首都圏を中心に長きに渡って活躍するコンサート・プロモーター、ホットスタッフの、30周年を記念するライブ・イベント。一年前ぐらいからさまざまなアーティストが出演する記念ライブが行われてきたが(各公演のタイトルは、ホットスタッフらしくローリング・ストーンズの作品等にちなんだものになっていた)、今回は横浜アリーナで行われる特大ファイナルである。スペシャル感たっぷりなコラボレーション含め、ビッグ・アーティスト達がズラリとその名を並べるこのイベントは、13:00から総勢12組が、まさに息つく暇もなく次々に登場する豪華絢爛な一日となった。● 木村カエラ∞Perfume
トップ・バッターは、いきなりこの豪華イベントを象徴するような、木村カエラとPerfumeのスペシャル・ユニットである。スクリーン上にその名が映し出されると、割れんばかりの大歓声がアリーナ内にこだました。エレクトロニックなイントロとともに、4人が巨大なステージから更に階段上に設置されたロフト的な「お立ち台」部分に横一線になって現れ、“チョコレイト・ディスコ”を踊り出す(この「お立ち台」を使用したのはこの日、結局彼女たちだけだった)。通常Perfumeの3人が踊る振り付けが、カエラを加えた4人仕様に見事にアレンジされ、ノリノリで踊る表情も楽しそうだ。曲中、左右の階段からステージ上に降りた4人のダンスが、更にオーディエンスに迫る。「こんにちはー!」「じゃあ自己紹介を!」「のっちです!」「あーちゃんです!」「カエラです!」「かしゆかです!」「4人あわせて…」「《木村カエラ∞Perfume》(むげんだい)です!」とキメのポーズをとる。はっはっは、そう読むんだ。「なんてったって2曲で解散ですからね」とあーちゃんが笑いを誘えば、「ひどいね」と歯に衣着せぬ相槌を打つカエラ。「前座ですから」まで言わなくてもいいだろう。「皆さん、この後も一日、楽しんでいってくださーい!」と告げ、今度は縦一線に並んで“Jasper”だ。ユラユラとした振りとビートに合わせて、増殖するように横に広がってゆく4人である。おお、カッコイイ。“チョコレイト・ディスコ”も“Jasper”も、それぞれのアクトにとって最新モードを伝える楽曲ではないが、曲の知名度といいエネルギーといい、イベントの着火剤にはうってつけの選曲だ。互いが互いのダンスをきっちりと務め、4人ユニットとしてまったく違和感がないのもさすがの相思相愛ぶりである。抜けのいいカエラのシャウトが、「イエーッ!」とアリーナ内に響き渡っていった。● 東京スカパラダイスオーケストラ
急ピッチの転換を終え、続いてはスカパラ。ピンクのスーツ姿で登場したメンバーは、オーディエンスを煽り立てるような派手なアクションを交えつつ演奏をスタートさせる。2曲目“テキーラ”で、早くも沸点にぶち込んでいった。GAMOさんのアジテーションといいトロンボーンを左右に振り回す北原といい、アクションはそれぞれバラバラなのだが、各自がきっちり役割をこなして熱狂的な音楽という形を成している点が、オープニング・アクトの華やかなシンクロぶりとはまた違った「チーム」の姿を描き出している。「明日からヨーロッパ・ツアーに行ってきます」との谷中の挨拶。まったく気負わず自信に満ち満ちているのが素晴らしい。「みんな、今日は戦うように楽しんでくれよ!」…簡潔だけど、すごくいい言葉だなあ。「ノらされる」のではなく「ノリにいく」べきスカパラのショウを的確に捉えた言葉だ。ああもう、指定席を用意してもらったから大人しく観ているものの、ぶっちゃけ椅子が煩わしい。情感溢れる沖さんのピアノの旋律が印象的な“そばにいて黙るとき”、ダビーなベース・ラインが聴く者の身体に叩き込まれる“Pride Of Lions”、キャッチーな歌謡的メロディが力強くスウィングしてゆく“Paradise Blue”と、広い視野から落とし込まれ生み出されたオリジナリティ溢れるパーティ・チューンが、最後まで弛まずに披露されたステージであった。ヨーロッパ・ツアーも、どうか元気で行ってきて欲しい。● 鴉
