あいみょんの深まる自信の一発“ビーナスベルト”、「100曲分」の名曲成分を解き明かす

あいみょんの深まる自信の一発“ビーナスベルト”、「100曲分」の名曲成分を解き明かす
あいみょんはすごい。新曲が届くたびに(アルバム収録曲や、シングルのカップリング曲も含めて)、名曲だこれまた名曲だと喜んできたが、キャリア10年、ここにきてのこの瑞々しさの源は一体なんなのだろう。“マリーゴールド”以来の、タイアップを前提としない新曲ということだが、名曲だらけのあいみょんディスコグラフィにおいても、”ビーナスベルト”のクオリティ、楽曲全体、その一分一秒から溢れ出す芳醇な満足感は格別だ。

これぞ王道。これぞJ-POP。これぞスタンダード。最高峰のメロディが、一本の糸のように滑らかに紡がれていく。あいみょんはこの楽曲を、《明らかに染まる》というワンフレーズを思いついたことで、一気に書いたという。
夕陽に照らされた公園の一角、砂場についた足跡、優しさと思いやり、そして相手への好きさが交わる思惑の交感。誰しもの懐かしさと逃れようのない切なさが押し寄せる夕暮れの一瞬──。ほとんど完璧な「物語」である。あいみょんはこのあまりに普遍的な情景を、ワンフレーズから一気に書いた。この素晴らしいメロディを含めて。まるで奇跡のような所業だと思う。あいみょんが育んできた才能がその才覚のすべてを挙げて、この楽曲を生み出すために動き、そして脳内で並べられた言葉と旋律がはじまりから順々に紡がれて、あいみょんの歌を通してまるっと伝達されてくる。その源を探るにただただ神秘的な現象とのこんな邂逅こそ、音楽を聴く喜びだと僕は思う。

よくいう「ゾーン」という言葉で語ることもできるが、それ以上に、あいみょんと音楽の関係がひたすらに深まっている、相思相愛がひたすらに深まっていると語るほうが素敵だと思う。あいみょんに、その「深まり」について語ってもらった。

rockinon.comでは、10月30日発売の『ROCKIN'ON JAPAN』2025年12月号のインタビューから内容を一部抜粋してお届けする。

インタビュー=小栁大輔 撮影=大野隼男


やっぱり、私といえばこれなんだよなって。いわゆる王道のJ-POP。こういう曲を出したいって、常々思ってる

──資料的には“マリーゴールド”以来の、タイアップじゃない形でのリリースという。

盤で言うと、ですね。

──ほんとにいい曲で。

ほんっとにいい曲なんですよ(笑)。自信を持って「いい曲なんです」って自分でも言いたいと思っています。自分の中にはいろんなジャンルの音楽があると思ってるんですけど、やっぱり、私といえばこれなんだよなって。いわゆる王道のJ-POPみたいなイメージは、自分のアーティスト色としては強いのかなと思っているので。こういう曲を出したいって、常々思ってます。

──すごいよね、この曲の王道感。

ね、王道感(笑)。そうなんですよ。

──これはコードを弾いたときに、王道でいけるって思ったの?

いや、もともとは《明らかに染まる》って言葉を思いついて。ああ、めちゃくちゃいい言葉やな、これは何かに使いたいって思って。だから、サビからできた感じでした。《明らかに染まる》って、あんまり使わんなって。

──そうなんだよね、日本の音楽史でも初めて使われた歌詞なんじゃない?

そこからです。王道になるとは思ってなかったですけど、サビのメロディ感はゆったり大きい曲になるのかなって。あとはダーッと思いつくままに、って感じでした。

──《明らかに染まる》って、いつどんなきっかけから出てきたの?

ええっ!? 全然覚えてない。

──家で?

ですね。ほんまにその瞬間「きた!」ってマジで思うんですよ。「この言い回し、ヤバッっ」て。で、作りました。

──《明らかに染まる》の次に、手をつけた言葉はどこ?

ああ、そのままです。《明らかに染まる 君の頬》。歌詞はつらーっと書いていくので。そこからサビができて。私、サビがまるっとできてからAメロを作ることが多いので、次にAメロを作り始めましたね。

──《明らかに染まる 君の頬/泣いたりしたんだろうな 隠せてない》。そのあとに、シチュエーションの描写として、《砂場》が出てくるんだけども。砂場というのがまたいいんだよね。

公園とか、東屋とか、そういうイメージがあったのか──ふたりで近い距離で話してる、みたいな。それで《砂場》が出てきました。呼び出されて、《砂場》に《蹴り飛ばした》《跡》があるみたいな、そんな情景。なんで《蹴り飛ばした》のかとか、そういう《想いを教えて》ほしいなって。《明らかに染まる 君の頬/泣いたりしたんだろうな》って言っているけど、夕焼けに照らされているだけかもしれないし。そこは、自分の中でもいろんな情景があります。

──ただ、この情景はね、《明らかに染まる 君の頬》という言葉がなかったら出てこなかったのかというと、そんなこともない気がするんだよね。あいみょんの中にあった光景なんだろうなと。

だから、こういう言葉を思いつくっていうのは、ほんとに偶然の産物感があって。ラッキーなだけです。そういう言葉を見つけたいと思って、今までもアルバムタイトルやライブのタイトルもつけてきて。そういうアンテナの感度は高いのかもしれないですけど、出てこないときはまったく何も出てこないです。このタイミングでこういう言い回しが出てきたのは、導かれるままに、みたいな。


