1999年にデビューアルバムをリリースして以来、BUMP OF CHICKENの作品は時代とともに常にリスナーの心をとらえ、過去作品も含め世代を超えて聴き継がれている。ここで一度、彼らのこれまでの軌跡を振り返る意味でも、今、そしてこれからも聴き続けていくべき彼らの楽曲をピックアップして紹介しておきたいと思う。10曲に絞るのは至難のワザだし、明日になればまた違う10曲をセレクトするような気もするけれど、まずはこの10曲、というものを選んでみた。順を追って聴いてみれば、彼らの音楽性の広がりと、その根底に揺るぎなくあるものを感じ取ってもらえるのではないかと思う。(杉浦美恵)
※2022年1月19日 更新
①ガラスのブルース
BUMP OF CHICKENの、現在にまで続くバンドの在り方、その原点が示されているような楽曲。藤原基央(Vo・G)が「初めて日本語で書いた曲」であり、2015年12月にNHK『SONGS』に初出演した時にこの楽曲を最後に演奏したことからも、BUMP OF CHICKENにとって今なお大切な一曲であることがうかがえる。藤原が番組内で「本当にちょっとずつ、1日1フレーズずつとか、時間をかけて作った」と語っていたのをおぼえている。そして、「自分が知っている気持ちとか、経験したことしか書けないと思う」というようなことも語っていて、まさにその当時の音楽への思いや感情がストレートに書き表された楽曲だと思う。《あぁ 僕はいつか 空にきらめく 星になる/あぁ その日まで 精一杯 唄を歌う》という歌詞など、リリースから20年を経た今もなおBUMP OF CHICKENに変わらずある、音楽への切実な衝動に溢れている。
②K
2ndアルバム『THE LIVING DEAD』に収録され、今なおファンやリスナーから高い人気を誇る曲。黒猫と売れない絵描きの生き様を描きながら、「生」の意味を問うような物語が描かれており、藤原のすぐれた作詞力に感嘆する楽曲のひとつだ。生き急ぐように疾走するバンドサウンドも、物語のテンポを後押ししていて、まるで「生」についてゆっくり考える間などないまま、人は、生き物は、一生を終えていくのだと告げているかのようだ。けれど、エンディングで感じるのは、「それでも生きてきた意味がそこにある」という、どこか温かな一筋の光のような希望なのである。これぞBUMP OF CHICKEN。
③天体観測
ドラマ『天体観測』の挿入歌として起用され、この楽曲をきっかけにバンドの存在は、音楽ファンのみならず広く知られることとなる。2013年にはCM曲として再び起用されるなど、世代を超えて愛される普遍の名曲である。イントロの重層的なギターサウンドが否応なく聴く者の心をはやらせて、《見えないモノを見ようとして 望遠鏡を覗き込んだ》というサビのフレーズは時を経てもなお、ふとした瞬間に頭をよぎって、自身の迷いや現実に向き合う力をくれる。「天体観測」というある種のファンタジックな体験を、不確かな「イマ」を生きる現実に重ね合わせる藤原のソングライティングは、やはり自身の感情から湧き出る言葉だからこそ胸を打つのだと思う。
④スノースマイル
イントロのアコースティックギターの調べが不思議な浮遊感を感じさせ、シンプルなバンドサウンドにのる藤原の歌声が耳に残る。冬を描くラブソングのようでありながら、この歌の主人公は、歩むべき道をひとり踏みしめながら、決して過去には戻れない、戻らないことを悟る──そういう決意の歌であるとも思う。美しいメロディが際立つ楽曲であり、BUMP OF CHICKENのバンドサウンドが、その音像でリスナーの脳裏に鮮やかな風景を描き出すものであることを実感する楽曲。《二人で刻む 足跡の平行線》と綴られた歌詞が表すのは、幸福な景色であるのと同時に、決して交わることのない孤独感であるようにも感じられて、その孤独感を強さに変えて歩む術を、この楽曲は描いてくれているように思う。
⑤車輪の唄
4thアルバム『ユグドラシル』は前作同様オリコン週間アルバムチャート初登場1位を記録し、BUMP OF CHICKENの評価を確たるものとした作品であった。アルバムリリース後にシングルカットされたこの楽曲は、藤原が弾くマンドリンのサウンドも取り入れられ、増川弘明(G)の奏でるアコースティックギター、直井由文(B)のウッドベース、升秀夫(Dr)のブラシで刻むドラムと、いつもとは異なる音色のアンサンブルが新鮮だった。MVは4人の演奏風景に加え、『ユグドラシル』=北欧神話の「世界樹」のイメージを彷彿とさせるような映像が彩り、結果的にアルバム作品を象徴するような1曲にもなった。この先BUMP OF CHICKENの音楽性が自由に広がっていく、その予兆のようなものを感じる楽曲でもあり、バンドとしての豊かな音楽性を知らしめたシングル曲。
⑥supernova
