【10リスト】星野源、音楽と映像へのこだわりと想像力の賜物の傑作MV10本はこれだ!

【10リスト】星野源、音楽と映像へのこだわりと想像力の賜物の傑作MV10本はこれだ!
共同監督としてクレジットされている作品が多数あることからもわかるとおり、星野源はミュージックビデオにおいても自身の表現を追求してきたアーティストだ。とはいえ、それはもちろん単に映像を作ることに喜びを感じているというだけではないだろう。楽曲が生まれた「原風景」、楽曲のテーマの「その奥」、楽曲には描かれなかったその音楽が鳴っている「場所」――彼のMVは、彼の音楽そのものを補強し、拡張する。この10曲の映像に触れて、音楽表現のディープさを改めて感じてほしい。ちなみに、“恋”までのビデオのフルバージョンは、MV集『Music Video Tour 2010-2017』で観られます。(小川智宏)


①フィルム

2012年に2ndシングルとしてリリースされたこの曲は、映画『キツツキと雨』の主題歌として書き下ろされ、MVも映画同様沖田修一監督がディレクションしている。星野が発案したというコンセプトは、ゾンビが普通に存在している世界を舞台に描かれる日常。星野が演じるニュースキャスターという役柄と、そこかしこにいるゾンビの姿が、楽曲に歌いこまれた《わけのわからぬ ことばかりだな心は/画面の事件 どこまでほんとか》、《どうせなら 作れ作れ/目の前の景色を/そうだろ》という世界の見方――あえて言葉にするなら、虚も実も、希望も絶望も入り混じったこの日々をどうやって生きていくかというテーマを、ユーモアを混じえつつ浮かび上がらせる。

②夢の外へ

夜の路上やみんなが潮干狩りをしている砂浜で、スーツ姿のおじさん(ダンスカンパニー「イデビアン・クルー」の井手茂太)が踊り、星野はアコギを弾いて歌う。「見ると体を動かしたくてムズムズするようなMVにしたくて」と星野はコメントしていたが、楽曲の解放感と相まって、観ているだけで楽しくなってくるMVだ。《夢を外へ連れ出して/妄想その手で創れば/この世が光 映すだけ》というクライマックスに込められた思いは、いうなれば星野源の根幹だろう。アッパーな曲調とは裏腹に実はシリアスに創作のいちばん大事な部分をさらけ出すような楽曲のムードとメッセージを見事にポップな映像に仕上げている。監督は“知らない”でもタッグを組むことになる山口保幸。

③化物

アルバム『Stranger』(2013年)のリード曲となったこの曲は、リリース前年に亡くなった歌舞伎役者の故・中村勘三郎氏に向けて書いたものだという。《幕》や《奈落》といったワードが登場するのはそのためで、MVが演劇をモチーフとしているのもだからだろう。とはいえ、書類が山積みの事務机や会議室の長机、登場人物は全員スーツ姿……とあくまで「サラリーマン目線」なのが本質的だし、どこかダークな雰囲気を抱えている映像もそれだけでは済まない重さを感じさせる。春山 DAVID 祥一とともに星野自身が共同監督として名を連ねていることからも、ここにはより彼自身の意思が反映されているはずだし、何よりこのMVの制作後彼が再び病気治療のために活動を休止したこと、そして『Stranger』というアルバムが持っていたある種の「暗さ」を考えると、改めてこの曲は当時の星野源の孤独を映した自画像だったのだと思い至る。そして、このビデオは、はからずもそれを暴露しているように思える。冒頭で星野がマリンバを演奏する姿も印象的。

④地獄でなぜ悪い

園子温監督の同題映画の主題歌として書き下ろされた“地獄でなぜ悪い”。ジャズにモータウン、星野のルーツをふんだんに盛り込んでビッグバンド的に弾けさせるド派手なサウンドメイキングは華やかで、《病室》(この曲は星野が検査入院中に病院で書かれたという)、《地獄》というワードがインパクトを放つ歌詞とのコントラストが際立つ。この詞を完成させた後、星野は病気のために再び活動休止を余儀なくされるのだが、“化物”に続いてまたしてもその状況を反映したような歌詞になってしまっているのはやはり星野源である。そういう状況だったので、MVはまさかのアニメーション。パロディをふんだんに入れたバイオレントな映像は星野と今話題の『映像研には手を出すな!』でもキャラクターデザインを担当している浅野直之によるもの。歌詞の《楽しい地獄》をそのままアニメ化したようなビデオになっている。

