【10リスト】私たちの心を揺らしたindigo la Endの名歌詞10

【10リスト】私たちの心を揺らしたindigo la Endの名歌詞10
川谷絵音(Vo・G)、長田カーティス(G)、後鳥亮介(B)、佐藤栄太郎(Dr)による4ピースバンド、indigo la End。2010年2月に結成。2015年に佐藤が加入して現体制となった。例えば、アルバム作品やライブにおける徹底した構築美、確かな技術と表現力に裏打ちされた有機的なアンサンブル、歌謡曲由来の普遍的なメロディ、時流を捉えながらアップデートを重ねるサウンドの革新性など、このバンドの魅力はいくつもある。その全てについて語りたいところだが、ここでは川谷が手掛ける歌詞に焦点を当てることにする。ということで、以下のテキストでは、バンドの代表曲から10の名歌詞を紹介していこう。この記事をきっかけに、あなただけの10リストを作ってもらえたら嬉しく思う。(蜂須賀ちなみ)


①瞳に映らない

《瞳に映らない私を/どうかまだ忘れないで》
2014年9月リリースのメジャー1stシングル表題曲。女優の波瑠が出演しているMVも併せて観てみてほしい。「瞳に映らない」という言葉はしばしば、あなたはもう私を見ていない=私に気持ちがないという意味で使用される。しかしこの曲では、あなたの瞳にはもう光がない=あなたは私を遺して死んでしまったということを示唆させるフレーズとして登場する。それを踏まえると、サビにおける《あなた》の連呼も非常に切実だ。indigo la Endの曲にはいわゆる悲恋を描いた曲が多いが、2人の気持ちが通じなくなった時の悲しみや、恋が叶わなかった時の苦しみが一概に表現されているのではなく、様々な角度から解釈できる曲がほとんどである。“瞳に映らない”はそんな歌詞表現の奥深さが表れた1曲と言えるだろう。

②幸せが溢れたら

《君の幸せが溢れたら少しだけ/許されるような気がしてしまうよ/噂話でも流れるの待ってるよ/微睡みながら思い出す》
結果的に別々の道を歩むことになったとしても、一度情を移した相手のことを簡単に嫌いになることはできない。だから、僕には君を幸せにすることができなかったけど、他の誰かと幸せになってほしいと願ってしまう。勝手だけど、僕の存在なんて忘れてしまうくらいに満たされていてほしいと願ってしまう。アルバム『幸せが溢れたら』(2015年2月リリース)のラストを飾るバラード“幸せが溢れたら”ではそんなことが歌われている。この曲はハッピーエンドなのかサッドエンドなのか。温かい曲に聴こえるのか、悲しい曲に聴こえるのか。その評価はおそらく大きく分かれるだろう。後悔も悲しみも経験しながら、その度に自分をどうにか納得させて歩いていくのが人間なのだとしたら、人生とは、白と黒にはっきり区別できるものではないのかもしれない。

③夏夜のマジック

《今日だけは夏の夜のマジックで/今夜だけのマジックで/歌わせて/今なら君のことがわかるような気がする》
「ひと夏の恋」という言葉があるように、夏特有の開放的な空気にあてられて、熱しやすくも冷めやすい恋に身を委ねたことのある人も少なくないだろう。これまでのJ-POPにおいて、その「ひと夏の恋」はテンションの高いアッパーチューンで、冗談を笑い飛ばすみたいに歌われることが多かった印象。対して“夏夜のマジック”ではチルサウンドに乗せて物寂しく歌われており、それが画期的だった。抜粋したフレーズはサビの一節。《今日だけは》、《今夜だけ》、《今なら》と現時点に限定したワードを重ねることにより、この魔法がそう長く持たないと強調されている。そんなこと、僕はとうに分かっているのだということが強調されている。それがかえって切ない。“夏夜のマジック”のリリースは2015年6月。そこからおよそ4年半の時を経て、TikTokをきっかけに再注目されると、YouTubeにあるMVの再生数が1,000万回を突破した。しかしシングル『悲しくなる前に』に収録されているこの曲、元々カップリング曲だったというのだから驚きだ。

④雫に恋して

《泣けてきたって 伝うまま流れるだけ/温度が変わらないままで/落ち着く場所を探して 明日を迎える》
実際にその画を想像してみてほしい、雫=粒になった液体がその流れを止め、「落ち着く」条件とはどのようなものなのか。それは、蛇口が閉まり、新たな雫が生み出されることがなくなった時。かつ、下り坂と上り坂の間にある谷のような場所に達した時。つまり《落ち着く場所を探して 明日を迎える》とは、悲しみがなくなる(≒蛇口が閉まる)兆候も、傷ついた心が回復する(≒上り坂に向かう)兆候も見られず、ただただ時間だけが経過していったことを指している。――ということは後から考えれば分かるのだが、失恋の悲しみから立ち上がれずにいる人の心情をそう表現する発想がすごい。外的事象(雨ざらしの街を眺める、よそ行きの服を濡らす)と内的事象(一人称の感情)のシンクロも美しく、想像力が掻き立てられる。

⑤心雨

《ごめんね、あなただけ/1人にさせてしまうかもしれない/左心房の炎が少しづつ消えかけてるの》
indigo la Endの曲の歌詞は基本的にどこを取っても美しいのだが、特に歌い出しとラスサビ前は秀逸だと思う。歌い出しには、最初の数行で聴き手の意識を惹きつけるためか、ハッとするような言葉選びが為されていることが多い。Dメロでは、それまで整った表現で綺麗に包まれていたその曲の核心が剥き出しになっていることが多い。
上記のフレーズはメジャー5thシングル表題曲“心雨”の歌い出しにあたる。自分の気持ちが《あなた》から離れていることを《左心房の炎が少しづつ消えかけてる》と言い表している。また、《ごめんね》から始めることによって、その事実に対する罪悪感、とはいえ恋心とは自分の意図では操作しようのないものであることも同時に表現している。