さて、この日の会場には、巨大なステージの向かって左側に、小ぶりなもうひとつのステージがあつらえてある。そちらでは『NEW COMER ARTISTS』と銘打たれた気鋭の新人アクトたちのショウが行われ、メインのステージと交互にショウが行われることで、ステージの転換をスムーズに行う配慮が成されていた。『NEW COMER ARTISTS』の一組目は、秋田出身のエモーショナルな3ピース・ロック・バンド、鴉だ。ソリッドでダイナミックな、メジャー感溢れる演奏を聴かせてくれる。とりわけボーカル/ギターを務める近野淳一の、その眼鏡の文学青年のような風体からは掛け離れたような、爆裂シャウティング・ボーカルから伸びやかなファルセットまで情感豊かに歌いこなす強靭なノドに驚かされた。この8月にリリースされるメジャー・デビュー・シングル曲“夢”、個人的にはそのあと最後に聴かせてくれたスウィンギンなリズムがハードにロックする“黒髪ストレンジャー”がグッときた。実に堂々たるパフォーマンスだ。● 浜真心
この日登場するスペシャル・ユニットの2組目は、浜崎貴司と真心ブラザーズによる、浜真心(はまごころ)である。3人が椅子に座ってギターを抱えるフォーク・トリオ風スタイルで、真心の“素晴らしきこの世界”を歌い終えての挨拶では「はままごころ? ま、は一つ?」とか「むげんだい、じゃないの?」とかいきなりモメている。知らんわ、そんなこと。30周年のホットスタッフを差し置いて、横浜の開港150周年を記念し横浜市在住の桜井が“横浜市歌”を巨大なステージの中央で独唱するという、本人が一番喜びそうな企画もあった。むーかしー、おもえばー、とまーやのー、けむーりー。僕も80年代の初頭に、小学校で校歌や君が代と一緒に歌わされた記憶がある。校歌は覚えてないが、なぜか市歌は覚えている。「早くやれよ」と露骨に面倒くさがっていたYO-KINGも、聴き終えて「いいメロディだねえ」と感想を述べていた。なるほど、ハマ心、だわ。追悼・忌野清志郎として“デイ・ドリーム・ビリーバー”、この3人のコラボにぴったりな気がする“サマーヌード”、YO-KINGもレコーディングに参加した浜崎の“友情のエール”と、三者三様のボーカル・スタイルの絡み合いが良かった。このあと出演するFLYING KIDSにも、自ずと期待が高まる。● moumoon
『NEW COMER ARTISTS』ステージに、ボーカルのYUKAとギターのKOUSUKE MASAKIから成るデュオ、moumoon(ムームーン)が立った。ガーリーなルックスと節回しが印象的なYUKAの柔らかな声が、アリーナに広がる。最初のうちは緊張感がこちらにも伝わってくるようだったが、7/22にリリース予定のシングル曲“On the light”を披露したあと「照明さん、お客さんの顔が見たいので少し明るくしてもらっていいですか?」とリクエストすると、まるで吹っ切れたようにYUKAの歌声の伸びやかさが更に増していった。大きな会場の大勢のオーディエンスに萎縮するどころか、それをエネルギーに転換してしまう表現者としての天然の資質を感じさせる。マイペースなようでありながら、スケールの大きなポップ・ソングを聴かせてくれるユニットだ。● HOME MADE 家族
