アナログフィッシュ @ 渋谷クラブクアトロ

アナログフィッシュ @ 渋谷クラブクアトロ
アナログフィッシュ @ 渋谷クラブクアトロ
アナログフィッシュ @ 渋谷クラブクアトロ
結成10周年記念ライブ、兼、1年半前に病気療養のため脱退したドラマー斉藤州一郎(長いので以下「州」と表記します)の再加入ライブは、10月10日に新木場スタジオコーストで行われたし、ここでもレポートを掲載しましたが、今回はそのツアー版。つまり、「州再加入お披露目興行」として、全国5ヶ所を回ったツアーの、ファイナル。
じゃあ東京では、お披露目ライブ2回目ってことじゃん。2500人は入るキャパのスタジオコーストから、まだ2ヵ月も経ってないじゃん。そういえば、今日のブログに健太郎は「当日券あります!」と書いていた。大丈夫かなあ。
と思いながら、開演5分前に到着したら、フロアの後ろの方は、「……うーん、ガラガラじゃないけど、埋まってもないなあ」という入り。やっぱり。しかし。10分押して19:10にライブがスタートし、しばらく経ってフロアを振り返ったら、見事に満員になっていました。
とにかくアナログがワンマンやるなら何をさておいてでも行く、そういう、熱く濃いファンが、がっしりとついていることが、よくわかりました。そして、ちょっと開演が押すことを見越して遅めに来るファンが多いことも、わかりました。わかったからなんだってことはないが。

セットリストはこんな感じでした。

1 NOW
2 白黒ック
3 LOW
4 スピード
5 ガールフレンド
6 平行
7 Town
8 月の花
9 バタフライ
10 PARADOX
11 Ready Steady Go
12 Tomorrow
13 ダンスホール
14 Hello
15 Clap Your Hands!
16 Sayonara 90’s
17 Life goes on

アンコール1
18 アンセム
19 BGM

アンコール2
20 ハローグッバイ

全20曲、約2時間10分。2010年2月10日に待望のニュー・アルバム『Life Goes On』が出るそうで(とMCで言っていた)、そこに入る新しい曲が、1、6、11、12、17、20の6曲です。でも、どれも、既に何度もライブでプレイして、磨き上げられ&鍛え上げられてきた曲たちなので、まったく違和感なく全体のセットに溶け込んでいました。で、どれもすっごくよい。アルバム、楽しみ。
あと、全体の半分弱、1/3くらいかな、州不在期間を支えたClingon木村ひさしが、サポート・キーボーディストとして加わっていた。

僕は、10月10日のスタジオコーストに行けなくて、州復帰後のライブを観るのはこれが初めてだった。なので、1年半脱退していたことが「なかったこと」みたいになっている、彼のプレイの自然さに、まずびっくりした。
この人、いなかったよね。いなかったっけ。いたんじゃないの? いたよね。いた。
いや、いなかったんだけど、そんなことを言いたくなるくらい、もうあたりまえにそこで叩き、歌い、グルーヴを作り出している。
言うまでもないけど、「休む前と同じなのだ」ではない。州が止まっていた間、バンドは動いていたわけで、アルバム1枚作ってもいるわけで、そしてそれが大変によかったし、サポート2人を入れてやっていたライブもすごくよかったわけで、つまりバンドは前に進んでいたわけで、ってことは、州が休む前と同じだったら、置いていかれるはずなのだ。
病気だったから休んだわけであって、ひとりでひそかに猛練習していた、とか、ひとりで音楽を作っていた、というようなことは、あんまり考えられない。ただ、1年半一緒にいなかったのが嘘みたいに、脳味噌の中に持っている、意志や思想やイメージなどが、下岡晃&佐々木健太郎のふたりとずれなかったから、こういうプレイになっているのだと思う。なぜか、は知らない。ただ、こんなこと、普通ちょっとありえないよなあと思った。

とにかく、ひとりいればそれでバンドが成り立つくらい、濃く、強烈で、ぶっとんでいるメンバーしかいない、おそろしいバンドとしてのアナログフィッシュが、完全に復活していた。ギター、ベース、ドラム、健太郎の歌、下岡晃の歌、州のコーラス、すべてがすべて、もうフックとアクとヤバさと美しさとかっこよさに満ちている。そういう、数々のいわば「強いポイント」だけが、目の前に集まって、音楽になっていくのを観ている感じだった。
すごいバンドだなあ。もう何度観たかわからないくらいライブ観てるけど、改めてそう思った。

あと、ただ復活しただけじゃなくて、ニュー・アルバムの曲たちを聴いていて、「次のアナログフィッシュ、こうだな」と思ったポイントが、ひとつあった。
それは何か。おんなじ、ということだ。何が。曲がだ。
一番最後にやった、健太郎の歌う“ハローグッバイ”、終演後、マネージャーに「あれ、どのアルバムに入ってましたっけ?」ときいた。「次のです」と言われた。失礼しました。でも、そんな感じの曲なのだ。
本編ラストにやった、下岡晃の“Life goes on”はもっとあからさまだ。「前にこういう曲、あったよねえ」「前のなんかに似ているよねえ」って、ファンなら誰もが思うだろう。
で。すべての新曲がそうだというわけではないが、そういう曲が、やたら耳に残るのだ。なんでか。よいからだ。すばらしいからだ。強いからだ。つまり、「これもうやったからやらない」ではなく、「やったけど、まだちゃんと届いてないから、またやる」ことにしたのではないか、アナログフィッシュは。
しかも、厳密にいうと、まったく「おんなじ」ではなく、バンドの進化に伴っていろんな細かいところはレベルアップしているんだけど、根本は一緒、という感じの「おんなじ」だ。だから、どんどん研ぎ澄まされるし、どんどん強くなるのだ。

その「おんなじ」というのは何かというと、やりたいこと、表現したいことの、本当の核にある部分だ。そこが、もっと広く遠くまで伝わるように、とにかくそこをくり返し表現する。ということなのだと思う。
つまり、薄くやわらかくして、遠くまで飛ばそうとしているのとは逆で、ひたすら濃く、ひたすらしつこくすることで、遠くまで飛ばそうとしている、ということだ。

かつて、NHKの「トップランナー」に出た時、「『くり返される諸行無常 よみがえる性的衝動』とか、同じ歌詞をいろんな曲で使うのはなんでですか?」ときかれた向井秀徳は、こう答えた。
「何度も言いたいんですよ!」

スピッツがデビューして何年も売れなかった頃、思いきって音楽的に方向転換をして、『Crispy!』というアルバムを作った。ちょっと売れたけど、どーんとは売れなかった。マサムネ、悩みの時期に入ってしまった。で、いろいろあった結果、バンドは最初のままの「いつも同じスピッツ」の音楽スタイルに戻って、それを磨き上げ、押し通す方向へとシフトした。そしたら、どかーんと売れた。以降、もう15年くらい経つが、スピッツはいつも同じで、いつも最高なままだ。

という、ふたつの例を、生で聴いていて思い出した。
これ、しつこくやっていけば、きっと何かいいことになると思う。(兵庫慎司)
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