【10リスト】私たちの心を揺らしたOfficial髭男dismの名歌詞10

【10リスト】私たちの心を揺らしたOfficial髭男dismの名歌詞10
2019年10月にリリースしたメジャー1stフルアルバム『Traveler』がオリコン週間アルバムランキングとオリコン週間デジタルアルバムランキングで1位を獲得。CDとデジタルアルバムが初の同時1位 を記録し、名実ともに令和初のスターと言っても過言ではない存在と化したOfficial髭男dism。ファンクやブラックミュージックを取り入れた小粋で洒落たポップソングに、洋メロをJ-POP的に解釈した美しいメロディ、それに血を巡らせるソウルフルな歌声が世代問わず多くの人々に受け入れられている。さらにリスナーの心を射抜いて離さない要因は、ソングライター・藤原聡(Vo・Pf)の綴る歌詞にあるのではないだろうか。現時点でリリースされている作品のなかから10曲をピックアップし、藤原の歌詞の特色と美学を解明していこう。(沖さやこ)


①愛なんだが…

《「どうせ愛なんか 信じられたもんじゃないから/熱したら焦げて不味くなってしまうから/苦しい思いなんかしたって得しないから/もう愛なんて要らない、一人で生きてたい」って》


インディーズデビュー作である1stミニアルバム『ラブとピースは君の中』収録曲。同曲のミュージックビデオでは高校時代から付き合っていたカップルがメインキャストとなり、彼女が彼氏に愛想を尽かせるというドラマが構成されている。いつもと変わらぬ日常を送っていた彼にとって、突然彼女から抜粋の歌詞のような言葉を言われることは、まさに青天の霹靂。だが彼女にとってそれは突発的なものではなく、ずっと小さい不安や不満が積み重なった結果溢れた台詞なのだ。おいしいシチューも、じっくり弱火で熱せられ続けるとカラカラになって、しまいには鍋に穴が開いてしまう。彼女の気持ちも代弁しつつ、彼女がこう言った原因は自分の行いのせいだと反省し、愛を伝えようと奮闘する主人公の健気さや実直さも光る。


②コーヒーとシロップ

《このカップのふちで僕は/今も飛び込む時をそっと待っている/堪えて堪えて高いところから吐き出す時を》


2016年6月にリリースされた2ndミニアルバム『MAN IN THE MIRROR』収録曲。社会人にとって身近で、大人を示すアイコンでもある「コーヒー」をモチーフに、新社会人の葛藤を描いている。この前まで学生だった若者にとって、苦いコーヒーを飲むためには甘いシロップを入れなければいけない。苦いコーヒーを飲めたら一人前の大人だが、苦いコーヒーを得意げに飲んでいる大人たちに憤りを感じないかと言うと嘘になる。「自分もこんな大人になるのだろうか?」という不安を抱きつつも、早く「ふがいなさのシロップ」を落とさずともコーヒーを嗜めるようにならなくてはいけない――そんな複雑な感情を複雑なまま描き切った曲だ。抜粋部分の歌詞も様々な解釈ができるが、いまにも押しつぶされそうなのにもかかわらず必死に耐える切実な姿は、強く現代を生きる人々にとって「がんばれ」という言葉以上にリアルなのではないだろうか。


③What‘s Going On?

《ねえどうして人は言葉で人を/殺せるようになってしまったんだろう?》


2016年11月リリースの1st EP表題曲。歌い出しから《ああ神様 どうして/生きていく事は こんなに辛い事なんだろう?》などシビアな言葉が並ぶ。学校や会社などの組織内のいじめや、SNSの発達によるインターネットでの誹謗中傷事件など、過激な罵詈雑言はなかなか鳴り止まない。藤原は“コーヒーとシロップ”のように、なにかをモチーフにしてドラマを展開することにも長けている一方、“What's Going On?”のようにストレートな言葉で盲点を言い当てたり、問題提起をすることも多いソングライターだ。底抜けに明るいゴスペル調のポップソングで高らかに《僕らはもう 生き抜いてやろうよ》や《イヤホンつけたら 1人じゃないから》と歌う一方で、《誰にも言えなくてもいいけれど(中略)このままお別れはないだろ》となかなか心のうちを明かせない人々への配慮も忘れない。バンドの視野の広さと度量の大きさを感じさせる。


④犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!

《「ずっとこのままでいようよ!」 ときめかされ続けて早3年/「キャットが絶対可愛いよ!」 熱く語る君のそばに居たいんだ》


2017年4月リリースの3rdミニアルバム『レポート』収録曲。藤原の描くラブソングの特徴として、「年老いてもずっと愛するあなたと一緒にいたい」という気持ちを様々な表現方法で描くことが挙げられる。同曲も昭和の時代から語り継がれている「喧嘩するほど仲がいい」という言葉を、超絶ポジティブな状況へ落とし込んだ楽曲だ。犬派であろう《僕》が、猫派であることを曲げない《君》と生涯を共にしたい。人を愛するとは、自分とは異なる相手の個性や見解を認めること。加えて《死ぬまで喧嘩しよう!》という文言から察するに、「君も意見は曲げる必要はないけれど、僕も自分の意見は曲げないからね?」という想いが込められているのではないだろうか。「お互いの違いを楽しめるようになることが長続きのコツ」という真理をキャッチーに表現している。


