【10リスト】Saucy Dog、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!

【10リスト】Saucy Dog、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
フロントマンの石原慎也(Vo・G)が作る感情の起伏を混じり気なく落とし込んだメロディ、情景や心情をダイレクトに綴った歌詞と、ほのかに憂いを帯びた歌声――それをポップセンス溢れるバンドアンサンブルで届けるスリーピースバンドがSaucy Dogだ。2016年の年末にコンテストのグランプリを獲得して注目を集め、そのソングライティングと歌を重んじたサウンドスケープで多くの人々の心を掴んでいる。だが、秋澤和貴(B)とせとゆいか(Dr・Cho)の加入前には、メンバーが石原のみだったという歴史も。苦悩や葛藤を乗り越えた人間だからこそ、彼らの音楽は隅々にまで信念が貫かれ、我々の胸に迫るのだろう。今回選出した10曲からも、バンドの美学が感じ取れるはずだ。(沖さやこ)

※2022/04/19 更新


①いつか

秋澤の加入から約4ヶ月後にリリースした会場限定盤1st EP『あしあと』に収録され、その後に発売された初の全国流通盤『カントリーロード』に再録されている。2016年12月に行われたオーディション最終審査でのライブパフォーマンス、そこからあまり時間を経たずして公開された楽曲の情景を封じ込めたMVとで、バンドの存在を強烈に知らしめた代表曲のひとつ。バンドシーンにおいても「歌」の重要性を再確認させた、転機の曲と言っていいだろう。《君》と過ごした日々の情景や、時間を経ることで変わりゆく景色を綴りながら、自身の感情を閉じ込めていく歌詞は、明快でありながら非常に文学的。一歩引いた視点で描かれているからこそ、サビの《君の見る景色を全部/僕のものにしてみたかったんだ/あぁ 君を忘れられんなぁ》という心情吐露が胸を打つ。《いつか》という言葉の使い方の多様性も秀逸だ。シンプルなコードワークと少ない音数のなかに、ぬくもりを感じさせるメロディアスなベースラインが光る。

②グッバイ

『あしあと』、『カントリーロード』収録曲。シンプルなギターロックに乗るのは、夢を追う自分自身の姿。《冷たい視線に冷えた心が/風邪をひきそうです》などの生々しい本音や、《いつだって無責任で楽な方楽な方へ/胡座かいて逃げ道探して今》などの自分自身を客観視してシニカルに言い放つ言葉たちなどが、鋭く突き刺さる。それゆえに最後の《描いた未来を創る事に必死に/食らいついてく まだまだやれる筈/昨日までの自分にさよなら》という決意が眩しい。メンバーが自分だけになってもこのバンドを終わらせなかった石原の姿とも重なる楽曲のため、説得力もひとしおだ。

③ナイトクロージング

『カントリーロード』収録曲。《僕の殆どを君が占めていた》というくらい愛してやまなかった《君》との失恋と、それにまつわる後悔が克明に刻まれる。歌詞はシチュエーションを描きながら《僕》の気持ちを表現するだけでなく、《だいたいあなたはいつだって/言い訳ばっかりで嫌になっちゃった》や《「最低なんて言わせないで」》など《君》が《僕》に愛想を尽かした痛烈な理由までも描写。そんなやるせない恋を、軽やかなリズムと滑らかなメロディでもって放つことでユーモラスに昇華する。《君》の気持ちも《僕》の気持ちもわかるなぁ、なんて言いながら失恋話に耳を傾けているような、素朴で身近な空気感。Saucy Dogの音楽が聴き手の心の隙間にふっと入り込むのは、この飾らなさも影響しているのでは。

④真昼の月

2018年5月にリリースされた2ndミニアルバム『サラダデイズ』収録曲。『カントリーロード』リリース後、上京や初めてのフェス出演などのバンドの状況が劇的に変化するなかで制作されたためか、これまで以上に深みが増した作品となった。それが顕著なのはサウンド面。元来彼らが持ち合わせていたグッドメロディはよりしなやかでダイナミックに。それに伴いコードワークも豊かになるだけでなく、石原のボーカルもエモーショナルに。それらが合わさりポップソングへと着地することで、歌詞に綴られた感謝や感傷性を輝かしく色づけている。島根県から大阪に出て、さらに上京をした石原には、地元に住む母の《『大丈夫だよ/きっとあなたならできると信じてる』》などの言葉は、根拠がなくとも救いの「おまじない」として響いた。そんな母への気持ちがまっすぐ書かれた言葉たちは、自分を支えてくれる人々への愛情を突き動かしてきた。《思った通りにいかずに悩んでも/痛みを堪えて明日へ旅立つ》ことができるのも、その決意を固めること自体も、愛ゆえなのだ。

⑤コンタクトケース

バンドマンとしての石原の姿が投影された楽曲の多い『サラダデイズ』で、ひときわ存在感を放つ、スローテンポのラブソング。大きなインパクトを残した“いつか”と比較されがちではあるが、決定的に違う点がある。それは“いつか”が《君》と過ごした日々の情景に《僕》の心情を重ねたものであり、“コンタクトケース”で描かれているのは主人公の心情と現在の生活だ。より感情が近距離で飛び込んでくる。心が空っぽになった《僕》の目の前に広がっている景色は、《僕》の喪失感を一つひとつ浮き彫りにする。ファルセットを多用して辿る起伏の激しいメロディは、《君》を失って揺れ動く感情そのもの。《なぁ教えてくれよ》と歌う石原の声の切なさに、涙腺が緩む。

