家”へ流れ込んだ瞬間、よりによって須藤がギターをトチって慌てて仕切り直していたりして、どちらかと言えば全体にハイ・クオリティというよりはざっくりラフな手触りの演奏だった。が、それがまた個々の楽曲に沸々とした衝動を注入していた。そして……オーディエンスの裏をかいたり意表をついたり、ということに集中力の大半を注いでいた髭ちゃんは、ここにはいなかった。裏も表も関係ない、という爽快な割り切りによって、髭の5人(全編サポートしていたDJシラフを含め6人か)の音は素晴らしく乱暴で素晴らしくポップで、素晴らしくロックなものになっていた。

“家”“ミートパイ フロム ロシア”といったサイケデリック・パートに続き、昔のキャンディーズが歌ってそうな軽やかなナンバー“嘘とガイコツとママのジュース”を大音響大会へと導く髭。そして、“黒にそめろ”で再びフロアを沸かせてみせる。「この薄汚え世の中を、真っ黒に染めたね! でも、最高の最高はまだまだとってありますよ、お客さん! 俺たち、まだまだこれからだってこと知ってるから!」という須藤の絶叫から、終盤の“ダーティーな世界(Put your head)”“ギルティーは罪な奴”“ロックンロールと五人の囚人”3連打! “ダーティーな世界”では、最後の見せ場の爆音クライマックス・パートをわざとやらずに、それこそマイブラかってくらいのまばゆいくらいの轟音炸裂サイケデリック空間を描き出してみせる。「ダーティーな世界へようこそ!」という、これまでのライブと同じ須藤の言葉がしかし、不穏で背徳的で、底抜けの快楽とエネルギーに満ちた髭の新たなステージを象徴するように響いていた。そして、真っ白な照明に浮かびあがった彼らの姿はロックの核心に手をかけたスター・バンドとしての存在感に満ちていた。インディー時代から髭のステージを観続けて6年近くになるが、彼らにこんな感覚を覚えたのは初めてのことだ。

「今日はほんとどうもありがとう! 一つだけ……こんないい日ってあるかい?」と、映画のセリフ回しのような例の口調でオブラートに包みながらも、この日の満足感と手応えをオーディエンスにアピールしてステージを去った須藤。アンコールでは、会場のあちこちに映像収録用のカメラが入っていたことを「今日のライブは、DVDで残るから! “家”の入りのミスも、永遠に残ります!」と自虐ネタの一つにしていたのも可笑しかった。それこそ演奏のミスだろうが何だろうが、触れる物すべてを動力源に変えかねないムードに、今の髭は包まれている。終演後に会ったメンバーは口々に「まだまだ行きますよ」と意気揚々と語っていたし、この超高気圧状態の髭がフジ・ロック、ライジング・サンはじめ各地の夏フェス連戦&9月末からの全国ツアーでどうなるか、今から楽しみだ。あと、本当に“家”の演奏ミスはライブDVDに収録されるのか?も楽しみなところだが、それはぜひ、あなた自身が確認してみていただきたい。(高橋智樹)

1.ダイアリー
2.D.I.Y.H.i.G.E.
3.溺れる猿が藁をもつかむ
4.ハリキリ坊やのブリティッシュ・ジョーク
5.Mr.アメリカ
6.ドーナツに死す
7.ブラッディ・マリー、気をつけろ!
8.せってん
9.オーバーグラウンド/アンダーグラウンド
10.Acoustic
11.家
12.ミートパイ フロム ロシア
13.嘘とガイコツとママのジュース
14.黒にそめろ
15.ダーティーな世界(Put your head)
16.ギルティーは罪な奴
17.ロックンロールと五人の囚人

アンコール
18.ミスター・タンブリンマン
19.ボニー&クライド
20.白い薔薇が白い薔薇であるように

アンコール2
21.王様はロバのいうとおり
22.下衆爆弾
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