⑤異端なスター

《僕らは後ろをついてまわって/照らすライトの1つとなって/それが「人生」 醜いリアルだ》


2017年4月リリースの3rdミニアルバム『レポート』収録曲。“コーヒーとシロップ”と同様に、藤原は弱者や葛藤の渦中にいる人間の立場から言葉を綴ることが多い。同曲では抜粋のとおり「面白くていいルックスの人間がスターで、そこに入れなかった人間は脇役にも満たない、スターを照らすライトのひとつだ」というシニカルな表現からスタート。いきなり醜いリアルを突きつけつつ、サビでは「異端なスターという汚名を着せられたとしても自分らしく生きてみようよ、なにか変わるかもしれないよ」という想いを投げかける。サラリーマンとして順風満帆な人生を歩みながら、バンドという一世一代の夢を追いかけた彼だからこそ出せる説得力だ。《薄っぺらい友情や/寂しさ予防の恋愛があふれかえる街》と世相を斬る描写に滲む反骨精神も小気味いい。


⑥115万キロのフィルム

《クランクアップがいつなのか僕らには決められない/だから風に吹かれていこう/フィルムは用意したよ/一生分の長さを ざっと115万キロ》


2018年4月リリースの『エスカパレード』の1曲目。“犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!”と同様に、「あなたを一生愛していく」という強い愛情を、カップルならば一度はデートや家で観たことがあるであろう「映画」に落とし込んで歌っている。思い出を残す媒体として歌詞に取り上げられやすいのは写真が多いが、それを映画にするところが藤原の異端なところでもありロマンチシズムと言っていい。抜粋部分も《風に吹かれていこう》という気ままで自然な流れのなかで《フィルムは用意したよ/一生分の長さを》という「一生君を守り続ける」と覚悟にも似た気持ちをスマートに差し出したり、《主演はもちろん君で/僕は助演で監督でカメラマン》という、ひたすら《君》に捧げる行為を示すことで愛を伝えていく。「フィルム」というノスタルジックな記録媒体にフォーカスするところに思いの深さが表れている一方、「サムネイル」という現代ワードが入るところもポイントだ。


⑦発明家

《止めないで/反抗期のパレード/列をなしたロボット/禁止や規則で縛り付けてるエセ平和に/誰もが愛想尽かしている》


同曲が収録されているアルバム『エスカパレード』のタイトルの由来は「escapade(=突飛な行動、常軌を逸した行動、いたずら)」という言葉。この曲は抜粋部分を筆頭に《常識のバリケード/ぶっ飛ばしてズバッと》や《風の中にずぶ濡れのまま飛び込んで/ビルに手をかけタワーをこえる》と反骨心をむき出しにする。偉人ともてはやされているエジソンも、結果が出るまではなかなか世間から認めてもらえなかった。《誰もが明日の発明家》や《何度も何度でもつまずくから僕らはジーニアス》と肯定し、世間に蔓延る「当たり前」に警鐘を鳴らすのが抜粋部分の歌詞だ。ブラックミュージックやポップスを自分たちなりに解釈したスタイリッシュなサウンドメイクをする一方、メッセージはロックバンドのように鋭く生々しく泥くさい。そのコントラストはまさに「escapade」とも言えるだろう。《思い出の空席待ちをする気はないから/有無を言わせず過去を超えてく》というラインはまさにその心意気の象徴である。


⑧Pretender

《たったひとつ確かなことがあるとするのならば/「君は綺麗だ」》


映画『コンフィデンスマンJP』の書き下ろし主題歌であり、2019年5月リリースのシングル表題曲。タイアップ作品が華麗に大胆に人を騙し続ける百戦錬磨のコンフィデンスマン(=信用詐欺師)を取り巻く物語のロマンス篇ということで、同曲も「好きになってはいけない人」や「好きになることを諦めたい人」に向けた恋心を歌った楽曲に仕上がっている。《君の運命のヒトは僕じゃない》などの別れを示唆する言葉一つひとつに愛情が溢れ、人間の本能と理性が交錯するなかで、抜粋部分の歌詞は唯一捧げられる愛の言葉。「好きだと言えればどんなに幸せだろうか」という素朴な想いを極限までドラマチックに描いた楽曲と言えるだろう。


⑨宿命

《「大丈夫」や「頑張れ」って歌詞に/苛立ってしまった そんな夜もあった》


「2019 ABC 夏の高校野球応援ソング/『熱闘甲子園』テーマソング」であり2019年7月リリースのシングル表題曲。これまでも“コーヒーとシロップ”や“What's Going On?”など、ヒゲダンの応援ソングに対するスタンスや解釈は、この抜粋部分の歌詞の思いあってこそ作られているのではないだろうか。この言葉に鼓舞される人ももちろんいると思うし、彼らもそういう人々を否定しているわけではない。ただ抜粋部分の歌詞があることで、「頑張れ」という言葉に追い詰められてしまったり、「大丈夫」という言葉の根拠のなさに突き放された気持ちになってしまう人にも気を配っていることが見て取れる。だからこそ、彼らはリアルな葛藤と諦めない気持ちを歌い続けているのだろう。バンドの芯の強さや美学が表れた一節だ。


⑩ラストソング

《今日が終わるのが 悲しいから 朝日よ2度と出てこないでと/時計をぎゅっとつねったら 慰めの音がしたよ/まだ遊びたりないよ もっと歌いたいのにな》

2019年10月にリリースされたメジャー1stフルアルバム『Traveler』のラスト前を飾る楽曲。ライブが終わる瞬間に湧き起こる名残惜しさを素直に克明に描いている。どんな聴き手の状況にも当てはめられることが多いヒゲダンの楽曲のなかでは、とてもパーソナルな内容なのも特徴的だ。だがこれまで広い視野で様々な人の気持ちに寄り添ってきた彼らが、もっと壮大な旅をこの先続けるにあたり、自身の心情を楽曲に落とし込むことはとても意味深い。それが結果的に彼らの抱く気持ちがリスナーと同じであることを明るみにした、彼らの活動の金字塔のひとつとも言える曲だ。《時計をぎゅっとつねったら 慰めの音がした》という描写が、どうにもできない悔しさと悲しさと虚無感を増幅させている。

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