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肩からぶら下げた古いポータブルラジオから、ノイズ混じりの勇敢な歌が聴こえる――。まるでそんな情景から、このアルバムは幕を開ける。2020年以降に世に出たシングル曲が網羅的に収録されたことを単純に見て、約5年の歳月をかけて制作された作品である。世界が、混沌と共に私たちの目の前に何度も分かれ道をもたらした、そんな季節に生まれた楽曲たち。通して聴くと不思議な気持ちになる。1曲1曲は極めて精密に作り込まれ、その壮絶な創作精神の奥に広大な宇宙が広がっているのに、アルバムの全景は、その情報量や重みに閉ざされてはいない。むしろ純粋で、野性的で、素朴な印象すらある。「歌を作ったんだ。聴いてほしい」――流しの吟遊詩人のような、そんな本質的な音楽と聴き手への態度が1曲1曲に刻まれた実験性やメッセージ性を柔らかく普遍化している。本作において、《窓》は個と世界の境界線として表れ、《帰り道》は人生の別称として表れる。本作でBUMPは、彼らにとってとても純粋な場所に帰ってきた。(天野史彬)(『ROCKIN'ON JAPAN』2024年10月号より抜粋)
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