ディーン・ウェアハム @ 恵比寿リキッドルーム

「ディーン・ウェアハムがギャラクシー500の曲をプレイする」、この意味と価値を正確に読み取れる往年のファンにしてみればとんでもない一夜であったし、ディーン・ウェアハムはおろかギャラクシー500すら詳しく知らない若い世代にとってみれば、よく分からないけれどきっとなにがしかの懐古的なショウなのだろう、と推測するに留まる一夜だったのかもしれない。たしかに、ギャラクシー500とは間違いなく伝説のバンドではあるけれど、彼らはその後のオルタナティヴの潮流とは断絶した箱庭のバンドであるのも確かだ。活動期間は87~91年のわずか4年。残したオリジナル・アルバムはわずか3枚(『TODAY』『ON FIRE』『THIS IS OUR MUSIC』)。解散後に二手に分裂した彼らのキャリア、デーモン&ナオミ及びルナは好事家を中心にそこそこの人気と知名度を獲得しているが、その源泉であるギャラクシー500をルックバックさせるほどの華々しい活動をしている両者でもない。ギャラクシー500の解散直後に巻き起こったグランジ・ムーヴメントによってUSオルタナティヴはその様相を一変させた。以降20年にわたってその価値観は幾度も変遷を重ねて今に至るわけだが、その激動の直前に絶ち切られたギャラクシー500の物語は、むしろ世代と個人の断絶、時代と無関係な内省のメタファーそのものだったと言ってもいい。彼らはたったひとりで物語を始め、たったひとりでその幕を下ろしたバンドだったし、その見事な完結の風景には生半可な共感や連帯の入り込む隙はなかった。そんなギャラクシー500の楽曲が20年の歳月を経てバンドの事実上のフロントマンであったディーン・ウェアハムの手によって再現される、それが今回の来日公演の趣旨である。リキッドルームに集ったオーディエンスはさすがに30代半ば以降の原体験世代が多い。しかし、開演前の場内のモードはいわゆるレトロスペクティヴな懐メロショウを待つ和やかなものではなく、期待と刹那がないまぜとなったピンと張りつめた空気が漂っていた。なにしろ彼らは1991年の初来日の直前に解散したバンドであり、ここ日本のファンにとっては文字通り「幻」のバンド、懐古的気分の根拠となる体験があまりにも希薄な存在でもあるのだ。ステージ上にはかつてのギャラクシー500同様に、3人のメンバーが登場する。ギターはもちろんディーン、ベースはディーンの奥さんであるブリタ、そしてドラムスのアンソニー。1曲目は“Flowers”、続いて“Pictures”、そう、ギャラクシー500のデビュー・アルバム『TODAY』のオープニングをそっくりなぞったスターターだ。のっけからその音のまろみというか、ふくよかさに驚かされる。デビューの時点で既に全てを諦めきったかのような影を引きずっていた彼らの音楽が嘘のように生まれ変わっていく。よりオーセンティックなインディ・ギター・バンドだったルナでの経験も反映されているのか、ディーンの歌声も瑞々しくリリカルだ。そして3曲目は“Tugboat”。「君のパーティには出たくない/君の友達とは話をしたくない」とこの曲で歌われたギャラクシー500のメンタリティは、FacebookやらTwitterやらでしきりとカジュアルな「友達」の拡大が叫ばれる今に一体どんなリアリティを持てるというのか。そう、この20年間でつくづくオルタナティヴのマインドは変化した。ソーシャル何某の中で生きる現在の孤独と、あの当時のベッドルームの孤独は抜本的に異なるはずで、今夜の彼らのパフォーマンスが懐古的なものだったとしたらそこにはチープな乖離が生まれていたはずだ。しかし、バイタル&ビビッドな演奏によって新たな息吹を吹き込まれた“Tugboat”には「それでもやっぱり、断・固・と・し・て・君の友達とは話したくない」というダメ押し的なメッセージが新たに生じていて、痛快にすら感じるほどだった。「建設的に、改めて、徹底して内省するギャラクシー500」、なんて書くと語義矛盾でしかないような気もするが、今夜の彼らが鳴らしていたのは確かにそういうものだったのだ。1周してポジティブにすら感じられるほど彼らの歌の内省は普遍性を増していた。“When Will You Come Home”のアウトロのノイズはより立体的に組み上げられて未だかつてないカタルシス(ギャラクシー500に対してカタルシスという形容を使う日がくるとは!)を感じさせる。ギャラクシー500の代名詞となっているノイズ・ギター、燃えカスのようにはかなくも潔いウェインの歌声、終末にむけてぽっかり穴を開けて待ち構えるリバーブ、そしてリリカルかつ厭世的な歌詞を最も端的に象徴していたのがセカンドの『ON FIRE』だったとしたら、この日のライヴは彼らのラスト・アルバムにして最も洗練・整理された『THIS IS OUR MUSIC』の恐らくは「先」の世界、完全に終わったはずだった彼らの物語の奇跡の再起動を感じさせるようなものだった。特に圧巻だったのは“Strange”、“Summertime”、“Don’t Let Our Youth Go To Waste”とキラーチューンが連打された中盤の流れで、“Don’t Let Our Youth Go To Waste”などは彼らのライヴ盤『COPENHAGEN』に収録されているそれと比較した際の洗練度合いの落差にちょっと笑ってしまったほど。不可侵かつ時を止めた伝説だったはずのギャラクシー500が、20年の時を経て今にフィットした汎用性すら示しながらかくもヘルシーに蘇ってくるとは夢にも思っていなかったが、逆にそれを可能にして伝説を解凍するまで20年もの歳月を要したことこそが、ギャラクシー500らしさと言えるかもしれない。(粉川しの)
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