嗜好も世代もバラバラなオーディエンスが集うこうしたイベントでは、やはりどうしても不特定多数の人々を一息に巻き込んでゆくような、単なる趣味の域を超えた表現の懐の深さが求められる。その意味では、この日随一の求心力を発揮していた出演者はHOME MADE 家族だったかも知れない。MICROは「出てきたときになんとなくアウェイ感を感じた」と語っていたが、ありとあらゆる煽り文句を駆使し、執拗に(だがスムーズに)歌に合わせたスウェイを求め、その上でテクニカルなラップやソウルフルな歌をきっちり完遂していた彼らは見事であった。1曲目の“サンキュー!!”から、歌謡ラップど真ん中の正攻法で切り込んでゆく。最新シングル曲の“YOU〜あなたがそばにいる幸せ〜”では歌詞を丸々、スクリーンに映し出すというサービスまで行っていた。むしろポップ・ミュージックとしては、リズム・パターンにせよフロウにせよ歌詞にせよ、単調さを感じさせるところはある。しかし、いざステージに立って、目の前のオーディエンスに柔軟に対応しつつ、しなやかに、真っ直ぐにパフォーマンスに巻き込んでゆくという姿勢は、他の誰よりも鮮やかな手捌きで行われるものであった。ホットスタッフの30周年という趣旨に向き合って、もっとも真摯な謝辞を述べていたのもまた、彼らHOME MADE 家族なのだった。● ammoflight
実に新人らしい、青くフレッシュなステージを見せてくれたのが『NEW COMER ARTISTS』枠のammoflight(アンモフライト)。神奈川県内や下北沢などのライブ・ハウスを中心に活動する4人組のギター・バンドで、たった3曲だけのプレイではあったけれどもオープニングの疾走感溢れる“トーリ”や、カラフルなギター・サウンドが素晴らしかった“そば湯”など、楽曲のバリエーションの豊かさも感じさせる。もっとも新人らしかったという意味で、明らかにサウンド的には広大なアリーナ向けに作られたものではなかったが、物怖じするでもなく地に足の着いた等身大のギター・ポップを披露してくれて、好感が持てるステージであった。● ザ・クロマニヨンズ
1. クロマニヨン・ストンプ/2.ギリギリガガンガン/3.紙飛行機/4.タリホー/5.渋滞/6.悲しみのロージー/7.くじらなわ/8.スピードとナイフ/9.キラービー/10.歩くチブ/11.エイトビート
なんでクロマニヨンズだけセット・リスト書いてるんだという話だし、ヒロトは特定のセット・リストを褒めたりすると嫌がることもあるが、あくまで個人的な感想として書かせてもらう。45分という持ち時間で考えたら、最強のセット・リストである。書きたくなってしまうのである。もの凄い熱狂ぶりだったし、もちろんパフォーマンス自体が素晴らしかった。黒煙を巻き上げるようなブルージーな“渋滞”にも打ちのめされた。“くじらなわ”ではヒロトが「機嫌がいいので」という理由で通常のバージョンに加え、すべての「山田」、すべての「鈴木」、すべての「根岸」をオイオイオイ!とギューギューひっぱった。「根岸」は「神奈川県でもっとも多い名字」とヒロトが言っていたが、真偽のほどは定かではない。それよりも、《ひっぱって ひっぱって 30年》と書かれた歌詞は原文ママなのだが、まったくこのホットスタッフの30周年記念に、ミラクル過ぎるだろう、マーシー。● のあのわ
だいたい、この日の『NEW COMER ARTISTS』の出演者は、新人離れしたスケール感のステージを展開するアクトが多過ぎる。ammoflightのような、新人らしいグッド・バンドが逆に浮いてしまっているじゃないか。中でも、楽曲を含めた世界観の構築ぶりという点で飛び抜けていたのが、のあのわだった。今回披露された3曲はすべてギタリストのゴウによる作曲であるものの、他のメンバーもそれぞれに作曲を手掛けるなどグループとしての存在感も非常におもしろい。ビートの捉え方にせよ、立ち上るメロディにせよ壮大なアンサンブルにせよ、極めてキャッチーでありながら従来のポップ・ソングの在り方をあっさりと新次元に持ち込んでしまっている。チェロを弾きながら歌うボーカリスト、Yukkoの歌声は生命力に満ち、その空間掌握力であっという間にアリーナの人々を釘付けにしてしまった。今後の更なる活躍が楽しみだ。● 凛として時雨