『ユグドラシル』から約3年4ヶ月を経てリリースされた5thアルバム『orbital period』。そのタイトルは天体の公転周期を表す言葉であり、円環する生の営みを表現したものとも受け取れる。この年、メンバー全員が28歳になるというタイミングでもあり、28年で一人の人間の暦がひとまわりするという周期になぞらえながら、改めてBUMP OF CHICKENの第二章が始まるような、そんな変化を感じた作品でもあった。その中にあって、先にシングルでリリースされた曲でありながらも“supernova”は、このアルバムを印象付ける曲のひとつだと思う。生々しいアコースティックサウンドで響くシンプルな「歌」は、音楽の「原点」を思わせながら、同時にバンドサウンドの「洗練」を感じさせ、BUMP OF CHICKENが描く物語がより深く広く拡張していくような予感に満ちている。
⑦真っ赤な空を見ただろうか
12thマキシシングル『涙のふるさと』のカップリング曲としてリリースされた楽曲でありながら、リスナーからの人気がとても高い曲。《夕焼け空 きれいだと思う心を どうか殺さないで》という歌詞にも表現されているが、藤原が「曲が書けない」というスランプ状態に陥った時に、真っ赤な夕焼け空を見て、その感動をそのまま楽曲にしたというプリミティブな衝動に満ちた作品だ。考え過ぎて動けなくなってしまった時、ふと見た景色や誰かの笑顔が心の霧を晴らしてくれたり、知らぬ間に足を前に踏み出させてくれたり──そんな純粋な感情に気づけた喜びに満ちている。初期のバンドサウンドを思わせるアグレッシブな演奏が、また胸を熱くさせる。藤原のごくパーソナルな心情から生まれたこの歌が、どれだけの人の心を軽くしたことだろう。
⑧ray
アルバムの表題曲として収録されたオリジナルバージョンに加え、“ray”(BUMP OF CHICKEN feat. HATSUNE MIKU)として配信リリースされた、初音ミクとのコラボレーションがセンセーションを巻き起こした、BUMP OF CHICKENの良い意味での「問題作」。浮遊感溢れるエレクトロサウンドにボーカロイドとの掛け合いで紡ぐ楽曲は、予想以上の受け入れられ方で高評価を得た。BUMP OF CHICKENならではのボーカロイドとの共演であり、こうしたアプローチを躊躇なく選択できるということに、バンドの自由さを感じたものだ。心地好く体が揺れるような軽やかな四つ打ちのビートとキャッチーなメロディは、一度耳にしたら忘れられない。初音ミクとのコラボバージョンがライブで初披露された東京ドームでのライブも衝撃的だった。
⑨新世界
ロッテの創業70周年記念スペシャルアニメーションのために書き下ろされ、『ベイビーアイラブユーだぜ』の映像との見事なマッチングも記憶に新しい“新世界”。最新アルバム『aurora arc』に収録されている。藤原が初めて「アイラブユー」という言葉を歌詞に織り込んだことが大きな話題になったが、そこに着眼してしまうと楽曲の本質を見誤る。端的に「愛している」と伝えるために用いられた歌詞ではなく、日常の中で心がときめくこと、そしてそこにいつもある物や景色を愛すること、そのすべてが「アイラブユーだぜ」という言葉に集約されているととらえるほうが自然だからだ。この楽曲は、過去も現在もそんな「アイラブユー」で満ちていたことを思い起こさせてくれるし、そしてこれからもそんな“新世界”が続くことを信じさせてくれる。バンプが表現してきたことの根底にあるものが、この楽曲には素直にストレートに表現されているのだと思う。
⑩なないろ
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』の主題歌。2021年5月に配信リリースされ、同年12月には新録音源がパッケージシングルの表題曲としてリリースされた。『おかえりモネ』のテーマにも寄り添うように、「雨」や「傘」や「虹」といった言葉を用いて、軽快なバンドサウンドに乗せ、過去から現在へとつながる心象風景を映し出していく。昨夜の雨が水たまりを作ったからこそ今日の陽光がまぶしく光るという、その景色の意味に改めて気づかせてくれるような、凛とした、そしてあたたかい歌だ。歌声はモヤモヤと晴れない心に爽やかな風を吹き込むように響き、ストリングスやブラスサウンドも新たな1日のスタートを、過去から続く今日という日を祝福するように後押しする。深い内省の中にある一筋の光のような歌と豊かなアンサンブルがBUMP OF CHICKENとしての躍動をも感じさせて、バンドにとって重要な1曲となった。
【10リスト】BUMP OF CHICKEN、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
2019.07.09 17:00