鶴@赤坂BLITZ

鶴@赤坂BLITZ

鶴@赤坂BLITZ
今年7月にニュー・アルバム『期待CD』をリリースしてから約3ヶ月、鶴の待望の全国ツアー『期待ツアー2010 ~今夜はあなたに○○○~』が10月11日札幌COLONYよりスタートした。秋野温(Vo/G)はこの3ヶ月は「アルバムをじっくり聴いてもらうための期間」と語っていたが(実際のところは夏フェスシーズンが終わってからのツアーにしようと思ったのだろうけど)、その期間を経て開催された今宵のワンマン、赤坂BLITZには、神田雄一朗(B)が「史上最大のワンマン動員数」(目算)と話したように、前から後ろまでびっしり埋まっていた。ライブ終了後には、昨年に続き、鶴がゲスト・ミュージシャンを迎えて開催するライブイベント『Merry A’mas(アフロマス)~聖なる夜の大宴会~』も発表された。

ジャクソン5 の“i want you back”が流れるとフロアからは割れんばかりのハンド・クラップ!そして、3人が演奏を始めた瞬間、「うおおおっっっ!」と思わず声を出してしまった。もともとライブ・バンドとしての性能と安定感は折り紙つきの彼らだから、そうそうのことでは驚かないはずなのだが、もう音の出し方からして変わってないか?と思えるほどにアップデートされ、強靭になっていたのだった。ごりっとした鋼鉄ギター・リフをかき鳴らし、雷鳴のようなソロ・ワークをキメる秋野。地を這いずり回るように蛇行する神田のベース・ライン。以前はスタイリッシュで直線的だったどん君(笠井快樹/Dr)のドラミングは、粘っこいグルーヴを牽引していくように重量感が増している。(それでいて軽快に叩かれる裏打ちがこれまた素敵なのだ)彼ら3人が紡ぐアンサンブルは、ファンクを通り越してグラムやハード・ロックに近づくような、強烈な音圧を放っていた。これはCDを聴いただけではまずわからなかったことで、鶴のライブ・バンドとしてのポテンシャルの高さは、さらに一段階上のレベルに到達したように思う。それに、序盤はヘヴィな装いなのにサビではゴキゲンなロックンロールへ舵を切る楽曲の展開力、イントロのジャム・セッションで見せつける個々の熟達したプレイヤビリティの高さ、ライブで鉄板の盛り上がりを見せる過去曲にもアレンジが加えられ、破壊力は割増である。どこを切ってもビルドアップしているアフロ三連星に対し、オーディエンスは手を掲げ、ジャンプし、鶴ポーズをきめ、ありったけのアクションでそれに応えていく。僕は、昨年の同月、同じ場所で彼らのワンマンを見ているが、この日の盛り上がり方はどんなに少なく見積もっても昨年の倍以上。バンドの成長がオーディンスの熱狂にそのまま還元される、という表現者としては最も理想的な連鎖を目に見える形として描き出す、まさにそういうライブだった。追加公演や振替公演を含めるとフィナーレは来年2月。ツアーはまだ3分の2あたりなので、演出、セットリストなど書けない情報が多いが、全22曲で約2時間半、8割は『期待CD』の楽曲という攻めのセットである。ライブを通してみても、以前にあったアコースティック・セットや突如始まる誰かのカバーのような飛び道具的な要素はなくなっている。正確に言えばなくなっているわけじゃなくて、『期待CD』に収録されていた全身脱力のおふざけパートもセットには組み込まれていた。が、そういうパートの役割が以前とは明らかに違っているような気がした。以前は、例えば“~こんばんは鶴です~”も、誰かのカバーもオーディエンスをつかみ、焚きつけ、コミュニケートするために作用していたはずだ。しかし、そのパートは、鶴自身にもオーディエンスにとっても、箸休めのような気を抜く瞬間のように感じられた。なぜか。それは『期待CD』が高い完成度を誇り、すべてシングルで勝負できそうなほどの名曲がずらり並んだアルバムであり(秋野はJAPAN 9月号のインタビューで「シングルを喰いにいってるアルバム」と語る)、そうでもしないとライブとしてのバランスがとれないのだろう。彼らは本当にしたたかである。自身が称した「強制参加型エンターテインメント」という姿が少しずつ変化していることを誰よりも自覚しているのだ。そしてそういう要所要所の肩力の抜け具合がMCでも絶妙な笑いを誘っていて、秋野の巧妙な仕切りから次々と投下される自虐ネタ&ツッコミには、もうお腹がよじれるくらいに笑った。この日もとなりの赤坂サカスで「EXILE魂×居酒屋えぐざいる」が期間限定でオープンしており、赤坂BLITZに向かう階段は長蛇の列だったが、もう3人はここぞとばかりにネタにしていた。「うちにもATSUSHIはいるんだよ!」、「オレだってモールドだって立ってるからね!」と秋野はアフロをかき上げて剃りこみを見せる始末である。(ただし、秋野は昼頃にBLITZに向かう階段の行列を見た時、一瞬期待してしまったらしい)元から「笑い」ということには長けている3人だけど、どちらかといえば笑いをとりにいく予定調和のタイプじゃなくって、どこかアドリブっぽい。トークを転がしていっても、そこ以外の部分や意図しないところでウケてしまったり、天然的だったり、彼らにはそういう人知を超えた笑いがたまに降りてくる。(そういう芸人さんっていますよね)それって、以前よりも笑いを積極的にとりにいく姿勢がなくなったからのか、自然体でいることがそういうものを呼び込んでいるのかよくわからないが、ライブがあからさまに一段上に上がると、MCまでガンガン冴えてくるものなのだろうか……とにかく大ウケだったのである。このバンドの面白いところは、これまで書いた成長線みたいなものが注意深く探らないと見えてこない、ではなくて歌、演奏、メロディ、グルーヴ、しかもMC まで付いてきて、誰の目にも明らかな形ではっきりとわかることだと思う。だから鶴のファンはこんなにも温かい。バンドがファンを愛する温度と同じ温度でファンもバンドを愛している。ファン目線でもバンド目線でもない、音が鳴っている瞬間を、MCで笑い転げている瞬間を、鶴ポーズをキメて皆一斉にジャンプする瞬間を、ファンとバンドがまったく同じ温度で「共有」できるバンド、それが鶴なのだ。秋野が終盤のMCで語っていた「ライブにこだわってライブで共有し続けたいと思います」とは、まさにそういうことなのだと思う。ツアーはまだまだ続き、振替公演や追加公演を含めるとフィナーレは2011 年の2月。これからライブに参加するみなさん、本当に「期待」していいと思います。「希望」でも、「願望」でも、「理想」でもない。鶴には熱く燃えたぎることなく、さらりとポジティヴな風を吹かせる「期待」という言葉が一番似合う。本当に素晴らしいバンドだ。この次のアルバムはどうするんだろう。『素敵』、『情熱』、『期待』。これで『理想CD』だったら謝ります。(古川純基)
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