耳をつんざくようなノイズのSEの中に登場した時雨。誰よりも大きな爆音で掻き鳴らされたそのロックの佇まいは、個性豊かな出演者が出揃った今回のイベントの中でも、思いっきり異彩を放っていた。カミソリの刃のようにメタリックで鋭いギターを掻き鳴らすTK、彼と共に男女のツイン・ボーカルを聴かせるベーシスト345、硬質でアクロバティックなビートを叩き出すピエールのトライアングルが描き出す攻撃的なサウンドは、“ハカイヨノユメ”“tremolo+A”“moment A rhythm”“JPOP Xfile”“Telecastic fake show”と、今春リリースしたアルバムの収録曲を中心に披露。モダン・ロック・シーン最前線のエネルギーをぶちまけるようにステージを進めていった。ハードコアとスクリーモとエレクトロニカが渾然一体となった、なのにどこかスタイリッシュでもあるそのサウンドは、大音量の爆音なのになぜか快感を感じさせる、ロック・サウンドの現在地を指し示すようであった。● SCANDAL
『NEW COMER ARTISTS』最後の出演者は、メンバー揃って制服のようなステージ衣装が文字通りスキャンダラスな話題を振りまいているガールズ・バンド、SCANDAL。あからさまに確信犯で、提供された楽曲群はやたら高品位なロックなのに歌詞やメロディ、ボーカルの節回しが普通のガールズ・ポップだというギャップがなんかおもしろい。演奏に関しては、正直リズムもキープできていなかったりと拙いのだが、ディープなB級ガレージ・パンクなんかでは割とそういうのが面白味だったりするので、それはそれでいいのかも知れない。この若さとビジュアルだからサマになってしまう、妙にロックの生々しく、ディープな部分を継承したポップ・アイコン。さしずめそういったところだろうか。今回はアニメ『BLEACH』の主題歌にもなった新曲“少女S”も披露してくれた。● FLYING KIDS
『out of our heads』、いよいよの大トリは、この日2度目のステージに立つ浜崎貴司ひきいるFLYING KIDSだ。感慨深い。個人的にイカ天世代な上に、再結成後に観るのはこれが初めてなもんで。いきなりファンクとロックとエロスがゴロッと転がる、この独特のフラキ(昔はこう略して呼んでいたが、通じるのだろうか)グルーヴが健在でとにかく嬉しい。浜崎も最初はちょっと緊張気味に見えたが、次第にあのファンキーなボーカル・パフォーマンスと否応無しに焚き付けられてしまう煽りっぷりで自ら調子を上げていった。“炎(ファイヤー)”や“セクシーフレンドシックスティーナイン”の力強く黒いグルーヴ。もしかすると、同じロックでもハードコアなパンクやメタルより、R&B影響化のガレージ・サウンドやファンキーなミクスチャーなどの「黒い音」寄りな僕の嗜好は、フラキによって刷り込まれている部分があるかも知れない。自分で気付いてなかった。再結成後に初めて作られた新曲“ドマナツ”はスタイリッシュな曲で、ブラック・アイド・ピーズなどの現代的なファンク・ビートよりスライなどのプリミティブでいびつなファンク・ミクスチャーに近かったフラキならではのグルーヴも、進化し同時代化を果たしているのだな、と感じさせた。いずれニュー・アルバムもリリースされるらしいので楽しみだ。ラストは“幸せであるように”“風の吹き抜ける場所”の名曲2連発で、もはや気持ちよく踊らせて貰った。ステージの転換がスムーズで、しかもその短い合間にもストーンズ映画『シャイン・ア・ライト』がスクリーンで流された。息つく暇もなくぶっ通しで楽しめたイベントであり、豪華出演者のパフォーマンスとともにホットスタッフの30周年を祝うことが出来たのも良かった。ただ、休みなく進行するため、せめてタイムテーブルの発表は欲しかった。多くのオーディエンスは休憩や食事のタイミングが取りづらく、約8時間に渡る公演の中では自主的なペース配分ができるようにして欲しかったところだ。(小池宏和)
Hot Stuff 30th Anniversary Special Live “out of our heads” @ 横浜アリーナ
2009.07.04 00:00