戸川純 vs 女王蜂 @ 新宿ロフト

all pics by 鈴木万祐子
今年で開業35周年を迎えた老舗ライブハウス=新宿ロフト、そのアニバーサリー企画「SHINJUKU LOFT 35TH ANNIVERSARY」のひとつとして行なわれた「激突! 玉姫様 VS 蛇姫様」。戸川純と女王蜂による対バンライブである。そのイベントタイトルについて、「『激突!』とかやめて欲しいんですよ。仲良くやっていきたいので」(戸川)、「激突してもしゃーないやんか。やっぱピースにいかなあかんとちゃうか?」(アヴちゃん)とそれぞれ言っていた両者。しかし、心に渦巻く情念を解き放ったような両者の競演は、まさに「激突!」という名にふさわしい、壮絶すぎるほどのスリルに満ちたものだった。

開演時刻を少し回った19時07分。暗転と同時にどっしり重たいバスドラが鳴り響き、ステージを覆う黒幕がじわじわとせり上がる。その向こう側から姿を現したのは、戸川純とバンドの面々。赤いコサージュが付いたツバ広の女優帽をかぶり、ステージ中央に設置されたキーボードの前に腰かけた戸川純は、「♪ライラライララーイ」と“諦念プシガンガ”の牧歌的なフレーズを歌いはじめる。続く“肉屋のように”では、ザクザクと突き進むギターリフに乗って、「歌う」というより「唸る」という表現がふさわしいドスの効いた歌声が炸裂。その後の「私たちを知っている方、どうもどうもどうも。そして女王蜂さんのファンの方、どうもどうもどうも。戸川と申します」と舌っ足らずに告げられた挨拶も含め、「恐ろしさ」と「可愛らしさ」がマダラ模様で混在する、摩訶不思議な戸川ワールドへと場内を一気に引きずり込んでしまった。

その後も、スロー・チューンとアップ・チューンを交互に並べた緩急自在の展開でフロアを翻弄。2007年に足腰を負傷し、現在リハビリ中のため着座でのパフォーマンスをご容赦いただきたいとオーディエンスに詫びつつも、“フリートーキング”では椅子から立ち上がって髪を振り乱しながら絶叫するパフォーマンスも見られる。なにより凄いのは、少女のようにあどけない歌声でもって、清らかさも、醜くさも、哀しみも鮮やかに表現されていたこと。天使のような歌声でフロアに光のシャワーを降らせた“蛹化の女”の神々しさは圧倒的だったし、煩悩の世界に身を投じる快楽を浪々と歌い上げた“恋のコリーダ”のドス黒いパワーは身の毛もよだつほどだった。極めつけは、ラストを飾った“パンク蛹化の女”。足を引きずりながらステージを動き回り、衝動のままに吐き出された絶叫は、乳幼児が母親を求めてなりふり構わず張り上げる泣き声のように、痛切に胸に響いた。デビューから30年。溢れ出るエモーションを無防備すぎる歌声に変えて、本能のままに解き放ち続ける戸川純。その「凄み」に改めて戦慄させられたステージだった。

そして20時39分、後攻・女王蜂のライブがスタート。暗転と同時にステージを覆う幕が上がると、やしちゃん(B)/ルリちゃん(Dr)にギターとキーボードのサポート・メンバーを加えた4人がSEなしで現れる。そしてルリちゃんのドラムを合図にジャーン!と4人で音を出した後、戸川純の“好き好き大好き”を歌いながらステージ袖よりアヴちゃん(Vo)入場。真っ白なミニ・ワンピを着たアヴちゃんは、なんと赤いランドセルを背負っている。これはかつてランドセルを背負ってライブを行っていた戸川純へのオマージュか!?と胸を躍らせたのもつかの間、すぐさま“デスコ”発射! ジュリ扇を振り上げるオーディエンスがステージへ向かって押し寄せ、場内は凄まじい熱狂に包まれる。曲の終盤では、アヴちゃんもランドセルからジュリ扇を取り出して乱舞。「東京、準備はいいかしらー?」というアヴちゃんの扇動から“80年代”へ雪崩れ込めば、ミラーボールがぐるぐると回る場内のヴォルテージは一気に沸点へと到達してしまった。

そんなオープニングを経て中盤へ。ここからは、利き腕の長期療養が必要となったギギちゃん(G)の「女王蜂降板」を受けて、6月1日のSHIBUYA-AXワンマン6月1日のSHIBUYA-AXワンマン(ライブレポートはこちら:http://ro69.jp/live/detail/68639)より、サポート・メンバーを迎えて5人編成となった女王蜂の「今」が鮮やかに提示される。カラフルで煌びやかな狂騒感が生まれていた“火の鳥”、大きな喪失感を湛えたアウトロがドラマチックに鳴り響いた“告げ口”――どちらもレギュラーのキーボード・プレイヤーを据えたことにより、グッと豊潤になったアンサンブルが印象的だった。さらに目を見張ったのは、最新アルバム『蛇姫様』の楽曲群。大きな波のようにうねる轟音がゆっくりと放たれた“鏡”、研ぎ澄まされたアンサンブルが絶対零度の温度感で疾走した“Ψ”――これらの曲に宿るピンと張りつめた緊張感は、衝動のままに音をぶつけ合っていたような従来の曲の破壊的なエネルギーとは、明らかに違うものだ。中でも圧巻だったのは、「大事な曲をやります」として演奏された10分弱の大作“無題”。かつてなくエモーショナルに上り詰めるアンサンブルには、「破壊」の先にある「創造」の世界へと目を向けはじめた女王蜂の並々ならぬ決意が宿っているようで、胸が震えた。そして本編ラスト“燃える海”で、壮大なクライマックスへ!

アンコールでは、「夏の曲を思いっきりフロアで踊り狂いながら歌いたいの」として、アヴちゃんがフロアに降臨。フロア中央でアヴちゃんが踊り狂うというスタイルで、女王蜂唯一の夏のナンバー“人魚姫”がブチかまされる。ちなみに「踊り子さんにオサワリは厳禁です!」という注意に忠実に従い、アヴちゃんが自由気ままにフロアを闊歩する先々でキレイに左右に分かれて花道を形成するオーディエンスの姿が、モーゼの十戒みたいで面白かった。最後はステージ上に戻ったアヴちゃんの「まだまだ行くでー!」というアジテーションで、カラフルなジュリ扇の花が咲いた“バブル”で大団円。この日最高の狂乱を描いて、2アクト合わせて3時間弱にわたるステージは幕を閉じた。

なお、戸川純は秋に大阪と東京でのワンマン・ライブを、女王蜂は9月1日より『蛇姫様』を引っ提げた全国ツアー「九蛇行進」を開催することが決定している。そちらも乞うご期待!(齋藤美穂)