⑤時よ

駅員に扮した星野が地下鉄の駅で歌う、キャッチーなMV。ディレクションは“SUN”も手掛けた関和亮だ。“恋”に繋がるようなダンスも見ることができる。ブレイク作となったアルバム『YELLOW DANCER』の1曲目を飾るこの曲の、生きているかぎり《意味もなく》続いていく時間、そのなかで生まれる感情というテーマがストレートに、ポップに具現化されている。サウンドの疾走感を表現するカメラワークやホームアナウンス用のマイクを手に歌う星野の笑顔など基本的に曲調に合わせた明るいムードの合間に、共演するダンサーのマスクや薄暗い地下鉄のホームの雰囲気など、ちょっとグロテスクな要素が入り込んでくる感じがなんといっても星野源らしいなと思う。

⑥恋

“時よ”と同じく関和亮が監督を務めた“恋”のMV。みんな100万回ぐらい観ていると思うので内容については割愛するが、それまでの星野のビデオとは違ってここには「音楽」しかない、という感じが素晴らしい。もちろんチェッカー柄の円形ステージやレトロシックな衣装など見所はたくさんあるが、河村“カースケ”智康/ハマ・オカモト/長岡亮介というライブでおなじみのバンドメンバー、星野が弾く黒いGibsonのES-335、黄色い(イエロー)ダンサーと星野のダンス、このビデオに描かれるのはほぼそれだけだ。人と人との結びつきを歌ったこの曲同様、シンプルでダイレクト。どんどん純音楽的になっていく星野源の姿を体現した名MVだ。

⑦Family Song

60年代のフィリーソウル的な広さと大きさを感じさせるゆったりとしたグルーヴと優しいメロディがなんとも心地よい“Family Song”。NHK『おげんさんといっしょ』そのままの雰囲気が取り入れられたMVは、楽曲のど真ん中のテーマである「家族」をダイレクトに描き出す。高畑充希演じるお父さん、藤井隆が演じる長女、そしてカースケ、長岡、小林創というバンドメンバーもそれぞれ家族の一員として登場。それにしてもこの一家がその後定着して『NHK紅白歌合戦』に登場するまでになるとは……。個性も考え方もバラバラな人間が集まってともに暮らす「家族」という場所に対する星野の愛情と夢が詰まった、素敵な楽曲と映像。吉田ユニによるピンク一色のセットも映える。

⑧アイデア

ドラマティックな楽曲そのものも去ることながら、このMVを初めて観たときはその情報量の多さと展開の多さに驚き、感動した。マリンバから始まり、弾き語りも、バンドも、ダンスも、セグウェイも、ギャグも、そして表現者としての孤独も……つまり星野源を構成する(してきた)すべてがここにあるという気がしたからだ。喪服を着て音を鳴らし、歌い、踊る。それこそが僕たちの《つづく日々》であり、人生だ。過去を弔い明日に進む、そんな星野の意思が全体に溢れている。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』の主題歌としてリリースされた“アイデア”だが、その意味でこれは『POP VIRUS』に至る星野源を総括するようなテーマソングだ。ビデオのディレクターは関和亮。

⑨Pop Virus

ポップ・ウイルスが蔓延した未来の世界。落書きだらけの電車の中で展開する、クールな映像美はちょっとそれまでの星野のMVとは趣を異にするものだ。ドープなR&Bのグルーヴに乗せて「音楽」と「音楽を生み出す自分」を歌うこの曲が抱える濃密な空気感と滲み出る愛が、電車の乗客と笑顔で音楽を奏でるサビのシーンにはよく表れている。そして、それと対比されるように、誰とも交わらず端っこの座席に座っている星野の姿。彼にとって音楽とはどんなものであるのか、ポップ・ウイルスとは何なのか、それに「感染」するとどんなことになるのか。楽曲そのものをダイレクトに映像化したようなこのビデオをディレクションしたのは、気鋭の映像作家・林響太朗だ。

⑩私

『POP VIRUS』とそれを引っさげてのドームツアーの反動ともいえるニューモードが提示されているという意味で問題作となったEP『Same Thing』のラストに収められている“私”。タイトルどおり星野源のパーソナルな部分が色濃く滲み出ている楽曲同様、MVにもまた、ひとりの人間/表現者として佇む彼の姿が映し出されている。光が差す白い部屋で壁に寄りかかりながら呟くように歌を唄う星野。小さな部屋の殺風景な景色、眩しい光と、その光が作る影のコントラストは、『Same Thing』に至った彼の心象風景のようでもあり、そもそも星野源とはそういうアーティストであったという原点の確認のようでもある。落ち着いたトーンの画面に映る星野の顔は、言葉を選ばずにいえばまるでつきものが取れたようだ。ディレクターは注目の若手、Pennacky。
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