ザ・シンズ @ 渋谷クラブクアトロ

なんといっても、全米2位のバンドである。最新作『ウィンシング・ザ・ナイト・アウェイ』がいきなり10万枚を売り上げ、ビルボード・チャートのナンバー2に躍り出たことは、間違いなくアメリカのインディ・ロックにとって(おそらくこの先長きに渡って)重要な意味をもつだろうし、何よりこのシンズのようなバンドのこういう作品がきちんとセールス的にも評価されるというのはシーンにとってもじつに健全なことだ。その波がそのままここ日本まで……とはなかなかならないのが歯痒いところではあるが、まあそのおかげでこうしたスモール・ヴェニューで観ることができるわけだし、実際「濃い」お客さんが集まることで生まれるヴァイブは、確かに非常に心地良いものだった。

今年のフジ・ロック以来の来日となったわけだが、思いのほか新作モードだったフジに較べると、過去曲をより満遍なく散りばめたといった感じのセットリスト。もちろん昔からのファンは大喜びで、手に持った風船(そう、風船泥棒が登場する“オーストラリア”のPVにちなんで、来場者にはロゴ入り風船が配られたのでした)をポンポンと放り投げる。色とりどりの風船が宙を舞い、見た目にも楽しい。そういう「仕掛け」も合わせて、とても親密でとても温かい雰囲気が生まれていた。とにかく、「嫌いじゃない」とか「わりと好き」レベルのお客ではなく、ほぼ全員が「かなり好き」「超好き」のレベルでここに足を運んでいるのだ。だから当然、バンドのテンションも上がる。カントリーを下敷きにした軽やかなギター・サウンドも、ことさら弾んで聞こえる。

じつをいえば、シンズは演奏がとびきり上手いバンドというわけではない。ヴォーカルのジェイムスの歌声は妙に甲高くてすぐにピッチを外すし、バックの演奏は安定しているがそれだって目を見張るほどじゃない。フジ・ロックではでっかいホワイト・ステージでも堂々としたパフォーマンスを披露していて、それはそれでよかったのだが、終わってみるとどこか消化不良感が残ったのも確かだった(大雨だったというのもあるが)。それに較べるとこの日のシンズは、心からライヴを楽しんでいるように見えて、それがまた嬉しかった。ライヴというのはバンドと観客が一緒に作り上げるものなんだという当たり前のことを、今さらながら思った。愛されているバンドが、愛されながら演奏する。じつに幸せなライヴだった。(小川智宏)