【10リスト】私たちの心を揺らしたあいみょんの名歌詞10

【10リスト】私たちの心を揺らしたあいみょんの名歌詞10
あいみょんのシンガーソングライターとしての力量は、もはや言及するまでもないだろう。長く耳に残る美しいメロディと、力強さも切なさも繊細に表現する歌声が世代を超えて愛され続ける正真正銘のアーティストだ。そしてあいみょんの魅力を語る時、必ず話題にのぼるのはその「歌詞」だ。インディーズ時代の“貴方解剖純愛歌 〜死ね〜”や、メジャー1stシングル“生きていたんだよな”の頃から、その独自の物語性や、自身の思考を昇華させるような歌詞には突出した表現力を感じさせた。そして作品をリリースするごとに、さらにさらに彼女の言葉は研ぎ澄まされていく。ここでは、あいみょんのこれまでの名曲の中から、特に「歌詞」に注目して聴きたいものをピックアップ。それぞれの曲ごとに作詞家・あいみょんとしての感性と技術についてひもといていく。(杉浦美恵)

※2022/09/22 更新


① 貴方解剖純愛歌 〜死ね〜

《ねえ? どうしてそばに来てくれないの/死ね。 私を好きじゃないのならば》
この楽曲であいみょんを知ったという人も多いはず。字面だけを追うとどこまでも猟奇的なこの歌詞を、ここまでカラッと歌い上げることができるのもあいみょんならではだが、衝撃的な歌詞はもちろんメタファーで、愛する人とともにいられない人生の無意味さを綴る歌詞は、そのおどろおどろしさとは裏腹に、切実で微笑ましささえも感じさせるのが面白い。サビの一番の盛り上がり部分に《死ね。》という歌詞をあてて、ライブで思い切りシンガロングできるように作られているのもいい。


② おっぱい

《揺れるたびに オトナになり/揺れるたびに オンナになる/揺れるたびに 変わってゆく/揺れるたびに 愛おしくて》

揺れているのは「おっぱい」だけではない。思春期に、初めて経験することや初めて抱く感情に、心の奥まで揺れて少女は大人になっていく。ゆらゆらと不安定だけれど、すべての出来事にときめいて、そして気恥ずかしくて、いつしか愛を知る。人生で一度だけ通過するまぶしい季節のことを、「おっぱい」のふくらみに重ね合わせて描いた、あいみょんの隠れた大名作。常々「その時の自分にしか書けない歌を書きたい」と言っているあいみょんだからこその瑞々しさでもある。まだ10代の頃に作った楽曲かと思うと、そのソングライティングセンスの早熟ぶりに改めて驚く。


③ 生きていたんだよな

《「今ある命を精一杯生きなさい」なんて/綺麗事だな。/精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ》
記念すべきメジャーデビューシングル曲。あいみょんの独特な死生観をストレートに綴った歌詞が衝撃的だった。「生きる」ことと同等に「死ぬ」ことがあり、それを選んだ「彼女」は、誰よりも「生きて」いたのではないかと問うような歌詞。あいみょんは、実際にあった飛び降り自殺のニュースを目にして、この楽曲が出てきたのだと言う。だからか、どこかあいみょん自身が「自殺」について、どう受け止めるべきなのかを逡巡しているような歌詞でもあり、それを「良い」とも「悪い」とも結論付けない歌詞には、あいみょんの「正義」ではなく「誠実」が現れている。


④ 愛を伝えたいだとか

《健康的な朝だな/こんな時に君の“愛してる”が聞きたいや》
確かこの楽曲は、冒頭の《健康的な朝だな》という言葉がまず浮かんで、そこから作り込んでいったという話をリリース当時に聞いた。「健康的な朝」という言葉だけで、この歌詞の主人公である男子(男性)が見ているであろうカーテン越しのまぶしい陽の光だとか、「健康的」であることに物足りなさを感じていることだとか、様々な想像をかきたてるのが見事。聴き手のイメージや妄想の余地を残す作詞はあいみょんの真骨頂で、2ndシングルにして、早くもその才能が炸裂している。


⑤ 君はロックを聴かない

《君はロックなんか聴かないと思いながら/少しでも僕に近づいてほしくて/ロックなんか聴かないと思うけれども/僕はこんな歌であんな歌で/恋を乗り越えてきた》
大好きな人に自分をわかってほしいと思うその気持ちを、自分が愛してきた歌を「君」にも聴いてほしいと表現する。あいみょんというソングライターは、イマジネーションを駆使してラブソングを描く、実はどちらかというと作家気質の作詞家でもあるのだが、そこにはやはり「あいみょん自身」の感情や経験も滲んでいるように思う。実際あいみょんのことを知るためには、彼女が触れてきた音楽について知りたくなるし、1stフルアルバム『青春のエキサイトメント』に収録された“憧れてきたんだ”なども同様で、影響を受けた人や背中をおしてくれた歌があって、今の「自分」がある──ということを、あいみょん自身が誇らしく思っているからこその歌詞なのだと思う。

⑥ マリーゴールド

《麦わらの帽子の君が/揺れたマリーゴールドに似てる/あれは空がまだ青い夏のこと/懐かしいと笑えたあの日の恋》
昨年、あいみょんの大躍進を裏付けた5thシングル。麦わら帽子の素朴さを、マリーゴールドの花に喩えたのも秀逸だし、夏の追憶を呼び起こす切ないメロディも素晴らしい。この楽曲で描かれているのが「今まさに恋に落ちている二人」なのか「もうすでに別れてしまった二人」なのか、あるいは「かつての純粋な恋心を懐かしんでいる二人」なのか、どうとでも捉えられる余白がありつつ、そこにはやはり「終わり」がなんとなく滲んでいて、だからこそ普遍的にどんな世代のどんな属性の人にも、その「切なさ」が共有されたのだと思う。完璧なサマーソング。

