【10リスト】椎名林檎、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!

【10リスト】椎名林檎、一生聴き続けられる名曲10はこれだ!
1998年5月、1stシングル『幸福論』でメジャーデビューした椎名林檎。そのメジャーデビュー20周年の記念日に当たる去る5月27日に、これまでリリースしてきた全楽曲がサブスクリプションサービスで配信をスタートした。これを機に、改めて彼女の楽曲の多様性、独自性に触れるとともに、その軌跡をくまなく追ってみてほしい。シングル&アルバムの29作品とデジタル配信曲も含め、全188曲が配信されているが、今回はその中から特に、彼女のソングライターとして、そしてシンガーとしての表現力が突出している10曲をセレクトしてみた。どれも椎名林檎のキャリアを語る上で外せない名曲ばかりだが、それぞれの曲をきっかけにして、各アルバム作品や、シングルのカップリング曲などを聴いていけば、より彼女の作家性と自己プロデュース力の幅広さに驚くことだろう。まずは押さえておくべき名曲中の名曲10選を紹介しながら、その時代性と普遍性をひもといていきたい。(杉浦美恵)


① 歌舞伎町の女王


1998年リリースの2ndシングル。自ら「新宿系自作自演屋」を名乗り、スタイリッシュにソウル、ニューウェーブ、ネオアコ、ヒップホップなど洋楽からの影響を強く感じさせた「渋谷系」ムーブメントへのカウンターを感じさせた1曲。「渋谷系」が意識的に洋楽ルーツを提示してみせたのとは逆に、真っ向から「日本の音楽」に宿る情念を攪拌して浮かび上がらせて見せたのがこの頃の椎名林檎ではないかと思う。“歌舞伎町の女王”は、彼女のその個性を世に広く知らしめた楽曲であった。「歌舞伎町」という町がイメージさせる虚構と現実とが入り混じった猥雑さは、そのまま初期の椎名林檎のイメージと重なる。オルタナティブロックに昭和日本の歌謡テイストを劇薬的に混ぜ込んだ、彼女を語る上で欠かせない1曲である。


② ここでキスして。


2ndシングルから約4ヶ月という短いスパンで、畳み掛けるようにリリースされたのが『ここでキスして。』。“歌舞伎町の女王”という、ともすればアンダーグラウンドなダークヒロイン的なイメージで語られてしまいがちなところを、その匂いは踏襲しながらも、十分にメインストリームで共感を得られるアーティストであることを証明してみせた1曲。思い返せば、この曲こそ椎名林檎が圧倒的なポピュラリティを獲得していく布石だった。愛する人を《現代のシド・ヴィシャス》と歌い、その相手に似合う向こう見ずな自分でありたいと、《今すぐに此処でキスして》と精一杯のわがままを言う。モチーフこそパンクだけれど、そこにあるのは紛れもない純愛。だからこその大ヒットだったと思う。


③ 丸ノ内サディスティック

1stアルバム『無罪モラトリアム』に収録された楽曲であり、“歌舞伎町の女王”
と対で語られることも多い。御茶の水、銀座、後楽園、池袋という「丸ノ内線」沿線の町を歌詞に織り交ぜ、退屈な会社勤めの日々に愛するミュージシャンのことを妄想する日常をどこか退廃的なピアノロックサウンドにのせて歌う。BLANKEY JET CITY浅井健一ファンであることを公言していた椎名林檎だったが、それにしても《そしたらベンジー、あたしをグレッチで殴って》という歌詞は衝撃的だった。“歌舞伎町の女王”が完全にフィクションで書かれた歌詞であるのに対して、“丸ノ内サディスティック”は、福岡から上京した椎名林檎が東京という街に感じていたフラストレーションを淡々とした筆致で描いたものだ。


④ 本能


前作シングルの『ここでキスして。』で、椎名林檎の評価はJ-POPのフィールドで絶対的なものとなった。エキセントリックながらストレートなラブソングが多くの音楽ファンに受け容れられ、続くこの4thシングル『本能』のセールスはミリオンを記録した。自らがナースに扮してガラスを拳で叩き割るシーンが鮮烈なMVは今なお記憶に残る。《もっと中迄入って/あたしの衝動を 突き動かしてよ》と直截的な歌詞も注目されたが、肉体としての「本能」を言葉にしながら、女性の感情や思考に関わる「本能」を描いてみせたこの楽曲は、日本のポップシーンを大きく揺るがせた。椎名林檎の持つ歌謡曲的な叙情性が見事に結実した大名曲である。


⑤ ギブス


『本能』からわずか3ヶ月後にリリースされた5thシングル(同じくシングル『罪と罰』と2作同時リリースだった)。前作とは打って変わって、ピアノサウンドと打ち込みとで構築された哀切を誘うバラード曲である。《明日のことは判らない/だからぎゅっとしていてね》と、書き起こせばシンプルすぎるほどシンプルな恋心が、どこまでも切実にリアルに響くのは、椎名林檎の声が本質的に持つ魅力によるところも大きい。溢れる感情そのもののようで、どこか乾いた痛みを感じさせる声は唯一無比のもの。この“ギブス”が収録されている2ndアルバム『勝訴ストリップ』では、この楽曲の後“闇に降る雨”へと続くのだが、この流れは何度聴いても胸が締め付けられるよう。