⑥想いきり

《等価交換なんて/火遊びの延長でしょ/許す愛し方/知らないんでしょ》
そしてこちらは、アルバム『Crying End Roll』(2017年7月リリース)収録曲“想いきり”、ラスサビ前のフレーズである。全体的に軽やかなタッチの曲だが、この部分ではギターを筆頭にバンドのサウンドが激しくなり、途端に様相が変わる。そして上記のような真理が歌われている。恋愛における等価交換とはつまり、「あなたのためにやってあげたのに」という感覚で自分の心尽くしに対する見返りを相手に求めること。しかし至らないところ、欠けたところも含めて他者や自分自身のことを受容し、共に落としどころを探していこうと思える関係性こそが「愛」と呼べるのではないだろうか。「完全に○○し尽くす」というニュアンスでの「想いきり」とも、「もう想うのはやめる」という意味での「想い切り」とも取れるタイトルも考えさせられる。

⑦蒼糸

《大なり小なり誰もが間違う/経験とともに恋が下手になる/一番下手になった時こそ/本当に誰か好きになる/幸せか普通かわからない/普通か不幸かもわからない/でも両方あなたがいるなら/糸は吉に絡まるから》
運命の赤い糸ではなかったことを示唆させるタイトルが表すように、またAメロに《起承転結/3文字目半の糸》とあるように、終わり行く関係を歌った曲“蒼糸”。ぼんやりと電車に揺られ続ける《私》は、まるで時の流れに取り残されてしまったみたいだ。
そして抜粋したフレーズはラスサビ前で歌われている。この曲を収録したアルバム『PULSATE』(2018年7月リリース)は、メジャー4thフルアルバムにあたり、それまでにindigo la Endは多数のラブソングを歌ってきている。それにもかかわらず《経験とともに恋が下手になる》と言い切っていること、そのうえで《一番下手になった時こそ/本当に誰か好きになる》としているところがこの曲の最もすごいところだ。「あの人のことで頭がいっぱいだ」という初々しい気持ちから生々しい嫉妬まで、その形は多岐にわたるが、恋は往々にして私たちの心を乱すし、生活にも影響を及ぼす。逆に言うと、心が乱されるということは既に始まってしまっている証であり、「もう恋なんてしたくない」と足掻けば足掻くほど、深く落ちてしまうものである。そんな真理がここでは歌われている。

⑧通り恋

《もう泣いてもいい 乱れてもいい/壊れてもいい だけどあなたを愛してることだけ/歌うよ もう僕らの中に刻み込まれた/一部とはいえ大きな愛を 閉じ込めたままじゃいられない》
アルバム『濡れゆく私小説』(2019年10月リリース)収録曲。歌詞全体から読み取れるように、おそらくこの曲は道ならぬ恋を歌った曲だろう。その上で今回ピックアップしたいのはサビ。《泣いてもいい》、《乱れてもいい》、《壊れてもいい》と「~してもいい」という文体を重ね、段階的に音程が上がっていくようなメロディに乗せてそれを歌うことにより、《僕らの中に刻み込まれた/一部とはいえ大きな愛》が膨らんでいく様子が表現されている。頂点に達した時のファルセットには苦しみ混じりの心情が滲み出ている。3回あるサビのうち、最後のサビに達する頃には《一部とはいえ大きな愛》が《一部とはいえない大きな愛》に変化。《聞かれたら困る話だけど》という自覚とは裏腹に、気持ちがどんどん押さえられなくなっていく様子がそのまま形になったような、狂おしくも美しい曲だ。

⑨結び様

《想いの距離が今 近付き過ぎていたことに/気付いた面が熱を帯びた 火照った心の素/君に見せないように 喜怒哀楽のスロット早回しした》
同じく『濡れゆく私小説』に収録。“結び様”では、「君が好き」という気持ちと「そんなことないはずだ。今なら間に合う、引き返そう」という気持ちの間で揺れる主人公の葛藤がおよそ4分半にわたって歌われている。抜粋したフレーズはこの曲の歌い出しで、一人称が自分の気持ちに気づいた瞬間から、それを隠し通そうと決めるに至るまでの心理が描写されている。“通り恋”同様、この曲もメロディラインとの掛け合わせが絶妙。想いの「も」、火照ったの「て」といった、本来「E」の音に当たる部分がやや低めに歌われていて「E♭」気味に聴こえるのがポイントだ。このように不安定な軌道を描くことにより、メロディラインでも主人公の葛藤が表現されている。そもそも「今ならまだ引き返せる」と思っている時点で既に気持ちがあるという証拠であり、この曲の一人称自身も心のどこかではそれを分かっている様子。スロットのくだりの伏線を回収しつつ、《好きにならなきゃよかった》と繰り返すラストシーンも鮮烈だ。

⑩チューリップ

《赤かった2人は今日で終わって/雪に混じり合った/あなたの望む色になった/ああ、寒いな》
2020年2月に配信リリース。別れたくない、どんな形でもいいから傍に居たいと願う《私》と、どうしてもそれはできないと静かに首を振る《あなた》の別れを歌った曲。《私》の未練が主に描かれるなか、ラストに配置されているのが今回抜粋したフレーズだ。
チューリップには色ごとに花言葉がある。赤いチューリップは「愛の告白」。白いチューリップは「失われた愛」。上記のフレーズからは、かつて愛し合った2人の関係が終わってしまったこと、そして《あなた》の気持ちが既に薄れていたことに《私》が以前から気づいていたことが読み取れる。《私》が独りきりになったことを強調するように、最後に配置された《ああ、寒いな》の呟きもかなり効いている。
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