⑦裸の心

《どんな未来も/受け止めてきたの/今まで沢山夜を越えた/そして今も》
2020年6月にリリースされた10thシングルの表題曲で、あいみょんのシングル曲としては初のバラードであり、ドラマの主題歌にも起用された。楽曲自体が制作されたのは2017年だが、とてもストレートな恋心を綴った歌詞が胸に沁みる。《今、私 恋をしている》とまっすぐに自分の恋心と向き合うサビの「実感」は言葉がシンプルな分、より深く胸を震わすものがあるが、その「実感」をより強く後押しするのが上に挙げた歌詞だ。《どんな未来も/受け止めてきたの》。この短い一節に「恋とは何か」の答えが隠されているような気がする。「過去」ではなく「未来」を受け止めてきたと綴られるこの歌詞。この先、愛した人と幸福に歩む未来もあれば、隣にいることは叶わず遠くから見つめるだけの未来もあるだろう。恋が成就したとしても心乱される出来事が続く波乱万丈の恋愛だってある。人間にその《どんな未来も》受け止めるという覚悟をさせてしまうものこそ、それこそが嘘偽りのない、邪心のない「恋」だ。だからこそこの楽曲は“裸の心”と名付けられているのではないか。

⑧朝陽

《「終電逃して何のつもり?」/って聞かれた恥ずかしさ/期待してないなんて言えないし/というか分かってよ もう分かってよ》
2020年リリースの、アルバム『おいしいパスタがあると聞いて』に収録された名曲。冒頭、意味深な《今日はちょっと早いかもゴメン》からの《私遅かれ早かれ後悔するから》の歌詞の流れで、この歌で描かれる男女の歪な関係性が理解できる。物語へのスピーディーな誘導と言葉選びのセンスはさすが。おそらく今後も実ることはないだろう、女子の一方的な恋心が綴られていくが、《「終電逃して何のつもり?」/って聞かれた恥ずかしさ》という歌詞のリアルさと切なさは図抜けている。というか、フィクションであるのは承知のうえで、この男にムカッと腹が立って仕方がない(笑)。それくらいここで描かれる物語にリスナーを没入させる歌詞なのである。《期待してないなんて言えないし》という女心にも共感してしまうし、《というか分かってよ もう分かってよ》と畳み掛ける歌詞の切実さには本気で胸が痛む。結局この主人公はひとり始発を待つのだが、それでも《ただまだ逢いたい》と思うのだ。あいみょんの物語的な作詞が抜群のリアリティーを感じさせ、たまらなく切ない歌に仕上がっている。

⑨双葉

《君も大人になったら/恋をするんだよ/運命の人に出会うまでは/傷が絶えないかもだけど》
2022年3月に放送されたNHK『あいみょん18祭(フェス)』。そのテーマソングとして書き下ろしたのがこの“双葉”。18歳世代の若者に向けて、彼・彼女らの想いに寄り添い、また自身の10代の頃のことを回想しながら作り上げていった楽曲である。青春時代を駆け抜け、少しだけ人生の先を行く先輩として、悩み多き18歳世代に向け、そしてその頃の自分自身にも語りかけるように歌う、とてもやさしくあたたかい歌だ。まだどんな花を咲かせるのか、どんな実を結ぶのか、未来の姿を想像できない《双葉》は、些細な風にも揺れる。今は淡く「恋」とも言い切れないような想いにも、10代の子どもたちは心を乱されるのだろう。そんな《双葉》たちに向けて、《君も大人になったら/恋をするんだよ》と語りかけ、本当に胸が苦しくなるような恋愛がこれから待っているということを示唆する。そして《運命の人に出会うまでは/傷が絶えないかもだけど》という歌詞にこそ、あいみょんのやさしさが詰まっていると思う。何度も傷つくかもしれない。けれど、それは《運命の人》に出会うまでに誰もが経験する痛みだから恐れることはない──あいみょんの歌声がそう言ってくれているように軽やかに響く。聴き継がれるべき名曲。

⑩3636

《宅配ボックスの5番のとこ/いつもの暗証番号で/閉じ込めてる 2人の思い出/宅配ボックスが開かないのです/私が固く閉ざした/その扉 簡単には開かないのです》

4thアルバム『瞳へ落ちるよレコード』に収録された楽曲。タイトルの“3636”は、宅配ボックスの暗証番号を指す。愛する人と暮らすマンションで、今は心が離れてしまった相手のことを思いながら、もっと自分が女として日々努力を怠らずにいたのなら、今も楽しい日々は続いたのではないかと傷心する姿がその歌詞から浮かび上がる。《宅配ボックスの5番のとこ》は、暗証番号“3636”を共有してふたりで使っていたものだろう。ふたりだけが使う宅配ボックスは何気なくも楽しかった日常生活の象徴であり、それぞれがいつでも好きな時に開けることができるスペースの共有は、互いの心の在りようを表す。かつては相手に対してオープンに開け放たれていた場所(=心)。けれど《宅配ボックスが開かないのです》と続く歌詞に、今はもう相手の心の中に気軽に踏み込むことはできない悲しみが浮き彫りになる。固く閉ざしたのは《私》。2コーラス目では《宅配ボックスの2番のとこ》も開かないと綴られる。ここを閉ざしたのは《あなた》。《宅配ボックス》をお互いの心のメタファーとして物語を紡ぎ上げた、あいみょんの作家性が光る素晴らしい楽曲だ。


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