エイフェックス・ツイン、電子音楽の概念を変えた傑作がリイシュー! その天才的な偉業を徹底解説
2024.09.03 20:00
エイフェックス・ツインの『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』(1994年)が当時アナログ盤のみに収録された曲などボーナストラック3曲を加えたエクスパンドエディションで再発される。
筆者はロッキングオン10月号で、ポップミュージックのドラマツルギーからも、ダンスミュージックの定型からも、レイヴの高揚からも、そしてブライアン・イーノの提唱した環境音楽の理論からも自由な、いわば電子音楽やアンビエント音楽の概念を根本から更新したこの希代の傑作について考察している。
筆者はこのアルバムがリリースされた1994年に、初来日したエイフェックスことリチャード・D・ジェイムスにインタビューしている。当時のリチャードのイメージは内向的で繊細な無垢でロマンティックで夢見がちな電子音楽オタクといったものだったが、実際に話したリチャードは実に皮肉屋で毒舌だった。
リミックスを引き受ける時の基準を尋ねると「自分の好きなものはいじる必要がないからやらない。つまらないものをリミックスで聞けるものにするのが面白いんだよ。僕がやった日本人アーティストの曲なんてどれもこれも酷いのばっかりだったなあ」と、ほかならぬ日本人ジャーナリストのインタビューでシャアシャアと言い放つのである。
もちろんそれをそのまま本音と受け取ることはできないが、その後のリチャードが冷笑的でシニカルで悪意に満ちた露悪的なトリックスター的イメージへと変貌していったことを思えば、そんな発言もさもありなん、である。
リチャードがその後『セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』のような無防備な作品を作らなくなったのも納得なのだが、しかし同作を注意深く聴けば、その柔らかい音の底のほうに流れる度し難い狂気や悪意,死や破滅のイメージさえも感じ取れるはずだ。それだけ豊かでニュアンスに富んだ美しい音楽を、当時のリチャードは作っていた。それはまさに「天才」と呼ばれるにふさわしかったのだ。(小野島大)
エイフェックス・ツインの記事が掲載されるロッキング・オン10月号