⑥バンドワゴンに乗って

『サラダデイズ』のジャケット写真は、廃車になった彼らのバンドワゴンに3人がペンキでペイントしたもの。これまで自分たちの足を支えてくれた車に最後の感謝を伝え、新しい世界に旅立っていく想いが詰まっている。その想いを背負っているのがこの曲。ひとりになってもバンドを守り続けてきた石原の本音と思しき言葉が並ぶ。彼が秋澤とせとと出会うことができたのは《なるべく最低な結末は/考えないようにしていたのさ/このままできっと大丈夫と言い聞かせて》のラインに集約されているのだろう。《弱気な事を悟られぬように/不安は口にはしなかったよな》という強がりのスタンスもまた、バンドを守ってこれた要因かもしれない。シンプルなサウンド感が、3人のグルーヴを際立たせる。

⑦ゴーストバスター

音楽を通じて自分の心に従い新たな一歩を踏み出そうとする若者を応援する企画「Follow Your Heart & Music presented by RECRUIT」参加楽曲。《いずれ夢は叶うのか/そんな不安に駆られて》と《周りの声に殺されて僕は/夢を見失う亡霊になり腐ってしまいそうだ》という歌詞は、夢を追いかけたことがある人ならば一度は経験したことがあるはずだ。そんな状況を乗り越える力が沸き上がったのは《お前の言葉で僕は今日も生きてる》から。それまでの石原ならばその感謝を歌にしていただろうが、この曲では最後に《今度は僕がお前を救ってあげるよ》とこれまでにないほどのまっすぐなメッセージを投げかける。この《お前》は曲中の《お前》でもあり、イヤホンやスピーカーの前にいる我々へのエールでもあるのではないだろうか。熱い想いが込められたボーカルが心を震わせる。

⑧雀ノ欠伸

「ありのまま、自分らしくいること」の大切さが随所で綴られている随筆文学『徒然草』を再解釈し、オリジナル楽曲を書き下ろすという、「サントリー天然水 GREEN TEA」とのコラボレーション企画「徒然なるトリビュート」参加楽曲。『徒然草』の要素が随所で織り交ぜられた歌詞は元ネタ探しも一興だ。一方で《できなかった事は大体 先延ばしにしていた事だったり/あの時やっておけばなんて もう後の祭りだったり》など、“真昼の月”で《やる事があるのは分かってる/一番の敵はテレビゲーム》と歌っていた石原らしい「やらない後悔」の描写も。譜割りやアンサンブルなども突飛なリズムも小気味よい。既成概念にとらわれない、まさに「徒然なるままに」が体現された風通しの良いサウンドメイクが爽快だ。

⑨結

自分が恋心を寄せた相手の「昔の人」の面影が覗いた瞬間、ふっと心のなかに陰が宿ることがある。その陰は驚くくらいみるみると不安を食い物にして膨れ上がって、捧げる愛情の用法用量を誤ってしまって……なんて経験をした人も少なくないはず。2020年3月に配信リリースされた同曲は、そんなこじらせた気持ちを丁寧に描くだけでなく、《拙い僕からの思いを/綴ろう 描こう 繋ごう》と強い想いを誠実に綴ったラブソングだ。主人公の恋心がそのまま落とし込まれた歌詞とメロディ、ボーカルに、《君》と《僕》が結んだ手と手のように固く鳴り響くドラムと、ふたりの愛をロマンチックに彩るスマートなベース。楽曲の主人公と、それをあたたかく見守り、包み込んで支える楽器隊が作るこのトライアングルは、ハートよりも愛に近いかたちなのではないだろうか。

⑩シンデレラボーイ

感傷的なのになんだかコミカル。シリアスなテーマをこれだけギミックたっぷりに描けてしまう手腕と、痛みのなかでふさぎ込んでしまっている人々の心にも寄り添えてしまう天性の人懐っこさ。このふたつを両立できるバランス感覚は、このバンドの持ち味のひとつと言っていいだろう。2021年8月にリリースされた5thミニアルバム『レイジーサンデー』のリード曲。石原が初めて女性目線で歌詞を書いた楽曲で、ほかの女性と逢瀬を重ねているであろう恋人への気持ちがせつせつと綴られている。「シンデレラボーイ」は0時を回る前に家へ帰ってくるのに、恋という魔法だけは解いてくれない。だが解けない魔法も所詮は魔法。現実になってくれるわけでもなく、主人公の恋心は少しずつ禍々しさを増していく。これが恋ではないことは気づいているのに《気づかないふりをしてそのまま/騙されてあげていたの》と言い、「いつかこの魔法が現実になるのではないか」という一縷の望みにすがってしまう。理性では制御しきれない感情を「シンデレラ」というモチーフで描く、その発想力は非常に独創的だ。歪んだギターのストロークで涙が滲んでいく瞬間や溢れだす感情を体現するサビに反して、間奏ではどこかおどけたムード漂うアルペジオを奏でるという対極性もアクセントに。聴き手のモードによって受け取り方や解釈が変わる、余白を持たしたポップセンスは、彼らのユーモアと優しさがなければ成し得ない。


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