天才やと思われたいだけなんです。自分のこと、たまに天才やって。じゃないともたない。リリースするかわかんない曲でさえ、「うわあヤバいのできた」ってニヤニヤしてる。それだけでいいんです(笑)

──“いちについて”とこの曲は、ほぼ同じタイミングで作ってたんだよね。

そうですね。ほぼ。今年の5月です。

──対になっているって言うときれいすぎるんだけど──“いちについて”は大きな世界観で、生きとし生けるすべての者へ捧げた曲で、“ビーナスベルト”は公園の一角、砂場で起こった帰り道のいち情景という。その、マクロとミクロの視座の取り方が非常にあいみょんを活かしている。大胆な考え方のシフトが同時期にできているよね。

多重人格(笑)。楽曲は、何者にでもなれる感じがするんです。自分の色はあると思うんですけど、曲で人格は変えられるなって。そこは作詞作曲の楽しいところですね。うわ、ヤバい歌詞思いついた!ってとき、子どもの頃のいたずらっ子精神じゃないけど、ほんまニタニタしちゃう。そういう瞬間が楽しくて曲を作ってるのかもしれないですね。天才やと思われたいだけなんです(笑)。家で自分のこと、たまに天才やと思って。じゃないともたないんで。リリースするかわかんない曲でさえ、「うわあヤバいのできた」って言いながらニヤニヤしてる。それだけでいいんです(笑)。

──曲によって変わる視点の取り方は、自分の中で意識しているの?

いや、特にないです。私にとっては生活っていうものがすごく重要で。自分の生活の中で起きたミニマムなこと、自分の生活の中で起きた大きいことを、曲に分けて消費しているのかもしれないですけど、楽曲を作ること、作詞をすることって、説明できひんものなんだって最近思っていて。瞬間で作ってるから、「どうやって?」って言われてもなあ……自分がロボットやったら説明できるかもしれないんですけど、やっぱ生身の人間なので。よく私が説明するのは、たとえば、今目の前にあるこのペットボトルが、自分のものじゃないって置き換えるだけで情景が変わるでしょ?みたいな。視点を変えたらいいねんけどな、っていう……でも、自分も軸はありつつ、歌い方も作り方も年々変わっていっているからなあ。

──目の前のペットボトルが自分のものではないとする。そうすると、「前にいた人が置いていっちゃった?」「どんな人だったのかな」「取りに来るかもしれないな」とか、想像が膨らむじゃない?でもさ、その視点の取り方って誰かに教わったわけじゃないでしょ?

そうですね。なんでそんなふうになったのかわかんないですけど。

──自分もこの曲についてあいみょんに聞きたいことがいっぱいあるんだけど、それも、「聞きたいこと」に気づくからなんだとしてね。たとえば、この曲はコーラスの存在がとても重要で。王道的なコーラスをきっちり取り入れているのはなんでなんだろうな?って自分なりに考えて、今からそれをあいみょんに聞こうと思っているのね。それも、これまで以上に、王道をいくコーラスがふんだんに入っているという、ある種の違和感に気づかないと出てこない観点だとは思うんだよね。

そうですね。

──それもやっぱり教わることじゃないんだよね。関心と感性というかね。

自分がなんでそういう発想になるのかは、お母さんとお父さんに聞いてみなきゃわからない(笑)。でも、自分が聴いてきた音楽の影響はすごく大きいと思うんですよね。なので、みんなスピッツ聴けよと(笑)。

──なるほど(笑)。

で、コーラスですよね。

──そう。さっき言っていたコーラスの話を聞きたいんだけど。

今回は、アレンジも王道ですし、素直に届けばいいな、コーラスもしっかりハモリまーす、みたいな感じでしたね。難しいことは、特にコーラスではやらない。この曲はイントロが重要で。あそこで気を引いてなんぼなので、中身はお遊びせずに、って感じですね。確かに入れないっていう選択肢はなかったですね。家で作ってるデモ段階から、イヤホンで聴きながら、自分でハモってみたりして。弾き語りに近い曲はバランスを考えますけど、こういう楽曲は、あったほうが伸びやかになるし、厚みも増しますよね。昔はアレンジャーさんが「ここにコーラス入れましょう」って言ってくれたんですけど、今は──特に田中(ユウスケ)さんとやるときは、私がブースに入って、一曲つるっと流して、「ハモリたいところで歌いまーす」みたいな。で、とりあえず頭からハモりを入れるんです。そこから「ここ使いましょう」、「ここは抜きましょう」ってやってます。

──コーラスを自由に気張らずに使えるようになってるのも、最近のあいみょんのモードなんだね。

(アレンジャーとの)関係性も長くなってきましたし、ちゃんと自分の意見を自分の口で言えるようになったっていうのもありますね(笑)。前は自信がなかった。そもそも、作詞・作曲・ギターしかできなかったところにアレンジャーさんがついてくださったので、音楽的な用語もまったく知らない無知が口出すなって思われそう、みたいな(笑)。でも最近は、これだけ活動させてもらってるので、ここにコーラス重ねたら逆に軸ができるんやっていうことも知ったし。そういう知識が少しついたから、こうしてみたい、ああしてみたいって言えるようになりました。

あいみょんの深まる自信の一発“ビーナスベルト”、「100曲分」の名曲成分を解き明かす

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