⑥ 真夜中は純潔


この7枚目のシングルでは初めて、これまで手を組んできたアレンジャー・ベーシストの亀田誠治と離れ、編曲と演奏を東京スカパラダイスオーケストラが担当している。古き良きビッグバンドを思わせるゴージャスで怪しげなサウンドが、刹那的な享楽を描く歌詞とあいまって、椎名林檎の持つ官能的でダークな側面を、完璧なエンターテインメントとして昇華している。《わたしは只現在 あなたが依々》といった、旧仮名遣い的な歌詞まで、その手ぬかりのない世界観は、その後の椎名林檎の楽曲制作スタンスにも色濃く引き継がれているものだ。彼女の、細部にまで行き渡るセルフプロデュース力は、デビューから3年ですでに相当高いレベルに達していたのだ。


⑦ ありあまる富


2009年リリースの11作目のシングル曲。ドラマ『スマイル』の主題歌として書き下ろされた本作は、編曲・補作としていまみちともたか(BARBEE BOYS)の名前がクレジットされている。アコースティックギターと、ワウが効いたエレクトリックギターのアンサンブルが印象的なバラードで、“ありあまる富”という、資本主義社会、消費社会を思わせるタイトルとは逆説的に、物質やお金や世間的な価値観では計れない「富」が「君」に溢れていると歌う歌詞がとても感動的だ。持っている財産をすべて失ったとしても、「君」の存在そのものが「富」だという、これ以上ないほどの「生」の肯定。こんなに大きなテーマを歌った楽曲なのに、それをこれほどリアルに感じられる耳と心が自分にもあるということ──それ自体が「富」であると思わせてくれる素晴らしい楽曲である。


⑧ NIPPON


2014年にリリースされた14作目のシングル曲は、FIFAワールドカップブラジル大会期から、NHKサッカー関連番組で使用されるテーマ曲として書き下ろされた楽曲。直球のタイトル、勝負に挑む選手を鼓舞するような歌詞、そしてゲーム中の激しい心拍数と並走するかのような疾走感溢れるサウンドと、彼女がこの楽曲に求められたテーマに真正面から衒いなく取り組んだことを感じさせる1曲である。ピッチ上での戦いを表現する楽曲はそのまま日常の勝負の時を思わせ、高鳴る鼓動に寄り添うかのように心を奮い立たせる楽曲となった。ストレートでギミックのないボーカルにベースラインが寄り添い、楽曲はぐんぐんドライブしていく。公式映像のコメントでは楽曲制作に関して「今までにないプレッシャーを感じていた」と語っていた彼女だが、それを微塵も感じさせない潔さも、椎名林檎の才能のひとつだ。


⑨ おとなの掟

2017年、ドラマ『カルテット』の主題歌として制作された楽曲で、主要出演者である松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平が結成した番組限定ユニット、Doughnuts Holeが歌った楽曲のセルフカバー。アルバム『逆輸入〜航空局〜』(提供曲をセルフカバーしたアルバムとしては、2014年リリースの『逆輸入〜港湾局〜』から2作目になる)に収録されている。椎名林檎に楽曲提供を求める声が絶えないのは、彼女の引き出しの多さはもちろんだが、やはり何よりも歌い手の個性を把握し、その歌い手に何をどう歌わせれば表現としてベストなのかを追求する、そのプロデュース力によるところが大きいと思う。弦楽四重奏をフィーチャーし、美しく幻想的な旋律で描く楽曲世界は、間違いなくドラマに沿って構築されたものであり、4人の歌唱によって物語が完成するように作られていた。これをセルフカバーでは歌詞を英詞に変え、完全に椎名林檎の新しい楽曲として成立させているのがすごいと思う。クラシカルであり現代的であり、ジャンル分け不能のドラマチックなポップミュージック。椎名林檎のさらなる進化を見せつけられた1曲。


⑩ 人生は夢だらけ


2016年のかんぽ生命のCMソングとして書き下ろされた楽曲で、CMでは高畑充希が出演&歌唱。アルバム『逆輸入〜航空局〜』の公式コメンタリーで椎名は、「本来の私のマナーというかメソッドからは逸脱して生まれた曲です」と綴っているように、まるでミュージカルレビューのように展開していく歌は、これまでの彼女の楽曲にはないタイプのものであり、真正面から人生の愛おしさを物語る女性賛歌、人間賛歌である。《大人になってまで胸を焦がして時めいたり傷付いたり慌ててばっかり》という嘆息するような歌い出しが、《これが人生 私の人生 鱈腹味わいたい 誰かを愛したい 私の自由/この人生は夢だらけ》という全肯定にたどり着いた時、胸のすくような解放感を味わう。椎名林檎の楽曲に感じる癒し──それは痛みを忘れさせてくれる類のものではなく、むしろ痛みそのものに目を向けさせられて、「大丈夫、たいしたことない」と背中を押されるようなものだ。こうして初期からの楽曲を振り返ってみると、キャリアとともにその説得力が深みを増しているのを感じる。中でもこの楽曲は究極。


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